レベリング
迷宮に戻ってきてから丸二日が経過した。
冒険者たちの足取りはぴたりと絶え、迷宮は静けさに包まれている。
さて、ここからだな。
エネルギーは満タン。盗賊から奪ったエネルギーストーンは、命をつなぐだけなら十分な量がある。流水拳を乱発するのはちょっと無理だが。
そして装備を確認する。
神官さんについて街に向かった目的のひとつが、この幼子の体でも使える武器の調達だった。
最初は飛び道具、はっきり言ってしまえばクロスボウを考えていた。女子供でも扱える殺傷能力の高い武器といったらこれだろうと思ったからだ。
だが、そもそもこの幼児に販売してくれるかということ、そして矢の消耗と購入費を考え、諦めた。
そうして考案したのが、この槍だ。
槍といったが、その長さは長剣よりもやや長いくらいの木の棒だ。幼児が取り回すには、重さとしても長さとしてもこれが限界なのだ。そしてそのただの木の棒の先端には、細工がしてある。
針を取り付けてあるのだ。
この針は、あの盗賊頭が持っていたものだ。10本ある。
拷問用だけあって細すぎるのがネックだが、折れないようにするために、全長の3分の2を木の棒に添えるように取り付けてある。これらの細工には、盗賊の持ち物から失敬してきたナイフが非常に役に立った。幼児のわりにうまくできたのは、器用値にポイントを割り振ったおかげだろうか。
さて、実践、実戦、実験だ。
これは実験なのだ。流水拳の魔力補充が可能なだけのエネルギーストーンがあるうちに、流水拳に頼らずモンスターを討伐できるようになるための。
狩場は迷宮に入ってすぐ地下1階のみ。ここならば、モンスターは確実にみな栄養失調だ。
曲がり角を曲がる。
いた、少し先にあのサーベルタイガーだ。こちらを視界に捕らえると、猫科の動物特有の柔らかな躍動で接近してくる。でかい図体のわりに速い。
こちらも槍を腰だめにし、すり足で二歩、前に出る。さあ来い!
正面から飛び掛るかと見えたサーベルタイガーは、直前になって流れるようなサイドステップで方向を変え、左斜め前方から牙をむいてきた。
だが、こちらもそれは読んでいたぞ!
左足を一歩引くことで体を回し、瞬時に正対する形を作る。
「きぇい!」
気合とともに突き出した槍、という名の木の棒が、とっさに体をひねってかわそうとしたサーベルタイガーの首筋に当たる。
直後。その衝撃で、私の体は後方に吹っ飛ばされた。
ぐおおおおお!
地面にバウンドし、そのまま通路の壁にたたきつけられる。まるで大型トラックにでも跳ね飛ばされたようだ。
「がはっ!」
背中をしたたかに打ちつけ、呼気がもれる。
だが、痛みに気をとられている暇はない。
槍はしっかり握られている。目の前に飛び散る火花を頭を振って振り払うと、すぐさま立ち上がる。
サーベルタイガーは!?
「ギャオオゥン、ギャオン、ギャオン!」
こちらには目もくれず、地面の上を文字通り飛び跳ね、のた打ち回っている。
効いたな。
にやり、と笑いがこみ上げる。
槍の先端を見る。針は、大丈夫だ。折れてない。
この針には、そう、あの盗賊頭が神官さんに使っていた毒薬がたっぷり塗ってある。
はじめから、この体では力技で倒せるなどと思ってはいない。狙いはショック死だ。
跳ね回るサーベルタイガーに駆け寄り、再び針を突き入れる。
「ギャオオオン!」
悲しげな悲鳴を上げ、天井に届かんばかりに跳ね上がる。
そのまま着地もできずに地面にたたきつけられると、ごろごろと転がり回る。
…………。
ふふ。か・い・か・ん♪
「ほーれ」
ぷすっ。
「ギョオンッ!」
「ほれほれ~」
ぷすぷすっ。
「ギャアオオンッ!」
「やったぜ」
最終的に、サーベルタイガーは自ら通路の壁面に頭を打ち付けて死んだ。
すごいな。モンスターに自ら死を選ばせるとか、どんだけ凶悪な神経毒なんだ。耐性がない相手ならとんでもない効果を発揮するな。
こんなモンを拷問に使うんだから、人間ってのは業が深い生き物だよねぇ。まあ、盗賊頭は本当にわずか針の先につけただけだったけど、それで神官さん転げ回ってたからなぁ。できるなら自分も早めに耐性をつけておきたいな。
テレテレテッテー。
頭の中に軽い電子音が鳴り響く。お、1匹でくるか。
【レベルアップしました! ステータス画面を開いてください!】
よーしよしよし。だが、まずはサーベルタイガーからエネルギーストーンを取り出すのが先決だ。
さて、ステータスオープン。
【名前:なし】 【称号:尊厳を破壊する者】
種族:C怪人(幼体) レベル:11 未確定BP:2
生命値:35/40/90 魔力値:50/50/90
肉体:20 精神:10
器用:07 俊敏:07
信仰心:40 運:15
【スキル】
肉体操作Lv.01
流水拳(極)Lv.∞ 消費魔力:50
【獲得可能スキル】
槍術Lv.01(要4BP)
どS(要4BP)
…………。なんか前にも同じようなことがあった気がする。




