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半天使の少女は穏やかな生涯を送りたい  作者: 月代麻夜
第一章 青き巨神の目覚め
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第十五話 独り言

 前回の私「なるべく次は急ぐようにします」

 現在の私「前回の更新より間隔が開いてるんだけど、急いだって言ったら殴られるかな(ガクブル」


 ……ええ、はい、誠に申し訳ございませんでした。十二月ですね、十二月。十一月がぽっかり空いちゃったぜ畜生っ! まぁ自業自得なんですけどね……。

 そしてまたまたコメディ皆無です。……コメディタグを外すべきか、真剣に悩む時が来たようだ。(どうせ山場越えたら、またコメディに戻るのですが)

 と言うことでシリアスタイム。でも必要なので、悪しからず……。



「吸……血鬼?」

 呆けたような調子で聞き返すルナ。大きな黄金の瞳をぱちくりさせる彼女の横でのんびり体を湯に(ひた)すセリアは、妖艶な()(ぐさ)で口を開く。

「そ、吸血鬼種(ヴァンパイア)。夜闇に(まぎ)れて生き血を(すす)る、不死身の化け物。それがあたし」

 にぃ……と笑う彼女の口元には、白く鋭い牙が覗いている。

 ――にわかには信じられない話だ。そして、何故このタイミングでその話を持ち出したのかも分からない。

「不思議そうな顔ね。ま、当たり前か」

 湯に()からないように上で纏めている銀髪を撫で付けながら、自称吸血鬼は語る。

「あたしが吸血鬼であること……それはね、この体が、そのまんま『セリア』だからよ」

「……どういうこと?」

「ARTの『セリア』。あたしがプレイしていたゲームの、キャラクターの姿なのよ」

「――――」

 言われた瞬間、ルナはその言葉を理解できなかった。

 けれど時間が経つにつれ、じわりじわりと彼女の言葉が脳に(にじ)んでいき――やがて。

「それ、って……つまり、セリアさんの体は」

「ゲームキャラのまま、ってこと。あの女神、楽したいからって流用したのよ、多分」

 ――ルナはARTをやったことがないので、あくまで人から聞いた程度の知識なのだが。

 ART――Arcadia(アルカディア) Tracer(トレーサー)のキャラクターメイクは、自由度がとてつもなく高いことで評判だった。容姿や体格の設定領域の広さもさることながら、種族、職種、スキルといった選択項目もそれぞれ大量にある中から選べたらしい。勿論、種族や職種ごとの制限で選択可能スキルが違う、などということもあったが、それでも幾億通りのキャラメイクが可能、と大々的に宣伝するほどには豊富であったようだ。

 話を聞く限り、セリアが選んだのが恐らく吸血鬼種(ヴァンパイア)だったのだろう。そして、ゲームのキャラクターメイクという手段によって……つまりは人工的に整えられた外見だというのなら、セリアの並外れた美麗さも納得できる。――まぁ実際のところ、他三人も()()ではあるのだが。

「そりゃ、ゲームのポリゴンと現実とじゃ全然違うし、細かいところの修正は掛けられているけれど……胸とか完全にリアル寄りにされているけれど……でも、大きくは変わっていないわ。それは勿論、外見だけじゃなく、能力まで」

「能力って……え!? ゲームで使えた力が、こっちでも使えるってこと?」

「多分ね」

 言って、セリアはおもむろに腕を湯から上げる。血行の良くなった白い腕に水滴が浮かび上がり、彼女の持つ魔性の如き艶めかしさが(あら)わになるが――それをルナが堪能する間もなく(もとよりその気も……それほど、ないのであるが)、セリアは()()()()()()()()()()

「ちょっ――」

「落ち着いて、見て」

 突然のセリアの奇行にルナは声を上げかけるが、しかしセリアが先んじて抑え込む。銀髪の吸血鬼種(ヴァンパイア)はじっと腕の傷口に浮かぶ(あか)(たま)見つめ、やがてそれが腕を伝って(こぼ)れ始めた頃、彼女は朱を引く唇を開いた。

「――真祖の血を(もっ)て刃と()せ。形状(タイプ)短剣(シーフ・ナイフ)

 セリアの呪文(ことば)が、術を紡ぐ。

 命の源たる血液がうねりを打ち、まるでそれ自体に意思があるかのように浮かび上がった。渦を巻き、足りない分は更に傷口から供給して、またうねって合流し、――それを幾度も繰り返していき。

 やがて、液体だったソレは、固体へと変化する。

「……初めてだったけれど、案外上手くいくものね」

 彼女の手の中にあるのは、鮮血が形作った一振りの短剣。――吸血鬼種(ヴァンパイア)の力で生成した、血製武装(ブラッドウェポン)だった。

「セリア、さん。それは……」

「あたしの……というか、『セリア』の種族である吸血鬼種(ヴァンパイア)に備わる能力、血器術(ブラッドオーダー)よ」

 ――その名を耳にした瞬間、ザザざザざ、と五感が乱れたような気がした。

 狂う、乱れる。頭がぐわんぐわんと揺れて、おかしくなりそうだ。

 だから――口にした言葉は、恐らく無意識だったのだろう。なにせ、自分には理解できないものだったのだから。

「……、それって、【血】の魔術だよね。もとは西洋の吸血鬼が編み出した祓魔術師(エクソシスト)に対抗する手段だったけど、エクワード=フィーンエンドによる近代式魔術体系の確立により、異世界に流れたっていう。……でも確か、()()にはまだ資料が残っていたような……正道黒魔術には登録されなかったはずだし、月陰魔女術の方かな?」

「え? る、ルナ?」

「――――ぁ、え?」

 ()()()()()()()()()()饒舌に語っていたルナは、そこでふと、我に返った。

「私、今、何を……?」

「大丈夫……? もしかして、のぼせちゃった?」

 心配げな表情をしたセリアが顔を覗き込んでくる。けれどルナは、彼女の目を見返せず、ただ虚空をぼんやりと見つめていた。

(なんか、最近、変なことが多いなぁ……おかしな夢を見たり、知らないことを口走ったり。……いやまぁ、異世界転生したり性転換したりって、十分おかしな体験をしたから、夢や独り言くらいはまだマシなんだろうけど)

 そう考えると、それほど問題でもない気がしてくるが、しかし気になるところではある。が、今考えることでもないだろう。

 ルナは問題を先送りにし、苦笑しつつセリアを見返す。

「あはは……そうかも。ちょっと話も重かったし」

「そうね……うん、お風呂でする話じゃなかったわね。前世の話はまた後日にしましょう。できれば能力の話はしておきたかったのだけれど……それは今度、落ち着いた時にでもしようかしら」

「そうだね」

 やや力のない笑みを返して、二人は湯から上がった。

 リラックスするはずだったお風呂タイムは、何故かとても、疲れが溜まった。


   ◆ ◆ ◆


 やや青みがかった美しい三日月を、宿の個室に(しつら)えた窓からぼんやりと眺めながら、ルナは「あぁ、この世界の月は地球とさほど変わらないんだな」と呟いた。

 太陽も一つで、明るさは変わらない。違うのは星の配置と、文明と、種族と、魔術や霊素術という超常的な力くらいか。それも、もしかしたら、地球と変わらないのかもしれないのだけれど。

(……なんでだろ。魔術も吸血鬼も、地球には存在するはずないのに)

 けれども自然に『あるかもしれない』と思ってしまったのは、先ほどの自分にも理解できない独り言が関係しているのか。分からない。けれど、気になって仕方がないのだ。

「……はぁ」

 溜息を一つ零し、ルナはベッドに腰を掛けたまま、自身の体を見下ろした。

 ほどよい膨らみを持った胸が、寝間着代わりの麻の服(道中で寄った服屋で安いものを購入した)を押し上げている。セリアほどの絶壁でもなければ女神アストレアほどの()()()でもない、平均より少し大きいかな……というサイズではあるが、それでも女性の象徴であることには変わりない。

 そして、トイレの際に何度も確かめているけれど、股間にも手を伸ばす。

「んぅ…………、ない、んだよね」

 十七年お世話になったモノは無く、代わりに割れ目の入ったソレが()った。

「はは、は……性転換、かぁ」

 セントのように心から望んでいた訳ではないから、今までずっと、戸惑ったままだ。けれど、それどころでない事態に陥ることが多々あったためにじっくりと向き合うことはできなかった。ならば、今こそ現実を直視する時かもしれない。

「でも……」

 気付かないうちに、だんだんと順応し始めていることも、ルナは感じ取っていた。

 異世界という文明差のある場所にいち早く慣れるために、それ以外のことに気が回っていなかった、というのが大きいだろう。多少の違和感を無視して、目の前の重大な問題だけに目を向ける。正しいといえば正しいことなので悔いる訳ではないのだが……しかし、ふと振り返ると、自身が女性になっているという異常事態に対して、戸惑いこそすれ最初以外(ほとん)ど感情を波立てていないという事実は、心にくるものがあった。

 ――自分は女になって、嬉しいと思っているのか?

 否。別に、嬉しい訳ではない。男のままの方が楽だったろうし……、いや、どうなのだろう。前世でも『男扱い』された覚えが数えるほどもない……つまり完全になかったので、よく分からない。正直、男でも女でも変わらないのでは? という想いがどこかにあった。

 ただそれでも、十七年間過ごした体から変わるのは違和感があったし、寂しくもあった。一度死んで、新たな人生なのだから仕方がないとはいえ、寂寥感は(ぬぐ)い切れない。

「……この体」

 セリアは、ゲームの時の体だと言った。見慣れたものだから、違和感もそれほどないと。

 けれどルナは、一度も見たことのない、完全に初めての肉体だ。

「なんというか……」

 鏡は、ルナたちのスタート地点――(すなわ)ち女神が用意したあの家に取り付けられていたもの以外にこの世界ではまだ見かけていないので、今世の姿は一度しか確認していない。しかし、その時に見た自分の容姿は、たとえ一度しか見ていなくとも決して忘れられないほどのものであった。

 美醜で言えば、完全に美。ただし可憐系なので大人っぽくは見えないが、鎖骨周りやスカートとニーソックスの間に覗く太もも、所謂(いわゆる)絶対領域というやつは、少女には過ぎた危ない色香を持っている。腰まで届く長い深紅の髪は艶やかで、(こん)(じき)の瞳と合わさると、まるで絵画に描かれる天使の如き尊さを(かも)し出していた。

「美少女……なんだけど、それが自分ってのも……うぅーん……」

 正直、美少女を愛でるならともかく、自分が美少女になってもあまり嬉しくない。自分を愛でる、というのもナルシストみたいで嫌だ。

 けれど、せっかくの可愛さを潰してしまうのも勿体ない。というか、セリアが許してくれそうにない。

「……で、でも、着飾るのは……ちょっと、ほんのちょっとだけ……楽しそうだし」

 最初に着ていた服――長袖ブラウスにミニスカート、そして黒のニーソックスという、どこかの男の趣味を詰め込んだようなものを思い出し、少しばかり頬に熱を(のぼ)らせるルナ。それは、若干の期待と興奮……つまり、自分を着飾るのが楽しみという、女の子の心が現れていた。

 ――なけなしの男子力が、圧倒的な女子力に塗り潰されようとしていることに、ルナはまだ気付かない。




 次回でやっと、シリアスさんが去ってくれるような気がします。……あくまで予定ですが。

 あと、『ヤンデレ後輩』の方も読んで下さった方がもしいらっしゃったのなら突っ込まれそうなので、先んじて言っておきます。……まだこの頃は、太陽は一つでした。

 次回も宜しくお願いします。


 ……ちなみに、執筆ソフトを変えたので、微妙に文章が変わっていたりします。

 例えば「あたしはルナちゃんとエロい事……もとい、キャッキャウフフな事がしたいのよ!」と書いていたところが「あたしはルナちゃんとエロいこと……もとい、キャッキャウフフなことがしたいのよ!」になりました。他にもちょびっとだけありますが、それほど変わっていないと思います。

 気にせずお読み頂ければ幸いですが、もし読みにくく感じてしまったら申し訳ありません。

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