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半天使の少女は穏やかな生涯を送りたい  作者: 月代麻夜
第一章 青き巨神の目覚め
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第六話 怒らせてはいけない人

 ギャグ少なめです。



「きちんと荷物は持った?」

「ああ、大丈夫だよ」

「こっちも大丈夫だぜ!」

 ルナの確認に肯定を示すセントとデルタ。三人はそれぞれ腰に武器を提げ、背中に麻の袋を背負っている。

「それじゃ、出発しよっか」

 にこりと、眩しく可憐な笑顔を見せて家の扉に手を掛けるルナ。一度ひとたび見ればたちまち虜になってしまう魔性の微笑みを惜しげもなく魅せる――というかただ単に自覚していないだけ――彼女は、中身が元男などという事実が信じられないほどの美少女っぷりだ。実際、その事は未だルナ本人しか知らないし、言っても誰も信じないような気もするが。

 そんな、状況を考えなければ(・・・・・・・・・)見惚れてしまう赤髪の美少女に、セントは若干引き攣った顔になって問い掛ける。

「あの、さ。……アレ、放置なのかい?」

「うん? 何のこと?」

 こてん、と可愛らしく首を傾げるルナ。思わず赤くなりかける頬をセントは誤魔化すようにポリポリと掻きつつ、視線を部屋の中心――テーブルの前に正座する、彼女に向けた。

「いや……だから、セリアは連れて行かないのかい?」

「セリア、さん? あはは、どうしてあの百合っ子を自由にしなきゃいけないの?」

 笑った声なのに目が全く笑っていない。濁った光の無い金瞳で、ルナは言う。

「ほら、犯罪者に手錠が嵌められるように、危ない趣向の人には枷が必要でしょ? だから、セリアさんにも縄が必要かなーって」

「いや、それは……」

「そう、でしょ?」

 ルナとセントの目が合った。――次の瞬間には、セントは頭が外れそうなほど首を上下させる。

「あはは。デルタさんも、そう思うよね?」

「あ、ああそうだなっ! うん、縛らないとな!」

「よかったー、皆同意してくれて」

 これは果たして同意と言えるか。いや、完全に脅しである。

「だから、さ」

 言いながら、くるりとルナは顔をセリアの方に向ける。

 縄で縛られて正座をさせられ、膝の上に重い石を乗せられたセリアは半泣きで助けを求めようとするが、口に布を噛まされてくぐもった音だけが漏れていた。

 その状況を作り出した本人は、あくまで笑顔を浮かべて――けれども笑っていない目をして続ける。

「暫くそのまま反省していてね? 三十分……ううん、一時間くらい経ったら追ってきて良いから。あ、縄は頑張って自力でほどいてね」

「……それ、無理じゃね?」

「何か言った、デルタさん?」

「いえ何でもないでアリマス!」

 ビシッとどこぞの軍曹風に敬礼を決めるデルタ。その様子にルナは満足そうに頷く。

「……本当は十露盤そろばん板が有ったら良かったんだけど、まぁ仕方ないかなぁ」

 ぼそりと呟かれたルナの言葉に、三人は戦慄する。


 ――絶対にルナは怒らせないようにしよう、と。皆の気持ちが一致した瞬間だった。


   ◆ ◆ ◆


 結局。

 本気でルナが拷問状態で置いて行く気だと悟ったセリアがマジ泣きし始めたので、たっぷり十分ほど嫌味をぶつけたのち、縄を解いて解放してやった。

「ひ、酷い目に合ったわ……」

「自業自得だから」

 ルナはジト目をセリアに向けつつ、彼女の涙を拭ってやる。

 過剰なほどにセリアを罰していたのは、彼女がルナの事を半ば本気で百合の道に引き込もうとしていたからだ。

 いや、別に百合が嫌な訳ではない。今はともかく、元は男だったのだ。相手はむさ苦しい男より可愛い女の子の方が断然良いに決まっている。が、それとこれとは別問題である。

 ――セリアは、度が過ぎたのだ。

 人の目も有るのに秘部に触れてこようとするし、胸は揉みしだいてくるし、耳を甘噛みしてくるし。果てにはキスに発展する気だったのではなかろうか、あの女。

(ああいうのはもっと仲が発展してから……え、いや、発展したら良いの? ううーむ……)

 セリアの見た目は可愛い。それはもう、これ以上ないほどの絶世の美少女だと胸を張って言える。

 が、やはり、ルナの――祐希ゆうきの精神としては、女の子に攻められるより攻めたいのだ。マゾヒストではないので。……別に、サディストでもないが。

「…………うん、この話は置いておこう」

「何か言ったかしら?」

「いや、何でもないよ……」

 解決とはいかず、問題を先送りしただけ。だがまぁ、今はまだ良いだろう。この話題はもっと、仲良くなってからで良い。そもそも、彼女とこの先もずっと一緒にいるとは限らないのだから。

 と、そこで、

「さて、そろそろ出ようか」

 セリアの説教に時間がかったので一度置いていた荷物を、再び持ち直したセントが切り出した。

「そうだな、早く出ようぜ!」

 元気いっぱい、というより楽しみで仕方ないデルタが、はしゃぐ子供のような満面の笑みで言う。ごつい外見でそんな顔をされても違和感しか湧かないし、精神年齢を考えたら若干引くのだが、まぁ気持ちは分からないでもないので何も言わない事にした。

 という訳で、やっとこさ、スタート地点から移動する四人。

「長かった。うん、無駄な時間だった気がする」

「でもRPGって、最初の家はじっくりアイテム探さないかしら? タンス開けて壺割ってたる壊してって」

「それ、手に入れられてもせいぜい薬草か布の服くらいだと思うなぁ」

 あと十ゴールドくらいならあるかも知れない。……この世界風に言えば、銀貨が数枚出てくる、とかだろうか? まだレートがどのくらいか分からないので、果たして銀貨と十ゴールドが同程度かどうかは知らないが。

「あ、オレはさっさと家を出て話を進める派だった」

「うーん、俺はとりあえず家に居る人に話しかけて、その後はすぐに出てたなぁ」

 そこら辺は性格が良く出るものだ。今の話を聞く限り、女性陣はじっくり派で、男性陣はとっとと進める派に寄っているようである。これからの行動も、そこら辺に影響されそうだ。

 雑談はさておき、こうして外に出てまずルナがした事は、周囲を見渡す事だった。

 と言っても、何も珍しいものはない。

 辺り一面、木々が生い茂っているだけ。東西南北の全てが緑に囲まれていて、どこを見ようと自然しか目に映らなかった。

「……ん? 東西南北、全てが木々?」

 正確な方位は確認していないので実質適当に言っただけだったのだが、言葉通りならば問題だ。

 何せ、四人の後方には本来、先ほどまで居た家が無ければおかしいのだから――。

「どうしたの、ルナ?」

「セリアさん……あのさ、後ろの家が無くなっているんだけど?」

「……ああ、そのことね」

 特に驚きもせず、セリアは事実だけを述べた。

「あの家、あたし達が出たら、自動で消えるように設定されていたらしいわよ」

「…………え?」

 なんじゃそりゃ? という顔をするルナに、セリアは女神より彼女宛てに送られてきた手紙を見せつつ、

「あの家、この世界にはまだ無い素材が一部使われているらしいのよ。だから、残しておくのがまずいので、用が済んだら消去デリートってわけ」

「な、なるほど……神様何でもありだね」

 家をポンと出現させて用が済んだら音も無く消す。地味に凄い現象だ。……まぁ、あまり見せ場の無い神の御業だが。

 家という建造物が無くなったここは、もう完全に大自然の真っ只中ただなか。じっとしていては、いつ獣に襲われるか分かったものではないし、虫刺されも酷そうである。

 ルナやセリアの白く綺麗な肌に虫刺されなどあってはならないのだ。すべすべもちもちつるつる肌は一生維持したい。……何気に思考が女子っぽいという事に本人が気付かないのは、前世の姉たちや妹の所為せいで、幼少より肌の手入れの重要性を刷り込まれ続けていたからである。

 因みに野郎はどうでも良い。大切なのは、美少女――中身は男だと主張する自分も含む――が傷つくのはダメ絶対、という事だ。

「という訳で、今すぐ移動を希望する」

「つってもさぁ」

 ルナの言葉に反応したのはデルタ。

 彼は辺りを見渡しつつ、やや辟易した顔で言葉を続けた。

「どこに行くんだよ?」

 そう言えば、どこに行くとも決めていなかった。

 ルナはセリアと顔を見合わせる。

 ややあってセリアがデルタの方を向き、口を開いた。

「まずは人里を目指すべきなのだから、近くの街でしょう?」

「いや、それ、どこだよ? どっちに行けば街があるかなんて、こんな森の中じゃ全く分かんねぇじゃん」

「…………」

 周囲の木々を手で示しながらのデルタの言葉に、セリアは押し黙った。

 そう。今のルナ達の状態は、予備知識も地図も無しに森の中に放り込まれたのである。

「それ完全に遭難するパターンだ……」と引き攣った顔で呟くルナ。

「まさかデルタさんにさとされるなんて……」と失礼な事を言いながら落ち込むセリア。

「あ、オレ、なんかすげえ役に立ってる!」と事実だが妙にイラっと来る事を喋っているデルタ。苛立ちが募ったセリアにすねを蹴られていた。「理不尽!」と叫んでいたが無視。

 と、そんな折。

 この話の間、ずっと放心気味である方角から目を離さなかったセントが、やや興奮で熱のこもった声で言う。

「ねえ、あれ――あの樹を、目指してみないかい?」


 彼の指差す先。

 ちょうど、ルナの右側に位置する方角に、ソレは有った。


「なに、あれ?」

 思わず、と言った調子で呟きを漏らすルナ。

 しかし、それも仕方ないだろう。いや、ある意味当然の反応とも言えるか。


 背の高い木々に囲まれる森の中からでも見えるソレ。

 空を割り、天を穿ち、更に誰にも見えぬその上を目指して幾つもの枝が伸びている。

 何百何千、いや下手をすれば世界創造時から何億何兆の時を経過してなお瑞々しさを失わない幹。

 そして何より目を引くのが、世界を淡い輝きで照らす、黄金を纏った七色の葉。

 もしソレに名をつけるならば、相応しい言葉はただ一つ。


 ――世界樹、と。



 次回も宜しくお願いします。

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