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コマンダー03  作者: 前頭禿夫
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初心者用? 迷宮攻略1

 中は薄暗がり。だが夜目が利くこの身体には苦にならない。

 こちらの気配は隠しつつ、周囲の気配は常に探っていく。

 そうして進んでいくと、十字路に行き当たる。

 む、むむむ。

 マッピングのことをすっかり忘れていた……。

 まあいい。なにせこっちはエネルギーストーンさえあれば生存可能なのだ。大丈夫!

 たぶん。

 ……念のため右手の法則を発動させよう。常に右手に壁を触るように進むのだ。実際に触るわけじゃないよ。


 気配。

 少し先だな。

 通路の先は小部屋のような地形へと続いている。

 中に集団の気配。

 意識して気配を消しつつ、視線を部屋の中へと通す。

 そこにいたのは、なつかしのオーク。

 オークか!

 いったん後退する。

 さて、これはピンチでもありチャンスでもあるぞ。

 連中は斧や長剣などの武器を持っている。棍棒もあるけどね。

 無事に倒すことができれば、武器に関する苦労は一気に解消できるだろう。

 だが、問題はその強さおよび数だ。

 まだ詳しく探っていないが、相変わらずの集団行動だ。そして、単独戦闘力でも、今の自分がどこまで戦えるか。

 囲まれた時点で勝機は無いな。

 現在のステータスなら、切り札である流水拳は2回使える。

 だが、これは悪手。2回使った時点で詰む。使えるのはやはり1回だけ。

 肉体操作を基本として、未取得であるが槍術を用いて戦う。うまくいけば戦闘中に槍術を取得するだろう。

 以前の戦闘の記憶を思い出せ。

 オークはどの程度のスピードがあったか。足の速さはどうだったか。

 …………。

 もしもの場合には全力で離脱する。今の体でも、オークの歩みならば逃げ切ることは可能だ。というか、後退しつつ各個撃破しか勝算は無い。

 よし、いくぞ。

 心に活を入れ、小部屋前まで前進。

 気づかれていないな。

 気配を探る。

 ……10匹。ちょうど10匹だ。

 視界には6匹しか入らないが、死角に残り4匹。

 通路の壁に、フォークを1本立てかける。

 そしてもう1本を投槍器アトラトスにセットし、構える。

 目標は部屋の中ほどに背中を向けて座っている1匹。まず普通に投げて外れない距離だ。

 体の各部位を、足首、ひざ、腰、背中、肩と連動する意識をもってコントロール。

 くらえ!

 ビュオッ。

 空気を裂いて投げ込まれたフォークが、オークの背中中央に見事に突き刺さった。

「グオオオオオオオオオオオ!」

 オークの絶叫。

 背中に突き立っているが、刺さりが浅い。そうか、フォークは先端が枝分かれしているから、貫通力が弱まってしまうのか!

 思わぬ失敗に舌打ちしたくなるが、そんな暇は無い。

 壁に立てかけたフォークを握り、入り口に最も近い場所にいたオークに襲い掛かる。

 やつは絶叫した仲間に気を取られ、視線がこちらに向いていない。

(きぇいっ!)

 心中の気合とともに、フォークで突く。狙いは首。

 狙い過たず、フォークの真ん中の1本がオークの太い首の真ん中を貫通する。

 だが、左右の2本は首の端を貫くだけ……いや、頚動脈を貫いたか!

 引き抜いた直後、血が激しく噴出す。

 そのオークがよろめく間に、まだ何が起きたか把握できていない、最も近い1匹の懐に飛び込む。

「毒手、投槍術!」

 フォークを左手1本に持ち替え、空いた右手でスキルを発動する。狙いはオークの腹。ただし突き入れるのではなく、皮を切り裂くつもりで滑らせる。

「ブモオオオオオオ!」

 神経毒による痛撃は、それでいいのだ。

「はっ!」

 一目散に通路へ駆け出す。不意打ちは3匹が限界。それ以上を狙えば、あの小部屋内で戦うことになる。そしてそれは敵に囲まれることを意味している。

 遅まきながら襲撃に気がついたオークたちが動き出す。

 その動き、足取りは想定していたものとほぼ差異が無い。

 1匹が通路に出てきた。

「キェエエエイッ!」

 直後、足首から発動した回転エネルギーを、直線運動に変えてフォークを突き入れる。

 狙いは顔面。眼球だ。

 とっさにオークは顔をそらす。だが、フォークは3本爪だぞ!

 左の爪が眼球から脳天を貫通。

 引き抜くと同時に背中を向けて全力で後退。

 オークたちを引き離す。

 十分引き離したところで再び正対し、フォークを腰だめに構える。

 突出してきた1匹を迎え撃つ。棍棒持ちか。

「ブオオオオ!」

 怒声とともに棍棒が振り上げられる。

 オークの力は強い。正面から受けることは当然のこと、受け流しすら今の自分ではできない。

 だが、力に反比例するようにその動きは遅い。

「はあっ!」

 棍棒の振り上げにあわせるように、フォークを顔面に突き入れる。肩の筋肉の動きを見て、振り上げのタイミングを完璧に捉えたおかげで、先の先を取ることに成功した。

 フォークを引き抜き、その勢いのままバックステップで距離をとる。

 のけぞりながら倒れこむオークの後方から、今度は2匹並んで駆け寄ってくる。

 くそ、2匹同時は無理だ。

 背中を向けて走り出す。と、殺気!

 横っ飛びにかわすと、つい先ほどまで自分がいた空間を棍棒がうなりをあげて通過していく。

「ブモオオオオ!」

 回避には成功、だが追いつかれた。

 左から長剣を振りかざしたオークが、やや遅れて右から素手のオークが拳を振り上げて襲い掛かってくる。はさまれた!

 迷っている暇は無い。

「流水拳」

 長剣オークがひっくり返る。だが素手オークの拳はすでに眼前だ。

「くっ!」

 フォークを盾にし、自分でも殴りつけられた方向に跳ぶことで衝撃を減らす。

 ダメージはほぼ無し。だが、フォークが柄の真ん中からへし折られた。

 どすどすと足音高く、オークが踏み込んでくる。

 その顔面めがけ、折れたフォークの片割れ、先端がついているほうを投げつける。

「ブモッ」

 拳で払いのけるオーク。だが、一瞬視界が揺らいだな!

「毒手、投槍術」

 がら空きになったわき腹を、すれ違いざまに毒手で切り裂く。

「ブモオオオオオオオオオ!」

 激痛にのた打ち回るオーク。その隙にフォークの残りを投げ捨て、いろいろと汚いことになっているオークが持っていた長剣を拾い上げる。

 くそ、重い。オークにとっては片手剣でも、こっちにとっては両手剣だ。

 転げるオークの首筋に長剣を突きこみ止めを刺すと、迫ってきた次の1匹と向き合う。

 こいつも長剣持ちか。

 長剣が重い。持ち上げて斬撃を繰り出すのは至難の業。ならばこれしかない!

(無刀取りの間合い!)

 オークが長剣を振り上げ、一歩踏み込もうとしたそのタイミングで全力で飛び込む。

 ただし、組み技に持って行ったのではない。巨体のオークにこの体ではそんなことは不可能。

 そして長剣を振り上げるのも困難である以上、馬上槍のように構えて突進。ランスチャージだ。

 目標である、オークの股間に長剣が深々と突き刺さる。長剣とともに振り下ろされた腕に、したたかに肩と背中を打ちつけられたが、刃は潜り抜けた。

 長剣を手放し、倒れこむオークの脇からすべるように抜け出す。

 倒したばかりのオークの手から長剣を奪い取り、剣先を地面に下ろして構える。

 次の1匹は少し距離がある。

 こちらは流水拳で倒したオークのそばに立ち、先ほどのように切っ先を下ろして右下段の構え。

 向かってくるわずかの間に、自身の体を確認する。

 生命値92/100、魔力値50/110。

 先ほどのダメージがわずかに入ったが問題になるほどではない。魔力は半分を切った。

 オークが棍棒を振りかざして駆けてくる。

 間合いに入る直前、こちらが仕掛ける。

「地摺八双!」

 右下段から左上段への振り上げとともに、地面にたまったオークの液状化あれこれを顔面めがけて撥ね飛ばす。

「ブモォッ!」

 ろくでもない目潰し攻撃にひるんだオークは、間合いにわずかに届かないにも関わらず、とっさに棍棒を振り下ろした。

 棍棒が鼻先を掠めていく。

 かかったな、馬鹿めが!

 左上段から、振り下ろされた棍棒を握った手首にめがけて長剣を振り下ろす。

 鈍い音を立てて手首の骨が砕ける。

「ブモーッ!}

 うめき声を上げて棍棒を取り落としたオークの股間めがけてランスチャージ。

 直撃。

 すぐに長剣を手放し、次に備える。

 だが、通路に生きてるオークの姿は見えない。全部やったか?

 油断なく警戒しながら、倒した数を考える。

 ……1匹足りない。

 毒手で傷を負わせたやつ、最初にフォークを突き刺したやつ。そしてあと1匹、無傷のオークがいるはず。

 武器を探す。重いが、ランスチャージした長剣しかない。

 慎重な足取りで小部屋に近づく。

 部屋の中の気配を探ると、入り口近くになにやら弱弱しい気配。そして、部屋の奥にもう1匹。

 残り1匹はどこだ。

 警戒しつつ、小部屋に足を踏み入れる。

 視線を向ければ、弱弱しい気配の正体は毒手で腹を軽く切り裂いたオーク。びくびくと痙攣を続けている。神経毒Lv.5はここまで強力だったか。

 部屋の片隅には、背中からフォークを生やして倒れ伏したオーク。胴体を貫通とは行かなかったが、しっかり命をかりとれていたらしい。

 そして最後に、部屋の奥にそいつはいた。

 他のオークに比べて赤黒い肌。

 二周りは大きい体躯。

 そして特徴的なのが、両手にそれぞれ短槍を持つこと。

 短槍二刀流のオーク。どうみてもレア種だ。

「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 フロア全域を揺るがさんばかりの雄たけびを上げると、レアオークが突進してくる。

 その瞳をにらみつけ、気迫負けしないように腹に力を入れると、私は長剣から両手を離した。


 流水拳。


「ブモオオロロロロロロロロロロロロロロロロ」

 苦しい勝利であった。

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