第十九話 五大元素適性者はチートに入りますか?
お久しぶりです。実に五ヶ月ぶりでしょうか。
申し訳ありませんが、今年は死ぬほど忙しいので、気分転換にちょちょっと書く程度の時間しか取れそうにありません。そのため、更新が滅茶苦茶遅くなると思います(もともと遅いとか言っちゃダメです、はい)。……現実逃避で新作投稿するとかいうアホはやらかすかもしれませんが。
なるべく書けるようにはしたいと思いますが……今年は月一で投稿できたら良いペースというくらいなのです。決してエタるわけではありません、はい。
……期間が空いたので、軽くあらすじをば。
女神「はいはーいっ! これまでのルナちゃんの軌跡をこのわたくし、美しく可愛いく賢く神々しい思わず崇めたくなるような正義の女神・アストレアがお送りしまーす☆」
死神「アホさがにじみ出てるから形容詞はほどほどにね~」
女神「黙ってくださいオルクス様。……えー、こほん。女神が天使の管理を怠ったせいで死んだ文月祐希少女は、新たな美少女の肉体を得て異世界『九つの星樹界』に、三人の個性豊かな仲間と共に転生する。だが、彼女たちはゲーム序盤の雑魚相当の兎相手にも死にかける始末。将来を見据えたTS青年セントの提案により、A級パーティーである《黒金の剣》に修行をして貰うよう頼み込むことに。ルナちゃんの精神HPを犠牲になんとか契約は成立し、かくしてそれぞれ一対一の修行は始まった――!」
死神「……キミもきちんと仕事できたんだねぇ」
女神「ぶっ殺しますよ」
筋肉馬鹿ティアモットが強制的に弟子にしたデルタの肩を抱きながら「ガッハハハハハ! 修行と言えば筋肉! 筋肉をつけるためにはトレーニングだ! さぁ我が輩と共にさらなる筋肉を鍛えようぞ!!」と外に出て、アルマとサリストが「さぁルナちゃんのマル秘情報を寄こしなさい今すぐにでゅふふでゅふふふふふ」「とりあえずスリーサイズからいこうか。あ、でもきちんと剣も教えてくれ」などと言いながらセント達が泊まる宿に向かい、サリストとセリアが彼らの様子に呆れながら十分な広さのある場所を探しに外へ出た。
そんな中、ルナと此度の依頼にてルナの師匠となったトルメイは、未だ依頼について話した時の酒場(冒険者ギルドの一階)の一角を占拠していた。
「みんな今日から始めるみたいだし、私達もやろう」
三つ編みにした灰髪を弄りながらトルメイが口火を切る。
修行――というワードを聞いて想像するものは多々あるが、基本的に楽しいものはないだろう。それでは修行にならないのだし。……修行好きとか、自分の体を虐めるのに快感を覚えるマゾヒストさんなら話は別だが。
そしてルナが思いつく修行といえば――。
「滝に打たれる、とか?」
「まだそんな段階じゃない」
真っ先に思いついたことを口にすると、バッサリ切り捨てられた。
じゃあ何をするのか、と首を傾げるルナに、トルメイはビールの入ったジョッキやツマミ類が散乱するテーブルに肘をつきながら、ルナの目をじっと水宝玉の双眸で見詰めてくる。
「最初に訊いておく。赤髪ちゃんは、どんな能力を伸ばしたい?」
「えっと、どんなって言われても……まだ全然分からないんですけど」
この世界に来るまで全く戦闘などしたことがなかったのだ。この世界に来てからも二度兎相手に戦ったとはいえ、それだけでどんな能力を伸ばせるのか、自身がどんな能力を秘めているのか分かるほど天才的なバトルセンスがあるわけでもないので、トルメイの質問には答えようがない。
眉をハの字にするルナに、トルメイは眠たげにも見える表情(恐らくこれが彼女の素だろう)で言う。
「訊き方を変える。赤髪ちゃんは、圧倒的な火力でねじ伏せる攻撃系の魔術師になるか、味方の能力を上げつつ治療なども請け負う援護系の魔術師になるか、どっちがいい?」
「……、魔術師なのは固定なんですか?」
トルメイの提示した選択肢に、ルナは目をぱちくりさせる。トルメイは頷き、
「赤髪ちゃんの才能は完全に魔術師。他じゃ全然ダメ」
「うぐっ……それはつまり、剣士や弓使いにはなれないってこと?」
「うん。絶対無理」
断言され、ルナは項垂れた。……前線に立って華麗に戦う剣士は男の子の憧れなのだ。後方から敵の頭を狙い撃つ弓使いだってロマンがある。だというのにそれらを一蹴されたのだから、どうして落ち込まないでいられようか。
しかし、そう簡単に憧れを諦められるものではない。
「いやでも、やってみないと分からないっていうか、試してみたら案外できるかもしれないというか……」
「無理。無駄。無意味」
「な、なんでそんなにバッサリ!?」
一刀両断どころか三度に渡って切り裂かれ、ルナは涙目で叫んだ。
するとトルメイは、ふぅ、と溜息を吐いて――いや溜息を吐きたいのはこちらなのだが――答えた。
「確かに、試さないでその可能性を否定するのは愚の骨頂」
「ですよね! だから私も剣を――」
「でも赤髪ちゃんみたいな華奢な女の子は、前線で魔物と斬り合うのに完全に向いてない」
「うぐっ!?」
女の子、というところで雷撃に打たれたような衝撃を受けるルナ。
そう。客観的に自身の容姿を見返せば、完全に前衛には向いていない。辛うじて小型ナイフで戦う所謂盗賊や斥候辺りならこなせそうだが、ほとんど筋肉のない非力なこの体で剣士などになれば、たちまち己の武器の重量に振り回されてしまい、戦いにすらならないだろう。
とはいえ、女性の剣士が存在しないわけでもない。例えばアルマだって剣士だ。ならば女性だからといって切り捨てられるのは不当だろう。――この際、自身を女性と認めているところは置いておく。肉体的に女性なのは揺るぎようのない事実なので。
しかしルナと同じく非力系少女トルメイは、僅かな希望さえバッサリと切り捨てた。
「それに赤髪ちゃんは、前線に出ても怯えて動けなさそう」
「うぐぐぐぐぐっ!?」
否定できない。というか雑魚オブ雑魚の角兎相手にすら恐怖し、体が硬直していたのだから。
いや、恐怖はまだ良い。相手はこちらの命を奪う手段を持った獣だったのだから。しかしそれで体が動かなくなってしまうのは駄目だろう。敵を前に恐怖で動けない前衛など、邪魔な木偶でしかない。
「でも私は、前線で戦えないからって理由だけで貴女に魔術師を薦めているんじゃない」
「……どういうことですか?」
後衛であれば弓使いでも(筋力が足らなくて弓が引けないかもしれないという懸念はおいておくとして)よかったはず。その問いに先んじて告げられたトルメイの言葉に、ルナは首を捻るばかりだ。
対してトルメイは、椅子の下に置いていた自分の鞄からA4サイズの紙(恐らく羊皮紙だろうか?)といくつかの小道具を取り出すと、テーブルの上に並べた。
「これは?」
「魔術の適性属性を調べる道具」
ペン先をインクに浸すと、トルメイは慣れた手つきで羊皮紙の上にペンを走らせる。
描かれたのは円。フリーハンドだというのにコンパスを使用した時とほぼ変わらない綺麗な丸を作り出すと、上下左右に何事か文字を記す。それからトルメイは羊皮紙などと一緒に取り出していた小物――紐の通った琥珀色の飾りと革の鞘で刀身を隠したナイフを手に取って、それらを先ほど書いた文字の上へ置く。
「北にタリスマン。南に杖……代わりのペン。東に剣。西に杯……コップで良いか。簡易式でもある程度は分かるし」
「ん? んんん??」
「あとは中心に水を……っと。よし」
「あの、そろそろ説明を……」
全く以てトルメイの作業が理解できないルナは、頭の上で疑問符をぽよんぽよん飛ばすしかない。
「ルナ」
「はい?」
「この中心……私が水を零したところに手を当てて」
「え?」
この行動に何の意味があるのか全く分からないが、彼女はルナの師匠役なのだ。師匠の言にはできる限り従わなければならないだろう。そう思い、ルナは素直に中心に浮かぶ大きすぎてまだ紙に吸われきっていない水玉に触れた。
「……? これ、何の意味が……」
「――来た」
「え?」
ルナが疑問の言葉を零した、直後――まだまだ大きかった水玉が一気に萎んだ。
いや、萎んだのではない。四方へ拡散したのだ。しかも、一部はルナの手をするりと躱し、その上にふよふよと浮き出す始末。
「な、な、なにこれ!?」
「貴女を『真眼』で見た時から思っていたけど……やっぱりきちんと測ると凄い。『火』『水』『風』『地』『霊』、五大元素全てに適性があるなんて。それも、かなりの高水準。赤髪ちゃん……貴女一体、どれだけの才能を秘めているの……?」
馴染みのない超現象を前に目を白黒させるルナとはまた違った驚きをトルメイは瞳に浮かべていた。
「えっと……これ、どういうことですか?」
ルナが手で触れると、紙上の水は四方に置かれたお守り、ペン、ナイフ、コップのところへ吸い込まれるように伸びていった。それだけでも摩訶不思議なことだというのに、一部の水は空中にまで浮いたのだ。科学では証明できない現象――まるで、魔法みたいに。
視線をトルメイへ向けると、彼女は三つ編みにした灰色の髪を弄りながら、おもむろに口を開く。
「これはさっきも言ったけど、魔術の適性を調べる道具なの。あり合わせの道具で補った簡易式だけどね。で、方位とそれに対応する属性、そして属性を象徴する道具を使った簡易魔術なんだけど……」
「え、ええと?」
理論は良いから具体的にお願いします、という思いを込めて視線を合わせると、トルメイは一つ溜息を吐いてから、
「簡単に言うと、杖のところに水が伸びたら『火』の適性が高くて、杯なら『水』、剣なら『風』、お守りなら『地』、宙に浮いたら『霊』って感じ」
「な、なるほど。……うん? でも私、全部に伸びているんですけど」
こてん、と首を傾げるルナに、トルメイは「そう。それが問題なの」と真剣な声色で告げる。
「普通は一つの属性にしか適性はない。良くて二つ、三つもあるのは世界でも両手の指で数えられる程度。でも貴女は五つ全てに適性がある。――しかも、」
トルメイがその細く綺麗な指で宙に浮いた水を指し示し、
「『霊』に適性があるのは本当に珍しい。私が知っている魔術師の中でも一人しかいない」
「それは……」
凄いことなのだろう。けれど、あまり実感が湧かない。
……いや、自分に理解できるように置き換えて考えれば良いのか。
(全部に適性がある……つまりド○クエでメ○ガイアーもマ○ャデドスもイ○グランデもバ○ムーチョもド○マドンもギ○グレイドもジ○ルンバもザ○トロームも使えるようになるってこと? あ、そう考えるとかなり凄いかも)
しかもレアな属性も使用可能ってことは、デ○ン系も使えるってことかな? と考えるルナ。納得の仕方がゲームなのは元男子高校生の宿命である。
「なんか今、無性に貴女に魔術をぶっ放したくなったわ」
「ご、ご乱心?」
「本気で多属性適性者の凄さを貴女の体に教えてあげる。ちょっと外行こう」
「物理で!?」
魔法なので特殊では、という突っ込みは期待していない。それ以前に命が危うい。
掌に火球を生成して今にもルナに向けて撃ち出さんとするトルメイをなんとか宥め賺し、なんとか魔術による制裁を回避するルナ。トルメイが魔術に対して異様なまでの感情を持っていることはいつも魔道書を読んでいたところやサリストに魔術関連のことで語っているところから分かっていたのだから、彼女の前で魔術のことを軽く考えるべきではなかった。
「まったく。……とにかく、貴女は千年……いや、一万年に一人の逸材なの。そこをきちんと理解して」
「は、はい……」
「で、その上で修行するのは一つの属性に絞るから」
「……は?」
それでは全属性に適性がある才能を活かせないではないか。
そう眉をしかめるルナに、トルメイは呆れたように溜息を吐いて、
「理由は三つ。一つ目は、初心者がいきなり沢山の属性を操ろうと思っても難易度が高すぎるということ。二つ目は、私の適性属性的に二つ教えるのが限度ということ。三つ目は――」
トルメイはそこで一旦言葉を切ると、すっと指をテーブルの上へ向けた。
彼女が指し示したのは、先ほど魔術適性を調べた紙。そのうち、この世界の言語で南と書かれた文字の上に置かれたペンだ。
時間が経ったため紙の上に浮かんでいた水が紙に染みこんでしまっているそれを眺めながら、ルナは言う。
「えっと、たしか……『火』だっけ?」
「そう。それが三つ目」
「?」
火属性がどうかしたのだろうか。色々なアニメや漫画で主人公が扱う属性なので、確かに心引かれるものではあるけれども。メ○ガイアー撃ちたい。
首を捻るルナに、トルメイはきっぱりと告げる。
「貴女の『火』への適性は、はっきり言って異常。人間じゃあり得ないレベル。もし貴女が火の精霊だと言うなら、そのまま信じてしまうほどに」
「それは……凄い、んですか? いや、凄いのかな。うん、凄そう」
サラマンダー……火竜の咆哮とかやれるのだろうか、とかアホなことを考えるのはさすがに自重しておいた。魔術の話をする彼女の前で余計なことを考えるのは命の危険があるので。
「つまり、適性の高い『火』に専念するってことですか?」
「あり得ないくらい高い、ね。きっと、何よりもそれが貴女の武器になる」
……そこまで言われると、火属性の魔法を己の代名詞にしたくなってしまう。『獄炎の魔道士・ルナ』とか、フィーリングが格好良さそうだ。……たぶん。後から恥ずかしくなるやつだろうが、元男子高校生としての宿命なのだから仕方がない。きっと。恐らく。
「……よし。分かりました。それでお願いします」
「ん。任された。七日間で、魔術の炎で繊細な焼き菓子が作れるレベルまで育ててあげる」
「……それは別に良いです」
魔術をそんなことに使って良いのだろうか、と思わないではいられないルナであった。
◆ ◆ ◆
四者四様、それぞれA級パーティーに属する冒険者を師匠として様々な修行に励む中、パーティーメンバーの少女を出汁にアルマを釣ったセントは、セント達が泊まる宿の一階にある酒場で、むふふでゅふふと気持ち悪い笑みを漏らしながら去って行くアルマの背中を眺めていた。
「色々言っちゃったけど……あれは、言わない方が良いよね」
アルマにルナのマル秘情報(ルナ本人が承知していないことも多々ある。むしろそっちの方が多い)を提供して剣術を教わった裏切り者……もとい策士・セントは、ぼんやりとした目をしながらそう呟く。
「彼女が……いや、彼が、前は男の肉体を持っていただなんて。――そして、彼の妹が、彼の魂と肉体との属性の乖離を治すために、天魔の力を求めていたってことは」
ふふ、と笑みを漏らすセントは、どこか女性的な魅力を帯びている。この体を手に入れる前は女性だったのだから当然だが、それが線の細いイケメンになると、また違った魔的な魅力を醸していた。
「しっかし……あの事件のせいで俺もあのヤンデレ娘……もとい優莉様と関わる羽目になったのは正直つらかったなぁ。……まぁ、魔術を多少なりとも囓った人間としては、双祖神の眷属たる天魔を生で見ることができたのは良かったと言えば良かったんだけど……」
懐かしむように呟くセントの表情は、どこか苦々しげなものを含んでいる。
「というか、結構大変な事件だったよなぁ。あの後優莉様、愛しの彼の傍にいるために異世界までついて行っちゃったし。……はっ! まさか、この世界にいないよね?」
いないでほしい、とセントは強く願う。せっかく実家に干渉されない(正確にはされにくい)異世界にまで来たのだ。二十年間苦しめられた柵とは本気でおさらばしたい。
姿も性別も変わっているのでさすがにバレないと思うが、万が一セントが四島奈子だと一条家のご令嬢様に知られてしまえば、この自由な異世界ライフはすぐさま過酷な従者生活へと転落してしまうだろう。……実際には、一条優莉は奈子にそのようなことを強要するような性格ではないのだが。
「……はぁ」
最悪の想像を振り払うように一息吐き、セントは思考を切り替える。次に頭に浮かんだのは、今頃トルメイから魔術を教わっているであろうパーティーメンバーの少女だった。
「そういえばルナは、どうして魔術を知らないんだろう? 妹の久美ちゃんも、姉である雷夏さんと括里葉さんも、バリバリ使ってたのに」
というか、とセントは眉を顰めて、
「文月って、《望月崇夜派》の家だよね? 月陰魔女術の総本山じゃん」
セントの言葉に、答える者はいない。
真実を知るのは、文月祐希を知る人間だけなのだから――。
もはや忘れられていると思いますが、セントの前世の名は四島奈子。《天道三大家》の一つ、一条家の分家に当たる家のご令嬢なのです。
……まぁ、優莉との出会いはそれが原因ではないのですが……そこはまたいずれ。たぶん、『ヤンデレ後輩』の方の番外編でやるかもしれません。
ちなみに、優莉が誰なのかと疑問符を浮かべた方は、是非『ヤンデレ後輩と異世界ライフを!』の方も読んでみて頂ければ。別に読まなくても支障はないですけどね。
次回も宜しくお願いします。




