秘密結社に必要な人
ゴブリンから魔石らしきものを回収し終えると、01番さんから声をかけられる。
どうやら撤収のようだ。
この洞窟、広場の先にもまだ通路が続いている。
ゴブリン、洞窟なんてきたらもうお約束だ。ここは迷宮なのだろう。
いったいなぜこんなことに、という思いは尽きないが、おとなしく撤収する。
しかし悪(?)の秘密結社の戦闘員がなんでまた迷宮でゴブリンを狩らねばならないのか。こんなことではテレビの前の子供たちは混乱してしまうのではないだろうか。まあ、私の中で仮面の運転手さんは昭和で終わっているので、最近の子供たちがどんな正義の味方を観ているのかさっぱりわからないが。
洞窟から出ると、日はまだ高くさんさんと輝いている。
そういえば今は何時だろうか。時計もないのでせいぜい腹時計で、といいたいところだが、そもそもいつ食事を取ったかすらわからない。まあ時間に追われているような様子もないからいいだろう。ゴブリン幼稚園襲撃はだいぶ適当だったしね。
「イーッ!」
洞窟から出ると、二人が作業小屋に向かって走っていった。なにやら妙にテンションが高い。バイクにまたがると、お前も早く乗れとこちらに向かって盛んにジェスチャーしてくる。
はいはい。まったく仕方ありませんねウチの助さん格さんは。そんなことでは八兵衛になってしまいますよ。
帰路も快適だ。
周囲に広がるは一面の荒野。
その中を土煙を上げ、エンジン音を響かせてサイドカーつきのバイクが疾走する。
うーん。普通自動車免許しか持っていませんでしたが、ちょっと二輪免許がほしくなるかも。それくらいに気持ちがいい。BGMはやはりレッツゴー@イダーか。いや、太陽の子進化版もいいなぁ。私にとって最後のライダーさんだしな。
まあ、我々はやられるほうなんだけどね。
イベントもなく秘密基地? 本部? に到着。少し離れた倉庫にバイクを収納すると、一列になって帰還する。入り口の自動ドアは……特に何事もなく開いた。エレベーターに比べるとずいぶんセキュリティが甘い。いいのだろうか。
総合案内所を横目に見つつ、縦列行進。あ、なにやら気配を感じると思ってよく見てみると、そこかしこに監視カメラらしきものを発見。これはあれだな、侵入者がきたら警報が鳴り響いて警備員が駆けつけるのだろう。壁の向こうに詰め所でも設置されてたりするんじゃなかろうか。
さて、エレベーターまでやってくると、初めて利用したときと同じ認証を行って乗り込む。あっという間に目的地だ。
ポーンという気の抜ける軽い音とともに、扉が半透明になる。二人に続いて下りた先には、またも扉。その左右には扉を守るように怪人が立っている。お、こうもり怪人だ。
あれ、化粧の濃い女幹部さんのところからエレベーターまで移動する際に、扉をくぐったかな? あの時は、いや今も混乱してはいるが、そんな覚えはないぞ。それにこんなこうもり怪人を見たら絶対に忘れないはず。ということは、ここは最初の場所とは違う? はて?
そんな疑問をよそに、01番さんは扉の横に立つこうもり怪人に向かって、選手宣誓のように右手を上げて叫ぶお決まりの敬礼をする。それを確認するように、扉が自動で開く。02番さんは敬礼をやらないから、どうやら先頭の一人がすればいいのだろうとうかがい知ることができる。しつこく繰り返すが、本当に私が01番でなくてよかった。そして02番でもなかったことは幸運だ。二人の動きを見れば、自分がどうすればいいかはほぼ間違いなく理解できる。
そうして入室したその先は、一目でわかった。ここ、悪の秘密結社の研究所ですね。
いかにもな雰囲気を持つ何やらよくわからない機械の群れ。ホルマリン漬けになって並んでいる怪人たち。そして部屋の一番奥でこちらを見ている白衣の老男性。顔の半分が機械化されてますね。雰囲気ばっちり、マッドサイエンティストに違いあるまい! 女幹部と並んでお約束ですよね、こういう役柄は。かくいう私も、幼いころあこがれたことがありますよ、ええ。
「ふん、つまらん仕事が来たな」
あれ、博士はなんだかご機嫌斜めですよ?
いや、こういうキャラってたいてい偏屈者と決まってますので、あまり気にしないほうがいいかな?
「さっさと終わらせてやるわい。ほれ、こっちじゃ」
博士に先導されてひとつの機械の前に行く。他の機械と比べてもだいぶ大きく、ごちゃごちゃしている。
傍らのパネルを博士が軽やかに操作すると、プシューという音と白いもやを吐き出しながら、縦置きの棺おけのようなものが開かれる。
「ほれ、エネルギーストーンをよこさんか」
差し出されたその手のひらに、01番さんがゴブリンから回収した魔石らしきものを渡す。あれ、エネルギーストーンというのか。
投入口とかかれた装置に無造作に放り込まれる魔石改めエネルギーストーン。
「相変わらず最低限しか持ってこないな、あの女の部下どもは。まったく、どいつもこいつも。何のために生み出したと思っておるやら。……ぼけっとせずにさっさと入らんか」
01番さんがその言葉に従って棺おけの中に入る。
「一応聞いておくが、改造に当たって何か希望はあるか?」
「イーッ!」
「ああ、わかったわかった。まったく」
心底あきれたという体で、博士が再び傍らのパネルを操作する。今度は静かに、棺おけのふたが閉じていく。
「エネルギー、システム、良し。設定、良し。改造開始」
直前までとはうって変わり、博士の顔つきは真剣そのものだ。手馴れた動作といい、先ほどの台詞といい、かなりの回数繰り返した作業なのだろうが、それでも油断や弛緩を感じさせないのは、さすがプロフェッショナルといったところだ。
棺おけに断続的に激しく稲妻が走る。次第にその間隔が短くなっていき、稲妻が大きく激しくなっていく。やがてそれが限界に達したと思われたとき、轟音とともに周囲が閃光で満たされた。
閃光が消え去った後には、何事もなかったかのように棺おけが存在していた。
プシューという音と白いもやを吐き出しながら、また棺おけの扉が開かれていく。
そこから姿を現したのは……素っ裸のホスト風兄ちゃんだった。
なんで?
死神博士風に黒衣にしようか迷いました……。