第十話 私は丸くて膨らんだものが好き
引き続きとある兄弟愛の物語を綴っていこう。
丑光は兄馬男から結婚するという驚きの報告を受けた。
「相手はお前も知っているカスミちゃんだよ」
「そうか、やっぱりカスミ姉さんと兄さんとで行き着くところまで行き着いたわけだ」
カスミと馬男は幼馴染で同じ歳である。丑光にとってはご近所に住んでいるお姉さんである。
馬男がカスミとの恋の話を丑光にすることはほとんど無かった。どうやら人に話すのは恥ずかしかったらしい。しかし二人が昔から仲良しで、今でも男女交際をしていることは丑光も丑光の両親もちゃんと知っていた。
同じ地区に住んでいるお姉さんだったので、小学校へ集団登校する時は丑光と馬男とカスミ、そしてお隣さんのこしのりも皆同じ登校班に属していた。
カスミは丑光やこしのり達下級生にとてもやさしく、明るくて可憐で清楚な少女であった。おまけにスポーツ万能で綺麗に側転とバク転を回ることで学内で有名だった。丑光がジャニーズ以外でバク転をしている人物を見たのはこのカスミが初めてであった。
あと、彼女は結構早い段階からおっぱいがデカかった。丑光は胸より断然尻派であったが、それとは別に単に丸みを帯びて隆起したものを見ると心が安らぐという理由でカスミのおっぱいにはしばしば目線が行きがちであった。コレには皆さんも心当たりがあるだろう。如何わしい気持ちを伴わずとも、例えば丸っこいフォルムのアニメキャラや、こんもりと盛られたご飯、こんもりとした古墳などがそうであるように丸くて膨らんだ物を見るとどういう訳だか心が和むではないか。そういう理由で丑光も筆者であるこの私も女性のその部分には目が行きがちなのである。その行動にいやらしさは皆無なのである。いや、本当だよコレ。
丑光から見てもカスミは確かに器量の良い少女であった。そんなカスミと交際している兄馬男のことを羨ましいと思わないでもなかったが、丑光にはリアルに遥かに勝るアニメ女子を日々愛でる趣味があったのでその辺の欲求はすっかり満たされていた。
「まぁ、いつかは二人がくっ付くと思っていたけど、まさかこうも早いとは思わなかったね」
「うん、それでだね、歳が明けた1月1日に籍を入れようと思うんだ」
「うんうん、めでたい2018年最初の日に兄さん達は夫婦になるんだね」
2018年、そのワードで丑光は例の件を思い出した。そう、ことによると2018年は来ないかもしれないのだ。
「兄さん、2018年1月1日と言ったね……」
「そうなんだ。それでだね、早けれは明日にでも仕込もうと思うんだね。その……娘をね」
「ええ!そいつは気が早くないかい兄さん。それにそこは娘と決まっているんだね」
「ああ、カスミちゃんは女の子が欲しいと言ってるんだ。その辺は兄ちゃんの愛の力を遺伝子情報に反映させて女の子にして見せるさ」
「なるほど……愛の力は性別をも操るってわけだね。さすが兄さん」
「ああ、だからお前は来年には叔父さんになるんだぞ」
「僕が叔父さん……」
「そうさ、兄ちゃんはカスミちゃんを幸せにしてお前を立派な叔父さんにしてみせるさ」
「兄さん……」
彼は幸せ一杯の兄の報告を聞いて、心からその幸せが続いて欲しいと願った。兄の笑顔を自分は絶対に守らなければならない。丑光は兄馬男を父に、カスミ姉さんを母に、そして自分を叔父にする未来のために闘うしかないと揺ぎ無い決心をしたのである。
丑光は湯飲みの中の冷めかけたお茶を一気に飲み干した。
そして机にドンと湯飲みを置いて言葉を続ける。
「兄さん!僕は決めたよ。僕は守りたい人を守る兄さんのことを守る。兄さん、ありがとう。僕は行かなきゃいけないところがある。じゃあ」
丑光は立ち上がり部屋を飛び出した。
「おい丑光、どこへ行くんだ。デザートのコーヒーゼリーも買っているんだぞ」
最後のデザートの話がもし丑光の耳に届いていればスイーツに目が無い彼のことだから、勢い良く飛び出したところをとんぼ返りしてきたことだろう。兄の最後の話が聞こえていなかったのが幸いして、彼は間の抜けた引き返し方をせずにすんだのだ。
家を飛び出した彼が向かった先はこしのりの家である。
こしのりは夕方とはいえまだまだ暑いこの8月に庭に七輪を出して秋刀魚を焼いていた。行き過ぎた便利が蔓延する平成の世に生まれながらも、彼は祖母が嫁に来た時から使っているこの扱いの不便で面倒臭い古い調理器具を扱うことが出来るのだ。
「待たせたなこしのり!僕は確かに臆病者だ!でも、臆病者の中じゃ一番勇気がある男だ。僕はミニスカを穿いてあの巨神兵と闘う」
「最初からお前のことなんて待ってないよ。お前はそういう奴だから逃げないってわかってからな。ほら、穿きな」
こしのりは縁側に置いていた葛篭の中から丑光に反応して強く光輝くスカートを取り出した。
丑光はそれをこしのりから受け取った。
「僕は……僕はミニスカ侍丑光だ!」
丑光は今日もまた穿いているトレパンの上からスカートを穿いた。その瞬間こしのりの時と同様に一際強い光が発せられ、庭全体が一瞬真っ白に見えた。
こしのりは丑光の命名したミニスカ侍の名がとても気に入り、自分もこれからはミニスカ侍の名を使おうと思った。
「誕生しちまったな、最強のミニスカ侍がまた1人」
「さぁ、この調子で残り4人もサクっと見つけて巨神兵を叩き、祝福のスイーツバイキングと洒落こもうじゃないか」
七輪からチリチリと音がして秋刀魚がおいしく焼けている良い匂いがする。
「時にこしのり、なぜ秋刀魚?」
「ああ、コイツはな、室にやるんだよ」
「室……はて、誰だったかな」
「ああ、お前はまだ知らなかったな。実はさ、3人目、もう見つかったんだよね」
「何!」
丑光は驚いて葛篭の中を確認する。
「あっ本当だ!残りのスカートが3枚になっている。こいつは良い具合に事が運んでいるじゃないか。で、その室氏は何処?」
「あっ、しむ……丑光、後ろ」
こしのりは、しむ……じゃなくて丑光の後ろを指差す。
「え、後ろ?」
そして丑光は後ろを振り返った。