変態2
ステータスを確認しようとすると、頭の中のイメージ画像いっぱいに同じ文字が表示された。
【変態が可能です! 変態が可能です! 直ちに変態を開始してください!】
なぬ、変態。
いやちょっと待て。変態ってのはあれだろ。幼虫が蛹になるとか、蛹が成虫になるとかだろ。
おっさん変態しちゃうの?
それはちょっと……一応、人間形態のままでいたいんだけどなぁ。
【変態が可能です! 変態が可能です! 直ちに変態を開始してください!】
あーうるさい。変態をしないとステータス画面すら表示できないらしい。
これは仕方ないな。
まったく、常に状況に流され続けているなぁ。なんて愚痴っても、それを飲み込めないほど子供じゃない。ここはおとなしく変態するとしよう。
Yesボタンをぽちっとな。
【変態を開始します。エネルギー不足に備え、裸体の上にエネルギー体を用意してください!】
おい! そういうことははじめに言っておけ! なんだこの行き当たりばったりどたばた感は!
……いや、秘密結社らしいといえばらしいのか。
すでに自分は素っ裸。ちょうどいいので、袋にしまおうと思っていた海神様のエネルギーストーンに加え、ドレスに包んでいたエネルギーストーンを全部取り出し、横になった自分の腹の上に山を作る。
これでいいのか? ひどく適当だが……。
そう思った次の瞬間、意識がぶつりと途切れ、暗闇の中へ落ちていった。
「へぇ~、それが03番の?」
画面の向こうには、懐かしい02番の顔が映っている。
これは、この感覚は。
前にも経験したあれだ。卵のときの記憶と思われるものだ。
「みんな何かプレゼントしてるの? いいなぁ、ボクもなにかあげたいな」
「女殺しはお断り」
「クラス、ホストもねぇ……」
「ええ! 酷いよサキちゃん。キリ姉さんも」
「そんなこと言ったって、あんたの能力は他力本願に偏りすぎじゃないか。おまけに女性の助力を得やすくなる代わりに、男性からは敵愾心がだだ上がり。状況如何では自爆特性、自爆技能になりかねないんだよ」
「やはり却下」
「そんなぁ……。そうだ! 特性や技能じゃなければいいでしょ!」
何かを思いついたらしく、満面の笑顔を浮かべる02番。なんというか、整いすぎていて同性としては非常にむかつく。
それを胡散臭そうに眺めるお目付け役2匹。
「じゃあさ、容姿を! ボクの容姿情報をコピーしてよ! これならいいでしょ!」
「ふむ、その程度であれば問題はなかろう。エネルギー消費も問題にならぬレベルだしな」
それまで聞こえてこなかった声が、画面外から入る。博士もいたのか。
「う~ん、それならまぁいいかねぇ。余計な揉め事を引き寄せる可能性もあるけど、殺されるところを奴隷ですむ、みたいなメリットもあるしねぇ」
「それなら、許可」
「ホント!? やった! 二人ともありがとう!」
「やれやれ。あんたもそれでいぃ……」
キリ姉さんの声が小さく、遠くなっていく。
画面が揺らいだ。
どうやら夢が覚める時間が来たようだ。
目が覚める。
頭上は満点の星空。
上半身を起こすと、ぱらぱらと胸の上からエネルギーストーンが零れ落ちる。
どうやらエネルギーは足りたらしい。あの海神様から入手したエネルギーストーンはなくなり、ドレスに包んでいたエネルギーストーンもだいぶ減ってはいるが、総量の4分の1程度は残っている。
立ち上がる。
身長が伸びたな……。手足も長くなっている。
全身を見回し、顔もぺたぺた手で触れてみるが、人間形態であることは変わっていないようだ。
というか夢の情報が正しければ、02番と同じ容姿のはず。あいつのせいか!
まあ、バッタ人間とかの外見にならなかったことに感謝するべきなのかもしれない。
海に向かい、水面に顔を映す。
やはり02番の顔。だが、だいぶ大人びてきた。高校生くらいになったようだな。
肉体的にはまだ身長が足りないし、筋肉量も不足している感があるが、ほぼ大人になったといえるのではないだろうか。
さあ、ステータスを確認し、BPの割り振りをしよう。
【名前:なし】 【称号1:尊厳を破壊する者 称号2:裏迷宮主討伐者】
種族:C怪人(成体・前期) レベル:1 未確定BP:504
生命値:400/400/650 魔力値:250/250/650
肉体:200 精神:150
器用:160 俊敏:160
信仰心:100 運:55
【スキル】
肉体操作Lv.04(↑20BP)
投槍術Lv.1(↑4BP)
投槍術(特殊)Lv.2(↑4BP)
槍術Lv.03(↑4BP)
流水拳(極)Lv.∞ 消費魔力:50
毒手(神経毒)Lv.5 消費魔力:5(↑5BP)
気配察知(弱)Lv.5(↑2BP)
気配遮断(弱)Lv.3(↑2BP)
睡眠耐性Lv.5(↑4BP)
待伏せ
【獲得可能スキル】
どS(要4BP)
窮鼠の一撃(要4BP)
家計簿(要100BP)
ソムリエ(要20BP)
まず、予想していたことではあったが、ステータスの上がり幅がすごい。
肉体値なんて変態前の3倍以上、器用と俊敏は4倍だ。
まあ子供が大人になったんだ。これぐらいは上昇するのが普通か。なにより、この体は戦闘用にカスタマイズされて生まれた怪人。強くならなければおかしいのだ。
さりげなく、気配遮断(弱)スキルが3まであがっているのもうれしい点だ。おそらくあの狸寝入りが経験値を溜め込んだのだろう。
そして。
未確定BPが504もある!
うおお、何これ何これ! すっごく多い!
落ち着け。落ち着いて割り振りを考えるぞ。
まず、最優先で肉体操作レベルを上昇させる。限界がどこなのかは知らないが、自分としてはレベル10まではあげたい。レベル4の今でも、このスキルに助けられた場面は数多い。そして以前にも思ったが、このスキルこそが怪人としての自身の根幹だ。よし、あげていこう。
ううむ。
100BPを使い、肉体操作をレベル9まで上昇させた。だが。
肉体操作Lv.09(↑100BP)
レベル10にするには100BPかかるのか。
これはあれか。もしかするとレベル10が最高なのか。そう考えればこのいきなりの必要BP上昇にも納得がいく。どうするか。
悩んではみたものの、答えはすでに決まっている。上昇させよう。
肉体操作Lv.10(MAX)
うむ。来た。来たよ。この感じだよ、この感じ!
自分の体を細胞一つ一つまで意識して動かせるようなこの感じ。久しく忘れていた感覚だ。
よしよし、やはりこの選択は間違いではなかったな。
残りBPは304。
ふうむ。ここはやはり、これだ。この大量BP所持状態でしか選べない選択肢。
取ってみよう、家計簿を! たとえネタのはずれスキルであっても泣かない!
そ~れぽちっとな。
その瞬間、ステータス画面の変化に目を見張った。
【名前:なし】 【称号1:尊厳を破壊する者 称号2:裏迷宮主討伐者】
種族:C怪人(成体・前期) レベル:1 未確定BP:204
生命値:400/400/670 魔力値:270/270/670
肉体:200 精神:150
器用:160 俊敏:160
信仰心:120 運:55
【スキル】
肉体操作Lv.10(MAX)
投槍術Lv.1(↑4BP)
投槍術(特殊)Lv.2(↑4BP)
槍術Lv.03(↑4BP)
流水拳(極)Lv.∞ 消費魔力:25
毒手(神経毒)Lv.5 消費魔力:3(↑5BP)
気配察知(弱)Lv.5(↑2BP)
気配遮断(弱)Lv.3(↑2BP)
睡眠耐性Lv.5(↑4BP)
待伏せ
家計簿
【獲得可能スキル】
どS(要4BP)
窮鼠の一撃(要4BP)
ソムリエ(要20BP)
スキル家計簿を取った瞬間、信仰心が20上昇し、それに合わせて魔力値も上昇した。
それも大きい。
だが、それ以上に大きな変化は、流水拳と毒手だ。
どちらも発動に必要な魔力値が半減している。毒手に関しては5から3への変化なので、端数切り上げなのか四捨五入なのかわからないが。
流水拳の必要魔力値が25になった。
すごい。おそらく、家計簿は魔力を消費するスキルすべてに対して効果を発揮する、魔力消費量半減スキルだ。
流水拳や肉体操作とならぶ、規格外スキルだぞこいつは。
……気持ちを落ち着けよう。
浮かれた状態で決断するのは危険だ。これだけの規格外スキルに出会ってしまった直後だからこそ尚更だ。
残りBP204。
ソムリエに手を出したくなるが、ここは我慢だ。おそらく有用なスキルだろうが、今優先すべきはどこかを見極める。
肉体操作を限界まで上昇させた。そして今後はあの海神様の内臓から取り出した剣を使うことが多くなると予測される。剣術スキルを取得、上昇させる機会が増えるだろう。
それらに備え、100BPは手付かずで残す。槍術の必要BPから考えれば多すぎるように思われるが、それは今回の睡眠スキルのようなケースも考えてのものだ。実際には剣術に50BP、その他緊急用に50BPだ。
残り100BP。正確には104BP。
これは気配察知と気配遮断に割り振る。
これまでの経験で、この二つのスキルの有用性の高さは身にしみて理解できている。加えて、この二つはまだ(弱)スキルだ。おそらく二段階、もしかすれば三段階のレベルアップを残しているだろう。BPを使わないスキルのレベルアップが行動による経験の蓄積ならば、多用するスキルはあげられるだけあげておいたほうがいい。
決定だな。割り振りを開始しよう。
【名前:なし】 【称号1:尊厳を破壊する者 称号2:裏迷宮主討伐者】
種族:C怪人(成体・前期) レベル:1 未確定BP:108
生命値:400/400/670 魔力値:270/270/670
肉体:200 精神:150
器用:160 俊敏:160
信仰心:120 運:55
【スキル】
肉体操作Lv.10(MAX)
投槍術Lv.1(↑4BP)
投槍術(特殊)Lv.2(↑4BP)
槍術Lv.03(↑4BP)
流水拳(極)Lv.∞ 消費魔力:25
毒手(神経毒)Lv.5 消費魔力:3(↑5BP)
気配察知(強)Lv.1(↑8BP)
気配遮断(強)Lv.1(↑8BP)
睡眠耐性Lv.5(↑4BP)
待伏せ
家計簿
【獲得可能スキル】
どS(要4BP)
窮鼠の一撃(要4BP)
ソムリエ(要20BP)
気配察知と遮断は、(弱)、(中)、そして(強)と10レベルごとに強化された。同時にレベルアップに必要なBPも2、4、8と上昇している。
弱から中へ、そして中から強へと強化される際に必要BPが跳ね上がるようなことはなかったので、問題なくあげられた。弱のLv.10が中のLv.1相当、中のLv.10が強のLv.1相当だからなのだろう。
両方とも強Lv.1にそろえるのにかかったのは96BP。残りBPは108だ。
うまく予算内で強化が図れたな。満足だ。
周囲を見渡す。夜目の利く体だが、そうでなくてもわかるほどに星明りが眩しい。
海神様のなきがらは、いまだ浜辺に横たわっている。
ステータスの称号をみると、海神様はこのダンジョンの隠しボスだったみたいだな。
今まで挑んだ冒険者たちの末路は返り討ちか、あるいは村人に鍋を食わされて生贄か。なんにせよ、私が海神様を討伐したことで、おそらくこのマップにも変化が起こるだろう。具体的には、海神様の領域に近づけなかった魔物たちが出現し始めたりするのではないだろうか。
必然、あの村も、そしてそこに暮らす人々も変化を求められることになろう。そこから先は、私のあずかり知らぬことだ。
しかし、隠しボスか。ドロップアイテムとかないのか。この剣だけか。
レアモンスターは素材が高く売れたりするのもお約束だろう。
素材、か。エネルギーストーンのことしか知らないからなあ、私は。秘密結社ではモンスターの素材を扱っているのは見たことがなかったし。
海神様の鱗は硬いし、かなり丈夫そうだな。高く売れそうだし、剥ぎ取って持てるだけ持ち帰ってみるか。
生きるための力は手に入った。これからは研究所へ帰還するために活動しよう。そのためにも、まずはダラムの街に拠点を置き、情報収集に努めるのが得策だな。
ではその第一歩として、海神様の解体作業をがんばってみますか。




