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コマンダー03  作者: 前頭禿夫
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初心者用? 迷宮攻略4

 日が沈むと、宴が始まった。

 村人たちが大勢集まり、宴は飲めや歌えやの大騒ぎだ。

 若いころは、こういうノリが苦手だったなぁ。酒は一人でゆっくり飲むほうがいいなんてよく嘯いていたが、それは半分本当、半分はこういう場から逃げたいがための言い訳だった。

 酒は気の置けない仲間たちとゆっくり飲むのがいい。

 だが、こういうノリも、まあ慣れた。ザ・体育会系みたいな飲み会に出ることも多かったからな。結果として自分は内臓を壊してしまい、あまりお酒の飲めない体になってしまったが。

 そんな人間時代を懐かしみつつ、次々に注がれる杯をあけていく。

 おいおい、こんな子供になみなみ注ぐなよ。

 そう思って会場を眺めてみれば、あちこちで真っ赤な顔でひっくり返っている子供の姿がある。うん、おおらかだね。日本の皆さんは絶対真似してはいけません。

 しかし、出される海鮮物がこれがまた旨い。

 うまいうまいとパクパク食いまくりである。

 ちなみに槍は部屋に置いてきたが、それ以外の荷物は全部身につけたままだ。エネルギーストーンは文字通りの生命線。肌身離さずが基本だ。


「どうですかな、楽しんでいただけておりますかな」

 にこにこと、隣に座った村長が話しかけてくる。

 この宴では、始まる前に客人として紹介され、上座の一席に座らされている。

 だが村長が「あまりお気を使わせるのも悪いでしょう」といって、興味津々の村人たちが近づいてくるのをうまくさばいて減らしてくれていた。なお、対象はほぼ若い女性ばかりである。男衆の視線が怖い!

「せっかくのお客人、それも祭りの前日にいらっしゃったのじゃ。楽しんでいただかなければの」

「ありがとうございます。料理もおいしいですし、楽しませてもらっております」

「それはようございました。先ほども申しましたが、ここにお客人が訪れることはまれですでな。前は、そう、わしがお客人ぐらいの年頃のことだったと記憶しております」

 村長が酒で赤くなった顔をゆるめながら話す。

「その時は5、いや6人の方々でしたな。みな鎧兜を身につけ、勇ましい方たちでしたわい」

 前に訪れた冒険者たちか。この話は、少し突っ込んで聞いておきたいな。

「その方たちはどうされたのですか」

「一週間ほど滞在しておられましたな。その後、先へ進むとおっしゃられて旅立たれました。しかし……」

 村長の顔が曇る。

「それっきりでしたわい。幼いころに当時の村長に聞いたところでは、その前にいらっしゃったお客人も、やはり同様に先に進むと言い残し、去っていったと。そしてそれっきりだったと」

「先に進むという話ですが、それはどこにむかったのでしょう」

「それははっきりわかっておりますよ。海神様を祭る祠が、しばらく沖に出たところにある小島にあるのですが、その祠の奥は地の底まで続くと言い伝えられている階段があるのですわい。時折、村の若い血の気の多いものもそこへ入り込み、そして帰ってまいりませぬ。いったい、その先には何があるのか」

 このダンジョンの次の階層への入り口か。

 隠し扉を見つけて上に上ったと思ったら今度は下へと。しかも、だだっ広い海の真っ只中。船そしてこの村がなかったらそんなところにたどり着くのはほぼ不可能だろう。

 探索者をこれっぽっちも先へ進ませる気がないダンジョンだな。

「辛気臭い話をしてしまいましたな。ささ、鍋も煮えたようです、熱いうちにお召し上がりくだされ」

 部屋の真ん中では大鍋で海鮮鍋がぐつぐつと煮られ、旨そうな匂いを漂わせていた。女たちが取り分け、手に手に配られていく。

 旨い。

 軽く塩で味を調えただけだが、海の幸から出汁が出てさっぱりとした味わいの中にも旨みが濃縮されている。これはたまらん。

「いやあ、これも旨いですね」

 箸がすすむ。

 明日には祭りを見学させてもらい、そして祠の奥にあるという階段へすすもう。ここはダンジョンに挑むための準備をする、始まりの村といったところだったのだな。

 そう思っていたところに、頭の中でがちりと音が響いた。

 …………。

 変わらず鍋をつつきつつ、ステータスを確認する。

 睡眠耐性Lv.1。

 一服盛られたのか。だが周囲の村人たちも同じものを食い、そしてまったくこちらに対して気を配っている様子もない。どういうことだ。

 ふらり。

「おっとっと。すいません、急に眠気が……」

 耐性はついたが、なかなか強力なようだ。意識が霞に包まれそうになる。

「そうですか。残念ですが、長旅の疲れが出たのでしょう。おい、お客人をお部屋にお連れしておくれ」

 村長は相変わらず赤ら顔をにこにこさせたまま、手をたたいて人を呼んだ。

「はい。じゃあお客様、こちらへどうぞ」

 村人に案内され、はじめに通された部屋へと戻ってくる。中にはすでに布団がしかれてあった。

「ではごゆっくり」

 挨拶をすると村人は戻っていく。こちらはすぐに布団へともぐりこみ、そしてステータスから睡眠耐性を選択し、レベルを上昇させる。

 Lv.2。まだ意識に霞がかかる。

 Lv.3。まだだ。

 Lv.4。まだぼんやりする。神経毒のレベルから考えると、ずいぶん強力な睡眠作用だ。

 Lv.5。暗闇の中に突然朝日が差し込んだように、意識にかかった霞が吹き飛んだ。どうやら完全レジストしたらしい。

 布団の中で袋からエネルギーストーンをいくつか取り出し、齧る。

 睡眠耐性のレベルアップに必要なBPは4。Lv.5まで上昇させるのに合計で16BPを使用した。残りは8BPだ。割り振りせずに取っておいて正解だったな。

 遠くから、村人たちのにぎやかな歓声がかすかにもれ聞こえてくる。

 村人は、もしかして睡眠耐性を持っているのか?

 ……ありえる話だ。先祖代々その食事に慣れ親しんでいるために耐性を持っているなんてのは、おかしな話じゃない。

 そうであるかどうかはさておき、問題はこの状況が偶然の産物なのか、故意なのかだ。

 口にしたものはすべて村人たちと同じ。器も村の女衆が適当に取り分けていたものだ。狙って睡眠毒を仕掛けられるとは思えない。

 今は状況の変化を見守るしかないな。


 だが一晩中待っても、誰も訪ねてくるものはなかった。

 外はすでに朝日が昇ったようだ。ダンジョンの中で朝日というのもおかしなものだが、そういった気配がしている。

 村人たちも起き出し忙しなく動き回っている。

 起きるべきか。

 いや、ここは寝たふりをすべきだな。耐性をLv.5まであげてようやくレジストできる睡眠毒だ。普通の睡眠のように一晩眠ってお目覚めばっちりとはいくまい。

 行動方針を決めたところに、足音が近づいてくる。

 5人ほどか。

 部屋の扉がノックされ、丁寧に開けられた。

「失礼しますぞ、お客人。もうお目覚めですかな」

「…………」

 狸寝入り。

 肉体操作スキルを発動する。

 全身の筋肉たちよ、睡眠中と同じようにせよ。睡眠中のように弛緩するのだ!

「よく眠っておいでのようじゃな」

村長むらおさ、本当に寝てるんか。いきなり起きるとかないんかの」

「大丈夫じゃ。ナベウオは、外のもんが食べると3日は目を覚まさんと言い伝えられておる。なかには目を覚まさずにそのまま死んでしまうお客人もおったそうじゃ」

「そうなんか。確かに、よぅ寝とるの。かわいいもんじゃ」

 内容のどぎつさに比べて、村人たちの会話には、不思議とこちらに対する敵意が感じられない。どういうことだ。

「ささ、ほれお客人に衣装を着させい。時間がないでな」

 見事な狸寝入りを偽装しているこちらに気がつかず、なにやら衣装を着せられていく。

村長むらおさ、この体に巻いとる布と袋じゃが、結びが硬うてなかなか取れんで」

「それならそれでよかろ。上から着せればいいわ」

 どうやら衣装を着せているのは女性たちらしい。触れる感触や気配でそれと知れる。


村長むらおさ。準備ができましたで」

「おお。きれいに飾ったの。これなら海神様もご満足いただけるじゃろう」

 しばらくの時間をかけ、衣装を着せられ薄く化粧までされたところで、ようやく準備完了らしい。

 なんというか、おぼろげながら話が見えてきた気がするぞ。

「さあさ、男衆、舟に乗せてくれ。くれぐれも丁重に扱うんじゃぞ」

 私の体は村の男たちによって板に丁寧に載せられ、そのまま屋敷の外へと運ばれていく。

 船着場へと運ばれていく間も、そこかしこから、こちらにむかって祈りをささげる言葉が聞こえてくる。どれもこれも悲壮感や憎しみ怒りといったマイナス感情はなく、むしろ祝いの言葉がかけられる。

「ほうれ、では皆、舟を出せ!」

 村長の言葉に、男たちの威勢のいい声が返る。おや、すぐ傍からは女性の声が返ってきたぞ。私を乗せた舟を漕ぐのはどうやら女性のようだな。

 この気配には覚えがある。最初に出会ったあの女性、美人ちゃんだな。

 舟を漕ぐものたちの口から舟歌が紡がれだす。

 眠ったふりをしていてもわかる晴れ渡った空。陽気な村人たち。

 そして海神様に捧げられる生贄の私。

 なんてこった。


「祠がみえたぞ」

 見張りをしている男のその声に漕ぎ手たちも気合が乗ったか、一段と舟足が速くなる。

 やがてその舟足が次第に遅くなり、ゆっくりと、砂浜へと乗り上げたのがわかった。

「さあ、貢物を降ろすんじゃ。丁重に、丁重にな」

 載せられた板ごと持ち上げられ、舟から運び出される。だがそう長い時間を運ばれることもなく、地面へと下ろされた。

 なにやら他の貢物であろう、海産物が身の回りに山と積み上げられていく気配がある。男体盛りだな。

 余談だが、女体盛りなどというものを考えたやつは料理を馬鹿にしていると思う。人肌で温まった刺身など、箸でつまむ気すら起きないわ。食い物を粗末にするやつに対しては、おっさんガチギレである。

「さあ皆の衆、急いで戻るぞ。あまり長くいると海神様のお怒りを買うでな」

「へい」

 村人たちが舟へと戻っていく。

 そんな中、一人、あの美人ちゃんだけが残って、海産物でデコレーションされた私に向かって跪き祈りを捧げた。

「外の方、ありがとうございます。おかげで今回の捧げものに選ばれた妹が助かりました。名誉なことではあっても、姉としては苦しかったのです。外の方を捧げれば、村のものを捧げるよりも長く海神様の怒りをお鎮めできるといいます。昨日お会いできたのは、海神様のお導きに他なりません。本当にありがとうございます。そしてどうか海神様に、私どもの感謝と、村の末永い繁栄の願いをお届けください」

 美人ちゃんはそういってもう一度祈りの言葉を捧げると立ち上がり、舟に向かって駆けていった。


 はっはっは。

 身勝手すぎるだろう、お前ら!

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