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半天使の少女は穏やかな生涯を送りたい  作者: 月代麻夜
第一章 青き巨神の目覚め
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第十話 天命に導かれし聖者

 ギャグって難しいなぁ……。



 ルナの「私は男だ」発言は、ただのジョーク扱いで終わった。解せぬ。

 特にセリアの場合、

「ふふふ、ルナちゃんはちょっと活発なところもあるのね~。う~ん、そこがまた可愛いわ♪」

 と言った感じで、もの凄く微笑ましいものを見る目を向けられた。正直ルナにとって、これが一番精神的にキツイ言葉であった。

 まぁ、それはともかくとして。

 冒険者登録は続く。

「……はい。これで必要事項の記入は終了です」

「おろ? ラノベあるある、ステータス検査とか無いのか」

 意外といった調子で呟くデルタ。

 記入項目が氏名、性別、年齢、種族、出身地の五項目だけという少なさだったので、てっきり異世界物の小説でよく見かける特別な魔法道具的な何かでも使って精密にデータを取るのかと思っていたのだが、そういう事はないようだ。そもそもの話、ステータスという概念が存在するのかという時点で怪しいのだが。

 恐らくステータスを表示して「こ、この魔力値は……ッ!」とか「このレベルでこの攻撃力だと⁉ 有り得ない!」とかやりたかったのであろうデルタは不満そうに唇を尖らせている。ゴツイ系イケメンの拗ねた顔など誰得なのでルナ達はスルーする気だったが、営業理念的に説明しなければならない受付嬢は誰得顔のデルタににっこりと笑い、告げる。

「ええ、そういったものは二大国の首都にでも行って調べてきてください。もっとも、魔術ギルドかれい術ギルド、もしくは王家の伝手がある王侯貴族にでも頼めるほどの金が無ければ難しいでしょうが」

「うん無理だそれ」

 知らない単語がばかすか出てきて混乱気味プラス、どう考えてもこの世界に来て二日目の異世界人には不可能な条件を提示されてすっぱり諦めの言葉を零すルナ。一応(見た目が完全に美少女だとか口調や態度が女の子だとか言われるが、誰が何と言おうと)男子高校生であったゆうはそういったゲームっぽい現象に憧れを密かに懐いていたので内心残念でならないが、まぁいつか冒険者稼業を続けているうちに金を貯めて、調べる事もできるだろうと信じる事にする。

「で、他に何か登録に必要な事とかあるのかしら?」

 逸れていた話を戻し、続きを促すセリア。受付嬢は「てっきり俺SUGEEE! できると思ってたのにィィイ!」と悔しがるデルタから視線を外して足下――恐らく受付窓口の向こう側に引き出しか何かがあるのだろう――から一枚の書類を取り出すと、セリアに手渡した。

「こちらが冒険者ギルドのルールとなりますので、同意してください。これを破った場合、特別な理由がなければ大抵が契約の取り消しか、後でお渡しするギルドカードの一定期間使用禁止となりますので気を付けてくださいね。……まぁこのギルド馬鹿ばかりなので、心構えみたいな書き方になってますけどねー」

 笑顔でさらりと毒を吐く受付嬢。この人、ストレス溜まっているのだろうか……いや闇が深いのか……謎である。

 ともあれ、渡されてもセリアは読めないのでサリストにパス。渡されたサリストは苦笑しつつも読み上げてくれる。

「ええっと……冒険者ギルドのルールは以下の三つである。

 一つ、ギルドに逆らうな。

 一つ、冒険者同士の揉め事は基本的に自己責任だが、暴力行為、恐喝等は処罰対象となる。

 一つ、依頼主といさかいが発生した場合、基本的にギルド員の味方に付くが、明らかにギルド員に非がある場合、その処罰は重いと思え。

 以上のルールを守る限り、冒険者ギルドは貴方を冒険者ギルド所属の正規冒険者として認め、援助を惜しまない。

 ……だ、そうやで。こんなんボク、すぐに忘れてしまいましたが、別に真っ当な倫理観持ってるんやったら問題ないんですがねー」

「それが難しい馬鹿どもが多いんですよ。……さて、同意しますか?」

 問われ、勿論頷くルナ、セリア、セント、デルタ。酷く馬鹿扱いな冒険者だが、現在これ以外に道が無い――ように仕向けられている気がするが――ので、同意しないという選択肢は無い。

「さて」

 四人が肯定したのを確認し、受付嬢は一度顔を伏せる。ややあって、前を向くと同時に、彼女は花が咲かんばかりの満面の笑みを浮かべて、


「天霊樹のいただきを目指すどうしようもないくらいに馬鹿で勇敢な阿呆ども。ようこそ、冒険者ギルドへ! 貴殿らの溢れんばかりの我欲を満たす至高の宝を手にする日まで、その儚く矮小な命を落とさぬよう、我ら冒険者ギルドは全力で貴殿らをサポートします!」


 ――後で聞いた話だが、この台詞は相手を選んで口にするらしい。……当たり前か。


   ◆ ◆ ◆


「皆さんは、四人でパーティーを組むんですか?」

 ギルドカードが出来上がるまで暫く時間がかかるそうなので、されていなかった細かい説明を聞きながら時間を潰す事になったルナ達。ある程度説明し終えた頃、受付嬢がそう問いかけてきた。

 パーティーというRPG脳を刺激される単語に、デルタがいち早く反応する。

「パーティーって、〝くろがねつるぎ〟みたいなカッケーやつか?」

 後ろで控えていたA級パーティー〝黒金の剣〟のリーダー・アルマが、その蛍光ピンクの髪をフサァ……と掻き上げてキメ顔をしていたが、全員がスルーして受付嬢の言葉を待った。

「そうですね、どうして問題児……もとい変わり者で有名……いえ、キチガイばかりの厄介度A級パーティーが、こんな天使のようなとその愉快な仲間達を連れてきたのか私的に気になりますが、それはともかく、まぁ形的にはこいつらみたいな四~七人程度の冒険者グループの事ですね」

「あれ、A級ってそういう意味だったの⁉」

「いや普通にパーティーメンバーの平均レコードがA級なだけなんですが」

 口元を引き攣らせながらもツッコミを入れるサリスト。だが声を荒げて受付嬢の暴言を否定しないところ、彼も己のパーティーへの評価を事実だと認めざるを得ないと思っているのかも知れない。……黒狼を一瞬で倒した時は格好良いと思ったが、残念過ぎるこのパーティー。

「つか待って、愉快な仲間達って……もしかしなくても、俺達の事かい?」

 暴言が多すぎてさらりと流されそうになっていた言葉を拾ってツッコむセント。しかし受付嬢はにっこりと笑い、

「ええ、ルナさん……いえルナ様という至高の天使と、その愉快な仲間達……いえ下僕の方が良いですかね? まぁそういう役割なんでしょう、ぶっちゃけ」

「ふっ、違うな! オレことデルタ様のハーレムパーティーだぜ! あ、セント、テメェは駄目だ。たとえ元女でもな」

「いや今は男だから君のハーレムに加わる気はこれっぽっちも無いよ。むしろ作る側だよ」

「そもそもアンタなんかのハーレムに加わる可能性は皆無よ。気色悪い。……あと、あたしはルナちゃんを愛でる会だから、そこのところよろしく」

「……なにこのメンバー。まともな人って私だけなの……?」

 男子でありながら家庭環境と生来の気質ので完全に女の子と化していた自分の事を棚に上げて嘆くルナ。つまるところ、まともな人間などここには存在しなかった。

「……まぁとりあえず、貴方達四人でパーティーを組むのは間違いではないのですね?」

 無駄な主張合戦を続けていても収拾がつかないと判断した受付嬢が、そう結論付けて訊いてくる。『デルタ・ザ・ハーレムパーティー』だの『天使ルナと優雅なる三騎士』だの『麦わらの一味(誰も麦わら帽子は被っていないが)』だの『日本帝鬼軍(鬼が関係しているのはデルタだけだが)』だの言いたい放題だった四人は一度黙ると、顔を見合わせてから頷いた。

 それから一番パーティーを作る事に積極的だったデルタが問い掛ける。

「で、パーティー名を決めるのか?」

「まぁ自分達で名乗るだけですけどね。B級以上になるまで、特にギルド側に登録したりはしませんよ」

 細かい説明の時に受付嬢から聞いた話だが、冒険者のランクというのは、一人一人の()()()()()()()レコードという()()(じん)の戦闘記録に基づいて決まるらしい。それを測定する道具は大きめの冒険者ギルドには必ずあるとのこと。

 勿論本部であるここにもあるので、試しに四人は測ってみたのだが――。

「全員Eですね。最低ランクです」

「だと思った」

 セント以外、つのうさぎの一匹すら殺していないのだ。当たり前である。

 まぁそれは良い。後々上げていけば良いだけの話。

 今注視すべき問題は、

「パーティー名、どうする?」

「〝アルティメット・ギャラクシー・ブレイバーズ〟! もしくは〝聖龍騎士団〟!」

「厨二病なデルタさんの案は却下ね。ここは可愛らしく〝フェアリーガーデン〟とかどうかしら」

ゴツイ鬼(デルタ)と俺には果てしなく似合わないからちょっと遠慮したいかな……。せっかく皆、元日本人なんだから、〝日ノ丸〟とかどうだい?」

「ふっ、それじゃダサいぜセントさんよぉ。〝魔を統べ闇を喰らう者ダークイーター・インペリアル〟とか〝やがて神へと至る勇者デミディヴァイン・ブレイバー〟とか〝覇を唄う英雄の旅団ステイト・ハジェモニー・ブリゲイド〟とか、粋な名前にしようぜ」

「それのどこが粋なのか疑問に思うけれど、訊いても碌なものじゃなさそうね」

「いいや粋だ、コンプリートリーティーにカッケーだろ! オレ的には〝最終戦争の指揮者ザ・ハルマゲドン・コンダクター〟とかもポエッティかつセンセーショナルで良い感じだと思うんだが」

「……ああこの人、意味を知らないまま『何となく格好良い』で外国語を使ってるのね。駄目だこりゃ」

 呆れるセリア、キメ顔で厨二脳を炸裂させるデルタ、無難なものに落ち着かせようとして誰にも取り合ってもらえないセント。

 なかなか決まらない上に、このまま議論を続けていても変な名前に決まりそうな気がしたルナは、後ろで控えている先輩冒険者に良い案が無いか訊いてみる事にする。……と思ったら、さっきまで後方で控えていたはずのサリストが居なくなっていた。

「あれ? サリストさんは?」

「飽きて他の冒険者に筋肉を自慢しに行った阿呆とテーブル一つ陣取って突如魔術式の改良研究を始めた魔術中毒者を回収しに行ったわよ。まったくもう……だから問題児って言われるのよ」

 そう言って、〝黒金の剣〟一番の問題児・アルマが溜息を吐いた。受付嬢の「お前が言うな」と言わんばかりのジト目が突き刺さるが、当の本人はそれを無視してやれやれと首を振るばかりだ。

 この人に訊くのは性格というか頭と言うか、そこを考えると遠慮したかったが、とりあえず訊くだけ訊いてみる事にする。

「アルマさん達は、どうして〝黒金の剣〟というパーティー名になったんですか?」

「あ、聞きたい? ふふ~ん、良いでしょう語って聞かせてあげましょう!」

 妙にテンションが高くなったアルマに、「これろくな理由じゃないかも……」と思い始めたルナ。だが一応、参考になるかも知れないので、耳を傾ける。

 聞く体勢になったルナに、アルマはにやりと笑って、

「――私の剣の名前が、黒金の剣だから」

「…………」

 安直かつ取り立てて自慢もできない理由に、どう反応して良いのか分からないルナ。しばし考えた後、

「……あ、もしかしてその剣、一族の宝剣とか?」

「え? 近くの露店で銀貨五枚ぽっちで買った安物」

「…………」

 期待した自分が馬鹿だったようだ。

 肩を落とすルナに、しかしアルマは珍しく苦笑を浮かべる。

「でも、大体どこもそんなものよ? せいぜいメンバーに縁があるものか、私達みたいに外見的特徴か、後は小さい村とかが出身だったらそこの名前とか? ああ、メンバーの名前をもじるってところもあったわね。頭文字を組み替えても良いかも」

頭文字イニシャル……ル、セ、セ、デの四文字だと……良いのが無いなぁ」

 そう簡単には思いつかない。第一、自分の名前すらも他人にゆだねたルナが、これから自分だけでなくセリア達も背負うパーティー名をスパッと思いつけるはずがなかった。

 う~ん、とうなるルナ。隣でぎゃあぎゃあセリア達も議論しているが、なかなか決まらない。

 と、そこで、きらーんと星がまたたくようなキメ顔を作ったアルマが、

「〝セルデセン〟……ってどうかしら?」

「ええと……意味は?」

 格好良いともダサいとも取れない微妙な名前が唐突に上がり、とりあえずその由来を尋ねるルナ。するとアルマはにやりと笑い――あ、これ碌なもんじゃないや、と悟ったルナ。だが――。

「ふふふ……なんと新大陸ことカリストロ大陸の古い言葉で、セルデセン――正しくは『セル=ドゥエ・セイント』ってやつがあってね? 聖書にってる意味だと、『天命に導かれし聖者』って感じらしいのよ。で、セルデセンは時代の変化と共になまった言葉。どう、良い感じじゃない?」

 予想していたよりもしっかりした理由があって吃驚びっくりするルナ。まさか戦闘力が高いだけのただの変態だと思っていた彼女が、他大陸の古語など知っていたとは。……いや、適当な事を並べているだけではないか? と少し疑ったところで、サリストが問題児二人の首根っこを引っ張って戻ってきて、口を挟んできた。

「ああそれ、リーダー、よう知っとったな。確か……二千年くらい前やったかな? セル=ドゥエいう人物がおってな、そいつが聖者セイントになって、神のめいに従って魔王を討った伝承から来てるんですわ。他にも複数意味があるんやけど……『魔をはらう者』とか『苦しみを解放する剣』とか、まぁほとんどが良い意味やで」

「おぉ……なるほど。アルマさんもサリストさんも物知りなんですね!」

 素直に感心するルナ。キラキラした顔を向けられた二人は、少し照れ臭そうに頬を掻きながら、

「いやまぁ、ボクは故郷ですからね……ははは」

「あはははっ。いやぁ、まさか適当なこと言ったら、本当の事だったとはね~」

 ……。

 …………。

「………………え?」

「………………なんやて?」

 口元を引き攣らせる二人に、しかしアルマは笑いを噛み殺しながら――それでも抑え切れず腹を抱えて言う。

「くくくっ……いやね? ()リア、()ナ、()ルタ、()()ト、でぴったりだったから、適当にそれっぽいこと言ったんだけどさ~、まさか本当にあるとは。ふふふふふ、もしや私、歴史学者にでもなれるのでは? いやぁ自分の才能が怖い~」

「…………」

「…………」

 とりあえず一発、殴っておいた。


   ◆ ◆ ◆


「……それで、パーティー名は結局、何に決まりましたか?」

「〝セルデセン〟!」

「ちょ、デルタさん、本当にそれで良いの⁉」

 ちゃっかりアルマの話を聞いていたデルタが、本当にそれで決定する気になっていた。

 良いのかと問うルナに、デルタはにやりと笑い――あ、これ碌でもない、といつかと似たような考えをいだく。

「まぁあのねぇちゃん(アルマ)は適当に言ってたけど、意味自体は実在するんだろ? じゃ、良いんじゃね? 『天命に導かれし聖者』って、なんかカッコイイし!」

 多分、最後の一言が最大の理由だろう。彼の判断基準は『格好良いか否か』なのだから。

 だがまぁ、〝魔を統べ闇を喰らう者ダークイーター・インペリアル〟や〝やがて神へと至る勇者デミディヴァイン・ブレイバー〟みたいな厨二ネームになるよりは、この世界に実在する言葉の方がずっと良い。

 そんな訳で、四人のパーティー名は、〝セルデセン〟となった。


 ……そもそもルナもセリアも冒険者になる気は無かったはずなのだが、そこら辺、そろそろ抗議させてもらっても良いだろうか?



 壮大なサブタイトルですが、つまりはパーティー名の事です。

 そしてその名前を聞いて、「おや……?」となってくれると良いなぁ……。

 次回も宜しくお願いします。


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