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コマンダー03  作者: 前頭禿夫
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死にゆく迷宮

 迷宮入り口。

 再びここに戻ってきた。

 この迷宮が、それなりに冒険者の出入りが多いというのは本当のようだ。つい先ほども、4人組みのPTが迷宮へともぐっていった。森で魔物を狩る予定だが、とりあえずここは彼らの後をつけておこう。迷宮に出る魔物の強さを確認しておきたい。


「……おい、なんだよこりゃ!」

 剣士らしき青年が驚いたように叫ぶ。

 ふむ、なにやら雲行きが怪しいな。

 状況はこうだ。

 先ほどから後をつけていた冒険者PTの前にモンスターが現れた。サーベルタイガーのような外見をしたモンスターで、その強そうな外見に私もどきどきしながら戦いを見守ろうとしたのだが。

 剣士の一振りでサーベルタイガーは死んでしまったのだ。

 それほどの高レベルPTだったのかと驚いたが、彼らのほうがもっと驚いていた。そして先ほどの叫びである。

「おい、牙はどうだ?」

「だめだな、カスカスだ。もろくてこんなモン売り物にならねぇな」

「毛皮も酷いぞ」

「魔石を確認すればわかるだろう。どうだ」

 サーベルタイガーの死体を検分しながら冒険者たちが話している。

「……あったぞ」

 ナイフで腹に切込みを入れ、手を突っ込んで心臓の辺りをまさぐっていた冒険者がその手を抜き出した。

 その手、いや指につままれていたのはエネルギーストーン。

 小さいな。ゴブリンのエネルギーストーンと同じサイズじゃないか?

「うわ、ちっせえ!」

「これは、決まりだな」

 冒険者たちがお互いの顔を見合わせて頷く。

「どうする?」

「決まってるだろ、戻ろう。ギルドに報告して別の迷宮に行くしかない」

「かぁ~無駄足かよ」

 口々に文句を言いながら、冒険者たちが戻ってくる。

 おっとっと。いかんいかん、遭遇すると面倒だな。

 彼らと出くわす前に迷宮の入り口から出て、傍の木陰に身を潜めた。

「たっくよ~誰だよ、ダンジョンコア持ってったヤツは」

「持ち出しが禁止されてるダンジョンじゃなかったから、それは仕方ないだろ」

「むしろギルドに報告してないのがタチ悪いわ」

「いい狩場だったんだがなぁ。涸れちまったか……」

 これは……少し思うところがあるが、もう少し情報を集めよう。


 この日は一日、迷宮に出入りする冒険者たちの会話から情報収集に努めた。

 彼らは閉塞感のある迷宮から出ると、やはり解放感や安心感があるのか、一様にべらべらと口数が多くなっていた。おかげでいろいろと類推することができた。

 まず確実なのは、このダンジョンの心臓に当たるダンジョンコアが持ち去られたこと。

 そしてその影響で、このダンジョンが涸れてしまったことだ。

 ダンジョンコアについては、秘密結社のデータベースで調べたことがあった。その情報とも合致しているから、間違いないだろう。

 ダンジョンが涸れる、ということには覚えがなかったので、新しい情報だった。

 結社のデータベースで確認した情報は、ダンジョンコアは迷宮の心臓部であり、小さな迷宮のそれであっても高エネルギーを有していること。そしてコアを破壊、あるいは取り外してしまうと、迷宮にモンスターが沸かなくなり、やがて迷宮自体も崩壊してしまうこと。そして大抵はボス部屋の奥に設置されている、ただし例外もあるということだった。

 これは地点M、つまり練習用ダンジョンとして利用していた、あのゴブリンキングのいた迷宮を永続的に利用するための注意点として、重要事項に分類されていた。

 そして怒りの塔の攻略目標もこのダンジョンコアだ。

 結社の掲げる怒りの塔攻略とは、ダンジョンコアの奪取に他ならない。大迷宮と呼ばれるほど巨大化した迷宮のコアであれば、その内蔵するエネルギー量はとてつもないものになる。それを利用して何をする気だったのかは、あいにく下っ端怪人のおっさんには知る術もなかったが。

 問題は、ダンジョンが涸れるという話だ。

 こちらは、どうも自分が考えていたものと事実の間にずれがあったらしい。

 コアがなくなるとモンスターが沸かなくなるというのを、文字通りぴたりと沸かなくなると思っていたのだが、実際はそうではないらしい。モンスターは沸くには沸くのだが、恐ろしくレベルが低下している状態で沸く。同じ姿かたちのモンスターでも強さは雲泥の差であり、取れる素材の質も酷く低下する。

 ある冒険者は、モンスターが栄養失調状態で沸いてくると言っていたが、うまい物言いだと思う。

 ただ注意が必要なのは、コアがなくなる前に沸いたモンスターはもともとの強さを持っているということだ。コアがなくなった影響でレベルの低下はあるようだが、微々たるものらしい。

 冒険者にとっては、この点も非常に困りものだという。

 これは納得だ。死に行くダンジョンの最後の置き土産トラップみたいなものだろう。

 何せ同じ姿格好をした、レベル1とレベル100のモンスターが同居しているのだ。どんなに注意していても、レベル1を連続で相手していたら油断が生まれてしまうだろう。そこにレベル100がきたら手ひどい目に遭うに違いない。また、全てをレベル100を相手にするつもりでやろうと思ったら、それはそれでエネルギーの無駄遣いだ。もちろん、無駄遣いであってもこれが正解なのだが、そこを納得できないのが人間というものである。

 だから、涸れたことが判明した迷宮は、冒険者に避けられるらしい。

 これは、チャンスだぞ。


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