転属希望を提出いたします
なに? なんなのこのホストのお兄ちゃん。
いきなりのことに面食らってしまったが、しかし、棺おけから出てきたのだから答えはひとつしかあるまい。
01番さんだ。
これが01番さんの素顔だ!
いや、違うよね。だって私、自分の頬をちょとつまんでみるけれど、全身を覆った黒タイツ。これ、黒タイツじゃない。私の皮膚だ。黒タイツの中身なんてありませんよ。ああ、いつの間にやら完全に怪人になっていたんだなぁ。コスプレだったらよかったのに。
研究所、いや研究室か? どちらでもよいが、中に設置された姿見の前に01番さんは歩いていくと、全身をくまなく写し見ている。ポージングまでしてるぞ。
「へっ、いいね、いいね。これでレディ様にもご満足いただけるぜ」
うれしそうだな、ホスト01番。
そんな彼はくるりとこちらを振り返ると、親指を立ててさわやかな笑顔を見せてくる。うわぁ、いかにもお客様相手になれてる表情だわ。おっさん見ず知らずの相手だったら警戒しちゃうね。中身が01番さんだってわかってるからいいけどさ。
「ほら、お前らも早くしろよ」
「イーッ!」
02番さんも親指立てて応える。おっさん? おっさんはいいよ。
続いて02番さんも棺おけに突撃。
中略、ぴかぴかどかーん。
そうして現れたのは、やはり全裸ホスト。こちらはちょっと幼顔。なんなのよこれ。
「ああ、ボクもいい感じになったよ。01番、どうだい?」
「いいじゃねえか! お前に合ってるんじゃね。さすが博士の見立てだぜ!」
そういって二人は博士に向かって親指立ててスマイルスマイル。
博士、ため息ついちゃってるよ。
「ほれ、次はお前だ。さっさとこんか」
……。いや、ちょっと待ってください。
「ん? どうした? 改造としては難しいものではないぞ。見た目を変えて、性機能を強化するだけだ。怪人としてはランクダウンするが、だからこそ失敗なんぞありえんわ」
は? 今なんとおっしゃいました?
「だから、いったとおりだ。外見改造、性機能強化。怪人としての戦闘力ダウン。それが今回の改造内容だ。あの色ボケ女から出ている要望のとおりだぞ。まったく、何回こんな下らん改造をやらせるつもりだ。かといって適当にやれば、改造したばかりの怪人を廃棄処分にしおる。なにが自分にふさわしくない、だ」
「イー……」
あー……これは、あれですか。
女王様のハーレムですか。
あのボインバインの女幹部さんは、そちらのほうがお盛んで、とっかえひっかえ選り取り見取り、と。
そして私もその候補の一人、と。
ちらりと改造済みの二人に目をやる。
ルックス。納得。股間。ご立派ですね。なるほどなるほど。
我知らず、ため息が漏れた。
いや、あのね。確かにあの女幹部さん、ケバいし薹はたってるけど美人さんだ。スタイルにいたってはすんごいよ。しかもスタイルはただ美しいわけではなくて、少し崩れてる。肉欲という方向に。そりゃ男としては辛抱たまらんお突き合い(誤字にあらず)お願いしますわ。
でもね。
おっさん、お見合いして家庭を持とうと思ってたんだ。
お見合いして、ささやかな家庭を作ろうと思っていた人間に、ハーレムってのは、ないわ。
そりゃ私だって若くリビドーあふれた時代には色々と妄想を炸裂させましたよ。あんなとかこんなとか。それは否定しないし、今でもそういう方向に進む人間を否定はしないけど。
でも、それは私が求めたものじゃない。
私が求めたものは、共感だ。
自分の人生に、そして相手の人生に対する共感。求めたのはそれだ。
ハーレムの中に共感があるのか?
少なくとも、私は感じない。ということは、そこに共感は生まれ得ない。
たいした人生を送ったわけでもないおっさんだけどね、でもね、私だって自分の人生に誇りがあるんだよ。矜持を持って、意地を張って生きてきたんだよ。
納得できないし、納得する気もない。断固拒否だ。
私は、私として、そんな生き方は糞くらえだ。
下っ端怪人にだって五分の魂、怪人は食わねど高楊枝よ。
「何? この改造は嫌だと」
「イーッ!」
「ちょ、何いってんだよ03番! レディ様のハーレムに入れるんだぜ!」
「そうだよ! その上危険な任務なんか出なくてよくなるんだよ、何考えてるの!」
うるさいぞホスト2名。さっさと股間をしまえ。
とりあえず、改造では他にどんなことができるのか詳しく教えてもらおう。
「ふむ。それは別にかまわんが、その前にやらねばならぬことがあるぞ」
はて、何でしょう。
「お前、このままではあの女に出来損ないとして処分されるぞ。やつにしてみれば出来損ないの玩具だからな」
「イッ!?」
し、しまった! 確かにそれを失念していた。女幹部さんからみれば私たちは(大人の)おもちゃ!
大人のこけしを注文したら伝統民芸品のこけしが、あるいは三角木馬の代わりに、は@丸王子のお供が届いたようなものだ、投げ捨てるに決まってる。
慌てふためいていると、目の前から救い主が現れた。
「……ふん、そうだな。量産型の下級指揮官タイプとはいえ、わしの設計した怪人には変わりない。玩具にされるのにも飽き飽きしておったところだ。お前がよければ実験怪人としてわしの管理下におくが、どうだ?」
実験怪人……その響きには一抹の不安を覚えるが、確実な処刑に比べればなんぼかマシだ。
転属、出向、はい喜んで!
年を重ねると下ネタに対する抵抗が薄くなります。
おっさんになるって、悲しいことなの。