第一話 ソガっ子二人
物語の冒頭部分は「走れメロス」とか「雪国」のように皆に覚えられて愛される印象的なものにしたいと物書きなら誰もが思うことであろう。無論私も先人に習って素敵にキャッチーな書き出しを考えだしたかった。しかし、これといって何も浮かばなかった。かつての文豪達のように振る舞いたいが、いかんせん私はまだ若く腕では彼らには遠く及ばないので私は私なりでいいではないかとう結論に帰結したのである。そういうワケでぬるっとナチュラルに物語に入っていこうと思う。ここら辺の事情は是非話しておきたかった。
それではスタート。
時は2017年の下半期、物語の舞台となるはそれなりの数のビルと車と排気ガスで溢れた街ポイズンマムシシティである。この街は皆さんが知るところでいうトーキョーシティみたいな街だと思ってくれたらだいたいは合っている。ただ、大きく異なる点が一つある。皆さんの考えるトーキョーシティにはモンスターが卵を生むのにうってつけとなるようなシティを象徴する赤き塔が立っていることであろう。しかし、このポイズンマムシシティには、その赤き塔の代わりにそれはそれは大きな人間の形をした像が立っている。この大きな像が一体いつからそこにあるのか今となっては誰も覚えている者はいない。巨大な像は街の人々の日々の生活を見守っているようにも思える。
そんなポイズンマムシシティの端の方に立てられたそれなりに立派な家で暮らしているのが本作の主人公にして平成初のナイスガイこしのりである。
「お~い こしのり~ どこにいるんだい?」
皆さんの耳には届くまいが中々ハスキーでお耳に心地よい声でこしのりを呼ぶこのガキは丑光という。こしのりとは極上納豆をこしらえることが出来る程腐った縁で繋がっている。おしゃれな言い回しをしたかっただけで簡単に言うと腐れ縁の仲である。すまん。
良く晴れた日曜日の午後、死ぬほど暇だったご近所さんの丑光は、友人こしのりのお家に遊びに来ていた。
「こっちだよ丑光」
こしのりは、先祖代々の残したあれこれの財産 (といってもほとんどゴミ) が収められた離れの蔵の中にいた。
「こんなところで何をしているんだい。うわっ、埃っぽいな。下ろし立てのラルフローレンのポロシャツが汚れちまうぜまったく」
丑光はオシャレに少々煩いところがある。なんといってもオシャレのしたい盛りの15の少年なのだから。
「何だか急にゲーム会社ソガの生んだ名作テレビゲーム機ソガジュピターの名作シューティングゲーム『デスクリマロン』がやりたくなっちゃってさ。この蔵に閉まったはずなんだがなかなか見つからないんだ」
「ああ、わかるわかる、ローハイド越後っていうポンコツが主人公のゲームだろ。あれってたまにやりたくなるんだよね。それにしても君、やけに説明口調だったが、ゲーム好きの僕らの間でそんなに詳しく言わなくてもゲームソフト名だけ言えば伝わるじゃないか」
「そうだったな。丑光がソガのゲームが大好きなソガっ子ってことをうっかり忘れてしまって変に説明口調になってしまったよ。こしのりうっかさりさん」
「まったくだぜ、はははは」
共にゲーム会社ソガのファンである二人は笑いあう。
「ところで丑光、お前何しに来たの?」
「ああ、今日は学校という牢獄から一時的に解放された休日だというのに全くやることがないんだ。そこで僕の暇を潰すことにかけては天才の君のお力を借りて、こうも退屈な休日を有意義なものにしようと重い腰を上げて出向いてきたわけさ」
「何を言ってる。俺は俺の暇を潰す天才でありお前の暇を潰しているのはあくまでオマケ効果にすぎないよ」
「どちらにせよ君の力を頼りたいところなのさ。学校がある日の朝には今日は休みになればいいのにと思うのに、いざ休みになるとそれはそれで暇ってどうゆうことだろうね。自由は自由を使いこなせてこそ心地良いもので、僕のようにまだまだ自由を使いこなすのに未熟なものはそれなりに拘束された世界で生きる方が合っているってことなのかね」
「長々と何を言ってるんだお前、マゾなのかよ。いいからその暇から抜け出したかったら一緒にデスクリマロンを探せよ」
「そうだね。僕もあのゲームを久しぶりにプレイしたくなったよ。ガンコンはあるんだろうね」
「無論さ、そっちはちゃんと俺の部屋においてある」
妙なテンションの会話を交わしつつ二人は蔵の中にあるとされるゲームソフトを探し始めた。
「……なんだこれは……おい丑光来て見ろよ」
「なんだねこれは」
不思議なことにこしのりが発見した古臭い葛篭の中から強い光が漏れている。
「え、何コレ普通に怖いんだけど、中身は何よ?どうするよ丑光」
「開けるしかないね。今日の謎は今日の内に解いておこう。これ丑光の鉄則!」
「その鉄則を掲げて生きている奴がどうしていつもわからないのをそのままに学校の宿題未提出だなんて失態を犯すんだよ」
「おいおいこしのり、君は相変わらず辛口だな~ それはそれこれはこれさ!」
丑光は葛篭の蓋をつかんだ。
「開けるぜ!驚く準備は出来ているかい!?」
「お前さっきから何なのよそのテンション」
かくして齢15の少年二人は、光り輝く不思議な葛篭を蔵の中で発見したのである。中身は一体何なのか、丑光がうざいテンションで今その蓋を開こうとしている。
つづく