拠点設定
暗闇の中、走る人影。うなる剣。飛び散る血。上がる悲鳴と怒号。
皆さん、こんばんは。実況怪人、コマンダー03です。
現在、時刻は真夜中を過ぎたあたりと思われます。ただ今、このどこかわからない山中において、冒険者と思しき一団と盗賊と思しき集団が死闘を繰り広げております。
冒険者は5人でしょうか。現在は出入り口に前衛4人で半包囲網を敷き、根城と思われる洞窟から出てくる盗賊たちを次々屠っております。5人目の魔術師らしき人物は後ろに油断なく控えてますねぇ。
こういう場合、出入り口を押さえられたら中に引きずり込むしかないんじゃないかなと思うんですが。
「撤退だ、撤退しろ!」
おおっと、遅れながらも盗賊もその判断をしたようです。
お、冒険者うまい。逃げる盗賊にぴったり追走する形で洞窟内に踏み込んでいきました!
弾除け兼道案内ですねえ。
せっかくの静かな夜が台無しになったのは仕方ないので、これをうまく生かすとしよう。
盗賊を倒して帰還する冒険者についていけば、街道や街へたどり着けるはず。
そう思っていたのですが。
「下がれ、下がれ、くそっ!」
なにやら様子がおかしい。
洞窟から転げるように吐き出されたのは、先ほどの魔術師。そして剣を構えつつ、冒険者2人が退却してくる。そして次に出てきた冒険者は……。
「ぐあっ!」
あ、やられた。死体になって転がり出てきました。合掌。
そうしてゆっくりと姿を現したのは、身長2メートル近い大男。片手斧を二刀流で装備している。鎧も革鎧だが、なかなか上質そうだ。
ボスか。それとも用心棒か。ちょっと冒険者の皆さんは事前情報の収集が足りなかったみたいだな。別働隊とか、後方に連絡要員がいるとかないのか、これ。
戦闘が始まる。
2人がかりでなんとかボスを押しとどめようとする冒険者だが、力量が少々違いすぎる模様。勢いよく振り回される2丁の斧の前に防戦一方だ。魔術師が魔法を唱えるが、それもかわされてしまう。
補助系の魔法でも持ってないのかね。
何合かの打ち合いの後、冒険者の一人が革鎧の上から肩に斧を叩き込まれる。
鎖骨が折れたな、あれは。戦闘不能だ。
そこからは一方的な殺戮となり、あっというまに冒険者3人の死体が出来上がった。
「お前ら、ねぐらを変えるぞ、急げ!」
ボスが洞窟の中に向かって叫んでいる。
「団長、死体はどうします?」
「時間がねえ、裏手のやつらと合わせて全員だと思うが、他にも仲間がいたかも知れねえ。ほうっておけ!」
裏手のやつらか。なるほど、冒険者は二手に分かれて襲撃を仕掛けたのか。そしてこのボスは両方を返り討ちにしたと。
おそらく、最初は裏手のほうで戦ってたのだろう。だからこちらに対処するのが遅れたわけだな。
ボスがてきぱきと指示を出している。
盗賊の割にはずいぶん統率の取れた動きだ。あれか、軍人崩れとかか。
さて。
物語の主人公であれば、この戦いに介入してイベントフラグがぴこーん! と立つのだろうが、あいにく私は怪人。そしてただのおっさんである。
宣言しよう。私はただの通りすがりの旅人である! よって何もしない!
ストーリーが進まない? 知ったことじゃないね。はっはっはっは。
盗賊たちも荷物をまとめて立ち去り、あたりに再び静寂が戻ってきた。
そろそろ私も出発しよう。
頭上を見上げれば満天の星空。
足を踏み出せば、サクリと草を踏む音がする。
サクリ、サクリ。
この足音が私の旅の道連れだ。
サクリ、サクリ。
サクリ、サクリ、サクリ、サクリ。
朝日が顔をのぞかせたころ、小川の流れはだいぶ緩やかになり、水量も増え川幅も広くなってきた。
途中でいくつかの渓流が流れをあわせ、もう小川と呼ぶのは適当ではなくなっている。
「橋か。街道に出られたな」
視線の先に、川を垂直に横切って橋がかけられている。川に比べて橋の幅、つくりともずいぶん立派だ。そして街道も広く取られている。
さすがに石畳ではないか。ローマ帝国のように街道をすべて石畳で整備するなど、よほど力のある国家でなければ無理だろう。ダラムの街を思い返すと、大通りは石畳で整備されていたな。それぐらいが普通なのだろう。
さて、街道に突き当たったわけだが、右に行くか左に行くかそれが問題だ。どちらに進んでもいつかはたどり着くだろうが、できれば近いほうがいいんだが。
そこに遠方から、荷馬車の車輪が地面をかむ音が聞こえてきた。
耳を済ませてみれば、左方向から荷馬車はやってくることがわかった。
決めた。左に進もう。
のんびりと歩き始める。しばらくしたところで荷馬車とすれ違い、またしばらくすると別の荷馬車とすれ違った。
どうやら当りを引いたな。
次第に行きかう荷馬車や旅人の数が増え、頻繁にすれ違うようになる。
やがて行き着いたその街は、もはや街ではなく都市と呼ぶのがふさわしい規模であり、見るものを圧倒する威圧感あふれる城壁に囲まれていた。
「はえ~」
おっさん、田舎者丸出しである。
まあ事実田舎者だからね。そういうことは見栄を張る気はまったくないのだ。
城門もでかいが、中もでかい。ダラムの街も栄えていると感じたが、こことは比べ物にならないな。
気配遮断を全力で使っているためか、あるいは人ごみの故か、こちらに注意を払うような視線は感じられない。まだ太陽は中天にもかかっていない。今日はこれから半日、じっくりとこの都市を見て回ることにしよう。
日が沈み、城門が音を立てて閉められていく。
間に合わなかったものたちは城門の前で一夜を明かすのだろう。ぎりぎり間に合ったものたちは一様に安堵の表情を浮かべながら、足早に通り過ぎていく。
半日かけてみて回ったが、正直まだまだ全容はつかめたといいがたい。都市と思っていたが、訂正しよう。ここは大都市だ。
城門を入ると、まず目に入るのが大通りの左右に立ち並ぶ大店だ。それぞれ食料品や衣料、鉱石や木材など取り扱う品はそれぞれだが、特徴的なのは、城外から運び込まれたものはすべてこれらの大店に飲み込まれていくことだ。入り口は馬車をそのままつなげるようになっていて、店員らしき人々が汗水たらし、すごい勢いで荷卸をしている。そして荷物はどんどん奥へ運ばれていくのだ。
人々の熱気がすごい。
これらの大店が問屋というか、商業ギルドというか、そういう存在なのだろう。
そして大店の前を通り過ぎると、小売店が軒を並べる区画に出る。
先ほどの大店からおろされた商品を扱っている。しばらく眺めていたが、どうやら販売専門らしい。いろいろな店に足を踏み入れては観察していたのだが、買取をしている場面を一度も目にすることがなかった。買取は大であれ小であれ、大店の役割のようだ。横紙破りをすると、もう商品を一切卸してもらえなくなるに違いない。
小売店の区画の先には宿屋や酒場があった。歓楽街だな。おそらく少し裏手に回れば、売春宿なども並んでいるに違いない。そこまでは確認に行かなかったが。
そして歓楽街の先には広場があり、その先には城壁がある。外との境界ではない。都市の中に城壁があり、居住地が区切られているのだ。おそらく、身分の高い者たちが住む場所なのだろう。
面白いのは広場を右手に進むと一番奥に闘技場が、そして左手に進むとやはり一番奥にダンジョンの入り口があることだった。
都市の中にダンジョンの入り口があるということを知って頭に思い浮かんだのは、怒りの塔の門前町だ。
もともとダンジョンがあり、その所有を主張する国家が管理のためといって作ったのがこの都市なのではないのだろうかということだ。可能性はそんな低くないと思う。
それにしてもすんごい都市だ。
ここなら情報収集にはうってつけだろう。
できれば文字の読み書きも覚えたいところだが、それはついでだな。
とりあえずはこの邪魔な海神様の鱗を売り払って、当面の軍資金としますか。




