上司から指示が出ました
「さて。ではお前の改造については姿かたちは大きく変えない。肉体強化優先。クリティカルが蹴りで発生したことから下半身強化優先、ではないのか。肉体強化は全身満遍なくが希望だな?」
「イーッ!」
確かに初めてのクリティカルは蹴りだったが、今後は手刀で首ちょんぱもあるだろう。いや、パンチかもしれないが。
とにかく、下半身だけに強化を限定する必要はない。NINJAは全身凶器でござる! にんにん。
やはりNINJA……ええい、面倒だ忍者といえば、自分だけの術を一つ持たねばなるまい。下級戦闘員、つまり私は下忍。下忍は中忍や上忍の命ひとつで使い捨てにされる立場だ。故に他者には決して口外せぬ、独自の秘術をひとつ極めている。それが命綱なのだから。
そして術を知られることは命を失うことに等しい。知られれば返し技を編み出されるのは世の常よ。故に術は秘匿する。使うはすなわち、これ必殺。
ううむ、おっさんの浪漫回路がぎゅんぎゅんまわってるぞー。
光あるところに影がある。ふふ、私も名もなき忍者の一人になるのだ。影一族でもいいけどね。
「他にも何か希望はあるかも知れんが、現状できることはさして多くない。できるようになってから考えてもよかろう」
おっと、浪漫に浸っているうちに博士は手続きをしてくれていたようだ。上司に対してこの対応はちょっと申し訳ないな。反省。
「さて、ではお前の改造を始めよう、といいたいところだが。無理だ」
「イッ?」
「改造にはエネルギーストーンが必要だ。そしてお前の改造……先ほどの2体のような下らぬランクダウンならいざしらず、本格的に強化改造をするためには絶対的に足りん」
ああ、なるほど。確かにあの程度の手間でどんどん改造できたら、今頃太陽の子とか影の月さんがごろごろしてそうですもんね。そりゃそうか。
「そこでだ。お前はこれまで同様にダンジョンでエネルギーストーンを集めよ。そのうち半分をわしがもらう。残り半分を使ってお前の改造を進めていくことにする。それ以外はお前の自由だ」
「……イーッ」
ここは承諾しておこう。半分取られるというのはでかいが、おそらくこのあたりも含めての転属リスクだ。先ほど見たように、転属願いがまだ受理されていないというのもまずい。しかし、それ以外の行動について自由な裁量権をもらえるというのは、デメリットを加味してもおいしすぎる。何か裏があるのか?
「ほう。……なかなか計算が働くようだな。渋るかと思ったが、指揮官型の特性がうまく働いた結果か? まあよい。ついでに言っておくが、特に含むことはないぞ。下級戦闘員の1体がどのように動こうとも、わしにも組織にも影響はないということだ。お前が面白い変化を見せれば興味がわく、その程度だな」
どうやら考えが顔に表れていたようだ。
そうですよねー。私がいなけりゃ会社が回らない! なんて意気込んでみても、実際休んでみたら普通に回ってるんですよね。価値はあっても、代替の利かない価値を持つってものすごく難しい。
目の前のマッドサイエンティストさんは、それをわかった上で、自分の価値を最大限利用する人だわ。ひょえー、怖い。
「ではせいぜい励むがいい。ああ、転属願いも通ったようだな。わしの部隊の詰め所は両隣だ。お前は……この研究室を出て左に向かえ。では、わしが忙しくないときにまた顔を出すがいい」
うーん、あっさり。これ以上はお邪魔できない雰囲気だけれど、わからないことがあったらどうしよう。というか、わからないことだらけだよ。頼りになる01番02番はホストとして桃色の園に旅立ってしまったし。
「わからんことは詰め所の端末を使え。ほれ邪魔だ。さっさと行け」
「イ、イーッ!」
あ、これはこれ以上ここにいても相手にされないな。仕方ない、なるようになることを祈ろう。
さて、そういうわけでやってまいりました詰め所でございます。隣といっていたわりには優に10分は歩くというトラップは突破してまいりましたが、扉の前でちょっと緊張。特に認証システムはない模様。ううむ、今になってあの二人のありがたみが身にしみる。手続きがこれであってるのかさっぱりわからんが、悩んでもわからんもんは仕方ない、突撃だ!
「ああ、博士から連絡はもらってるよ。コマンダー03だね?」
詰め所に入って、真っ先に声をかけてくれたのは、でっかいカメレオンさんでした。
「あたしのことはキリって呼んどくれ。見てのとおり、カメレオン型怪人さ。妹ともどもよろしく頼むよ」
「イーッ!」
怪人……? 人という要因がまるで見えないが、つっこみはやめておこう。
まず先輩に対してはしっかり挨拶。これ基本。カメレオンに話しかけられた程度では驚かない。それに私は間違いなく下っ端だろうしね。
しかし、妹とは?
「妹ってのは、この子さ。ほれ、ご挨拶しなさい」
キリさんがその2メートルほどはある体を動かす。なお尻尾も含めれば全長4メートルほどだろうか。尻尾は背中の上で丸まっているので正確なところはわからないが。
キリさんの陰で寝そべっていたのだろう人影が立ち上がる。
身長は150センチなさそうだ。小柄な、人間で言えば中学生か高校生くらいの年頃に見える、黒の地毛に白いラインがはいった、リスっぽい怪人さんだ。かわいいな。
「サキ。スカンク怪人。よろしく」
はい、攻撃方法はもうわかりましたー! 大方、怪人になってその能力も大幅パワーアップしてるんでしょ。恐ろしい。
「正確にはゾリラ怪人だけど……みんなスカンクと間違えるから、もう、そう名乗ってる」
それはかわいそうに。だが、攻撃方法は変わらない以上、あまり関係ないような気もする。アイデンティティの問題だから何もいわないが。
「イーッ!」
なりは小さくとも先輩だ。しっかり挨拶しておこう。おっさん、年下の上司もいたしね。
「じゃあ、あんたの寝床と端末の使い方を教えるとするかね。あたしらも仕事があるから、悪いがあとは自分でやっておくれ」
いえいえ、そこまでやってもらえば大満足です。捨てる神あれば拾う神ありとはこのことか。
心機一転、がんばってみよう。
怪人の定義とは何なのか。