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コマンダー03  作者: 前頭禿夫
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転属希望を提出いたします

 なに? なんなのこのホストのお兄ちゃん。

 いきなりのことに面食らってしまったが、しかし、棺おけから出てきたのだから答えはひとつしかあるまい。

 01番さんだ。

 これが01番さんの素顔だ!

 いや、違うよね。だって私、自分の頬をちょとつまんでみるけれど、全身を覆った黒タイツ。これ、黒タイツじゃない。私の皮膚だ。黒タイツの中身なんてありませんよ。ああ、いつの間にやら完全に怪人になっていたんだなぁ。コスプレだったらよかったのに。

 研究所、いや研究室か? どちらでもよいが、中に設置された姿見の前に01番さんは歩いていくと、全身をくまなく写し見ている。ポージングまでしてるぞ。

「へっ、いいね、いいね。これでレディ様にもご満足いただけるぜ」

 うれしそうだな、ホスト01番。

 そんな彼はくるりとこちらを振り返ると、親指を立ててさわやかな笑顔を見せてくる。うわぁ、いかにもお客様相手になれてる表情だわ。おっさん見ず知らずの相手だったら警戒しちゃうね。中身が01番さんだってわかってるからいいけどさ。

「ほら、お前らも早くしろよ」

「イーッ!」

 02番さんも親指立てて応える。おっさん? おっさんはいいよ。

 続いて02番さんも棺おけに突撃。

 中略、ぴかぴかどかーん。

 そうして現れたのは、やはり全裸ホスト。こちらはちょっと幼顔。なんなのよこれ。

「ああ、ボクもいい感じになったよ。01番、どうだい?」

「いいじゃねえか! お前に合ってるんじゃね。さすが博士の見立てだぜ!」

 そういって二人は博士に向かって親指立ててスマイルスマイル。

 博士、ため息ついちゃってるよ。

「ほれ、次はお前だ。さっさとこんか」

 ……。いや、ちょっと待ってください。

「ん? どうした? 改造としては難しいものではないぞ。見た目を変えて、性機能を強化するだけだ。怪人としてはランクダウンするが、だからこそ失敗なんぞありえんわ」

 は? 今なんとおっしゃいました?

「だから、いったとおりだ。外見改造、性機能強化。怪人としての戦闘力ダウン。それが今回の改造内容だ。あの色ボケ女から出ている要望のとおりだぞ。まったく、何回こんな下らん改造をやらせるつもりだ。かといって適当にやれば、改造したばかりの怪人を廃棄処分にしおる。なにが自分にふさわしくない、だ」

「イー……」

 あー……これは、あれですか。

 女王様のハーレムですか。

 あのボインバインの女幹部さんは、そちらのほうがお盛んで、とっかえひっかえ選り取り見取り、と。

 そして私もその候補の一人、と。

 ちらりと改造済みの二人に目をやる。

 ルックス。納得。股間。ご立派ですね。なるほどなるほど。

 我知らず、ため息が漏れた。

 いや、あのね。確かにあの女幹部さん、ケバいし薹はたってるけど美人さんだ。スタイルにいたってはすんごいよ。しかもスタイルはただ美しいわけではなくて、少し崩れてる。肉欲という方向に。そりゃ男としては辛抱たまらんお突き合い(誤字にあらず)お願いしますわ。

 でもね。

 おっさん、お見合いして家庭を持とうと思ってたんだ。

 お見合いして、ささやかな家庭を作ろうと思っていた人間に、ハーレムってのは、ないわ。

 そりゃ私だって若くリビドーあふれた時代には色々と妄想を炸裂させましたよ。あんなとかこんなとか。それは否定しないし、今でもそういう方向に進む人間を否定はしないけど。


 でも、それは私が求めたものじゃない。

 私が求めたものは、共感だ。

 自分の人生に、そして相手の人生に対する共感。求めたのはそれだ。

 ハーレムの中に共感があるのか?

 少なくとも、私は感じない。ということは、そこに共感は生まれ得ない。

 たいした人生を送ったわけでもないおっさんだけどね、でもね、私だって自分の人生に誇りがあるんだよ。矜持を持って、意地を張って生きてきたんだよ。

 納得できないし、納得する気もない。断固拒否だ。

 私は、私として、そんな生き方は糞くらえだ。


 下っ端怪人にだって五分の魂、怪人は食わねど高楊枝よ。


「何? この改造は嫌だと」

「イーッ!」

「ちょ、何いってんだよ03番! レディ様のハーレムに入れるんだぜ!」

「そうだよ! その上危険な任務なんか出なくてよくなるんだよ、何考えてるの!」

 うるさいぞホスト2名。さっさと股間をしまえ。

 とりあえず、改造では他にどんなことができるのか詳しく教えてもらおう。

「ふむ。それは別にかまわんが、その前にやらねばならぬことがあるぞ」

 はて、何でしょう。

「お前、このままではあの女に出来損ないとして処分されるぞ。やつにしてみれば出来損ないの玩具だからな」

「イッ!?」

 し、しまった! 確かにそれを失念していた。女幹部さんからみれば私たちは(大人の)おもちゃ!

 大人のこけしを注文したら伝統民芸品のこけしが、あるいは三角木馬の代わりに、は@丸王子のお供が届いたようなものだ、投げ捨てるに決まってる。

 慌てふためいていると、目の前から救い主が現れた。

「……ふん、そうだな。量産型の下級指揮官タイプとはいえ、わしの設計した怪人には変わりない。玩具にされるのにも飽き飽きしておったところだ。お前がよければ実験怪人としてわしの管理下におくが、どうだ?」

 実験怪人……その響きには一抹の不安を覚えるが、確実な処刑に比べればなんぼかマシだ。


 転属、出向、はい喜んで!

年を重ねると下ネタに対する抵抗が薄くなります。

おっさんになるって、悲しいことなの。

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