紅✕灰
予感はあった。
そういう危うさを持ってるとずいぶん前から自覚していたし、他人から指摘されることも幾度かあった。破滅衝動とでも呼ぶのだろうか? 高速で回転する機械に手を触れたくなる感覚や、高い所から飛び降りてみたくなる感覚に近い。自身の命が危険に晒される可能性があると知りながらも、越えてはいけない一線を越えてしまいそうな不安感。だから衝動的とはいえ、そのような行動をとってしまったことに対して驚きはなかった。
「ありのままの自分を受け入れてくれる人なんて、この世界のどこにもいないよ。」
そう言われたことを気にしてしまっただけなのだ。その人は正しいと思う。ありのままの人間、特にありのままの僕なんて他人に認められるような代物ではないことくらい分かっている。それでも…と思ってしまうあたりが、僕のダメなところなんだろう。
曰く、本当はどういう人なのかなんてことはどうでもよくて、自分が周囲の大多数の人間に対してどう見えるか、もしくはどう見られたいかであって、そう見られるように振る舞うのだと云う。その人自身がどのような人間なのかなんてことに興味は無く、他人の期待する自分をどれだけ偽れるかが社会生活を営むうえで最も重要なのだと云う。
間違っていないどころか、正しいと思う。否定できない。僕は弱い人間だった。ならやはり、僕の居場所はこの世界のどこにも存在し得なかった。ありのままの自分を受け入れてもらいたいと望んだ僕の存在は、この世界の誰にも認められはしないのだ。誰も僕の存在を、赦してはくれないのだ。
そうして僕は一線を越えるに至り、自分の身体の中から溢れる紅色に沈んでいく。
あたたかい…
冷たい部屋、冷たい世界、冷めきった心、冷めゆく身体。
すべてが冷えて白んでいく感覚の中で唯一あたたかいその色に、僕は最後の、少しばかりの幸福を感じながら、目を閉じた。