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コマンダー03  作者: 前頭禿夫
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初心者用? 迷宮攻略3

 のぼり梯子の先は小部屋になっていた。

 周囲の壁は木々でできている。木材ではなく、木々が硬くかみ合い壁となっているのだ。

「出入り口は一箇所か」

 周囲の気配を探り、これといった反応がないことを確認してから小部屋を出る。

 ぐるりと見渡す。

 木々に囲まれ、視線がまるで通らない。まるで周囲からこの場所を隠し通そうとするかのようだ。

 頭上を見上げる。

 空が高い。中天に太陽らしきものがさんさんと輝いている。

 とてもここがダンジョンの中だとは思えない光景だ。どこか、鬱蒼とした森の中に迷い込んだような気持ちになる。

 それにしても、周囲にあるのは木、木、木。

 進むべき道もなければ、道しるべとなるものも当然ない。

 さて困ったぞ。

 一度小部屋の中に戻る。この小部屋の床だけは石造りだ。

 おや、床の一箇所にスイッチがある。足で踏みつけてみると、のぼり梯子を内包していた床がせり上がってきた。ふむ。

 他に何か仕掛けはないものかと探してみるが、特に何もない。

 進むしかないな。

 この階層に出現するモンスターの強さもわからないのは不安でしかないが、エネルギーストーンに余裕のあるうちに一当たりするべきだ。


 進路は小部屋の出入り口からまっすぐ進むことにした。どうせ何もわからないなら、まっすぐでいい。

 常に気配察知を使い、目に付いた木の幹に穂先で目印を刻みながら進む。

 すると、この森はさほど広くなかったらしく、ほどなく生い茂った草木の切れ目が見えてきた。

「これは……」

 開けた視線の先には、海。

 森を抜けた先は崖になっており、その先に水平線が広がっていた。

 湖なのかもしれないが、向こう岸は水平線のかなたに見ることすらできない。

 水平線?

 じっと目を凝らして水平線を観察する。

 曲線には感じられないな。まっすぐ、横に一直線だ。ダンジョンの中だから当たり前なのかも知れないが、この階層はどれだけ広いのやら。

 下へ降りる道を探し、崖のふちに沿うように歩いていく。

 周囲には、まったくモンスターの気配がない。

 なんだここは。隠しダンジョンだったから、強敵がわんさか登場すると思いきやこの有様だ。


 しばらく歩くと、緩やかに下へと続く下り坂があった。

 これなら、問題なく帰ってくることができるだろう。降りることは容易でも、登ることは難しい地形なんてものは、自然では結構あるものだ。山での遭難なんかの場合にはよく見受けられる。帰り道のことは常に頭に入れておくべきだ。

 海だ。

 砂浜より岩場が多く海水浴には向かないが、海だ。一口なめてみると塩辛い。やっぱり海なのか。

 うーん。意味不明。

 こういう地形では貝とかカニとか魚類のモンスターがお約束だろうが、まるで気配がしない。少し無用心かもしれないが、岩場に登ってみる。

 魚影発見。そして、なんだか食用に適していそうな海の幸がごろごろしている。

 なんじゃここは。桃源郷か。

 確か桃源郷は、ある漁師が川で流されて迷い込んだ洞窟の先にあったんだよな。そこには人々が平和に暮らす村があったと。秦の始皇帝の圧政から逃れた人々の作った隠れ里という設定だったな。

 そんなことを海を眺めながら考える。ちなみにドレスはエネルギーストーンを包むのに使っているので、相変わらず素っ裸である。野生児!

 気配を感じた。

 少し離れた大きな岩の陰で、なにやら動くものがある。気配から察するに、こちらには気がついていないようだ。

 距離があるので、モンスターであっても十分対応は可能だろう。

 しばらく様子を伺っていると、その何者かが岩陰から姿を現した。

 人間だ。

 すらりとした長身、日に焼けた小麦色の肌。浜仕事で鍛えられた引き締まった肢体。

 年の頃は17、8といったところか。ダークブラウンの長髪を肩の辺りでひとつにまとめている、気の強そうな美人ちゃんだ。弥生時代のイメージとして登場するような衣類を、半そで短パンといった感じで身につけている。

 おや、こちらに気がついたようだな。びっくりして目を見開いている。

 一応、敵意がないことを示すために笑顔で軽く手を振っておこう。振る振る。ボク悪い怪人じゃないよ、農具は盗んだけど。

 彼女は手にびくのような籠、実際びくなのだろうが、を持ち、慎重にこちらに近づいてくる。

「こんにちは、お姉さん」

「あ、ああ。あんたどこから来たんだい……?」

「外だよ。このダンジョンの外」

「外……一人で?」

「そうだよ」

 なにやら必死に考えている模様。

「ちょっと村長むらおさを呼んでくるから、ここから動かないで、いいね!」

 言うが早いか、こちらの返事も聞かずにあっという間に駆け出していく。

 こちらが素っ裸(靴は装備)という格好であることにもまったく動揺しないとは、やるな。

 まあ日本でも江戸時代までは結構当たり前に裸をさらしていたって話だからな。このあたりではそれが普通なんだろう。気候も温和、というか暖かいしね。なにこの南国リゾート。

 しかし村長、村か。

 今の自分は、隠れ里に現れた異邦人ってとこかな。

 どうするかなぁ。さっさと姿を隠してしまうのも手なんだけど、どうもいろいろと気になる。

 鬼が出るか蛇が出るか。

 ここは出たとこ勝負で臨んでみるとしますか。



 待てといわれて、待つ選択をしたわけだが。

 なかなか、あの美人ちゃんが帰ってこない。

 まあ、その村とやらがそんな近くにあるなら気配を察知できただろうから、それなりに遠いのだろう。

 砂浜に腰を下ろし、エネルギーストーンをかじる。

 うむ、普通。やはりあのレアオークから入手したエネルギーストーンは美味であった。

 そういえば、この体は普通の人間の食事も摂取できるのだろうか。村についていって食事を出されたらどうするか考えなければならないから、ちょっと試してみるか。

 先ほどの彼女は、銛も釣竿も持っていなかったから、おそらくここらの海産物をとっていたのだろう。ならば食用に適しているはずだ。

 きょろきょろと周囲を見渡す。

 貝。貝かぁ。毒が怖いな。まあこの体ならエネルギーを消費することで何とかできるだろうからいいか。

 そう思って貝をとろうとしたとき、その傍にあったものに目がいく。

 ウニ。でかい。

 むむむむむむ。君に決めた!

 槍の穂先で軽く突いて取り上げる。袋からナイフを取り出して……ええい、エネルギーストーンが詰まりすぎてナイフが取り出しにくい。

 少々手間取りつつ、取り出したナイフで殻を割る。

 ふむ。中身もまんまウニって感じだな。

 ではいただきまーす。

 身を軽く海水であらい、ぺろり。

 …………。

 我知らず、涙が出た。

 う、うまいぞおおおおおおおおおおおおおお!

 なんだこれは、なんだこれは。

 このうまさに比べたら、レアオークのエネルギーストーンなど、ただの濃い味付けの石!

 いや、そのとおりなんだけどさ。

 エネルギーストーンを経口摂取できるようになると、人間の食事も普通に味わえるようになるのか。

 あー。でも、エネルギーが補充されてる感覚は全然ないな。怪人にとって食事は完全に嗜好品ってことか。秘密結社で大幹部にのみ食事が用意される理由がわかった気がする。

 もぐもぐ。はぁ幸せ。

 禁断の果実に手を出してしまったアダムの気分だな。

 貝にも手を出し、これまた舌鼓を打っていると、遠くの海上にポツリと影が見えた。

 小舟だな。

 漕ぎ手の腕もいいらしく、足が速い小舟はぐんぐん近づいてくると浜辺に乗り上げるようにしてとまった。

 乗っていたのは老人、青年、そして漕ぎ手の3人。漕ぎ手はさっきの美人ちゃんだ。

 老人と青年が舟を下り、こちらにやってきた。

「お客人。外からいらっしゃったという話ですが、本当ですかな」

 落ち着いた声色で老人が問いかけてくる。この人が村長かな。

「はい、一人でダンジョンを探索していて、こちらにたどり着きました。お邪魔するつもりも、皆さんのことを言いふらすつもりもありませんのでご安心ください」

 にっこり笑顔で答える。

 でも、こういう台詞ははっきり言って信憑性にかける。

 桃源郷の話でも、村人たちに「この村の話は外部のものにしないでくれ」と言われ約束したはずの漁師は、ふるさとに戻るとすぐに役人に届け出るんだよな。褒美ほしさに。

 人間なんてそんなものよ。

 逆に、隠れ里の側が情報漏えいを恐れて旅人を殺すという話も多い。それも納得だ。

 さて虎口に飛び込むと決めた以上、どんな話の流れになってもいいが、どうなるかな。

「おお。それはよい時期にいらっしゃった。村ではちょうど、海神様に幸をささげ感謝する祭りがおこなわれるところじゃ。これもお導きであろう。どうか村へいらっしゃって外のお話を聞かせてくだされ」

 にこにこと笑顔で村長らしき老人が言う。

 ふむ、ここは提案に乗ろう。

 おそらく一緒にいる青年が護衛役なのだろうが、はっきり言って強さを感じない。これならば、何かあっても逃げ出すことは難しくなさそうだ。

「そうですか、でしたらお言葉に甘えさせていただきます」

「おお、おお。それはありがたい。なにぶん村に客人が来るなど、わしが若いころ以来の話。村の衆も喜ぶじゃろうて」

 老人はほくほく顔だ。

 二人に先導され、小舟に乗り込む。

 老人と私が乗り込むと、青年と美人ちゃんが浜辺から舟を海に押し出し、腰まで波に漬かった辺りで軽やかに舟に乗り込んだ。

 先ほどの老人の台詞だと、ここを訪れるのは自分が初めてではないらしい。

 あのダンジョンの隠し扉を発見し、この人々の集落を訪れた人間、間違いなく冒険者だろう。その冒険者たちはここを訪れた後どうなったのかな。

 探りを入れるとしたら、そこだな。


 小舟は、海に向かって大きく突き出した岬を迂回するようにはしる。頬を通り過ぎていく海風が心地よい。

 やがてぐるりと峠を回りこんだとき、視線の先に集落が見えてきた。街、いや町とはいかないが、村落としてはかなり大規模だろう。

 こいつは驚いたな。岬が目隠しになっていたとはいえ、直線距離で言えばそれほど離れていない場所にこんな大規模集落があったとは。そしてますます、ダンジョン内部らしくない。

 小舟は、よく整備された桟橋のひとつに横付けされた。見れば、他にも何艘か小舟が見える。

 あまり大型の船はないようだな。

「さあ、お客人。どうぞこちらへ」

 村長に案内されて村へと入っていく。道すがら出会った人々は興味深そうにこちらを見つめている。

 若い娘さんたちと視線が合う。にっこり。

 きゃあきゃあ喜ばれた。ふ……自爆技だな、これは。

 村の中ではすっぽんぽんで駆け回る子供の姿もある。これならば裸族でもかまわんな。

 村長の家だという、一番大きな屋敷に連れて行かれ、そのまま中の一室に通された。

 今晩は歓迎の宴を催すという。

「明日には海神様への感謝をささげる祭りも行われますのでな、ゆっくり見学していってくだされ」

「はい、ありがとうございます」

 そういい残すと、村長は部屋を出て行く。荷物は部屋の隅に置かれた木箱に入れておけばいいそうだ。

 至れり尽くせりだな。

 このままよい話で終わるのか、それとも裏があるか。

 そこは善意を信じろって? おっさん、人間という生き物をそれなりに理解してるつもりよ。表も裏も否定しない。どちらもある。

 そんなもんよ、人間なんて。


 とりあえず、今はゆっくり骨休みといこうか。

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