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コマンダー03  作者: 前頭禿夫
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盗賊たちの死闘

 ゆっくりと開かれていく隠し扉から飛び出さ……ない!


 まずは頭部を上半分だけ出し、周囲をすばやく確認する。

 幽霊さんの叫び声、そして男たちの足音と怒声がどの方向から響いてくるかは事前に注意して聞いていた。

 だからこそ、まずその反対方向からすばやく見渡す。

 よし、人影はない。横たわってピクリとも動かない女性はこの際無視だ。

 そして、視界の隅に目標物と思しきもの発見。

 よし、次は戦闘状況。

 そういう様式なのか、ゴブリンキングの時にもあった玉座を背に、こちらを正面とする幽霊さんに対し、男たちが背中を向けて半包囲網を敷いている。


 チャンスだ!

 残りの階段を駆け上がり、今度こそボス部屋に飛び出す。

 先ほど発見した目標物に向かって全力で駆ける。

 とてとてとてとて。

 ええい、遅い。2歳児程度の全力疾走など高が知れている。ステータスは俊敏に全振りするべきだったかも知れない。が、いまさらだ。

 男たちがこちらに気づいた様子はない。

 目標地点到達。

 一つ一つの動作が鈍い以上、どれだけ的確に動くかが勝負だ。

 盗賊たちの荷物がまとめておかれているそこで、地面に無造作に置かれた布袋を片っ端から開けていく。

 違う、これじゃない。

 これも違う。

 これは……違う。

 どこだ! どれだ! せめて目立つ宝箱とかにしておいてくれ!

「ぎゃあああああああ!」

 男の悲鳴が響く。

 ちっ、早速一人やられたか。

 あせる気持ちを抑えつつ、次の袋を開ける。中には貨幣らしき硬貨の詰まった小袋。そしてその隣に置かれた小袋の中身は。

 ……あった!


「ちぃ、幽体にゃ普通の武器じゃほとんど攻撃が効きゃしねえ! おい、レベロー、道具袋だ、道具袋もってこい!」

「へ、へい!」


 なに!?

 今、私は隠し扉に向かってとてとて猛ダッシュ中。

 だがこのままでは荷物を取りにくると思われる盗賊に姿を見られてしまうことになる。

 まずい、それは非常にまずい!


 頭に命じられた盗賊の一人が、部屋の隅にまとめて置いている荷物に向かって駆ける。

 彼が背を向けて走る間にも、迷宮のボスと思しきモンスターの叫び声と、男たちの怒声がひっきりなしに響き渡る。

「なんだ、こりゃ?」

 レベローと呼ばれた盗賊は、荷物を前にして一瞬困惑した。

 背負い袋が片っ端から開けられ、荷物が荒らされている。

「なんだ、誰が……」

 ゆっくりと、周囲を見渡す。

「おい、レベロー、早くしろ!」

 だが、背後から響いてきた頭の切羽詰った怒声に、あわてて当初の目的のものを倒れた袋から引っ張り出すと、もと来た道を急いで駆け戻る。

 そう、今はまずこの目の前のモンスターを片付けるのが先だ。

「頭ぁ、持ってきましたぜ!」

「よし! 炎の付呪符を寄越せ!」

「ええ、使っちまうんですかい」

「仕方ねえだろ! お前もポーション投げて援護しろ!」


 …………。

 ふぅ、危ない。間一髪だった。

 あの盗賊が荷物を取りに戻ってくるタイミングがもう少し早かったら、隠れられなかったな。

 カリカリカリカリカリカリカリカリ。

 今、自分のいる場所は隠し扉を潜った階段の途中……ではなく。

 この部屋にあった貴重な遮蔽物の下に隠れ潜んでいる。

 はい、ネタばらししちゃうと、ピクリとも動かない女性の身体の下にもぐりこんでおりまーす。

 う、ちょっといやなすえた臭いとべたつきが……がまん、がまんだ。

 そして盗賊たちの荷物から失敬してきたエネルギーストーンを経口摂取、つまり食事中だ。

 盗賊とはいっても弱い魔物くらいは相手にするだろうし、冒険者を襲えば戦利品として回収しているだろうと睨んだのだが、読みが当たった。

 それほど大量に持っていたわけではないが、これなら魔力値を全快できそうだ。

 ただし、問題はまだ残っている。

 エネルギーパックと違い、キリ姉さんも言っていたことだが経口摂取ではエネルギーとして吸収するのに時間がかかる。

 こんな風に落ち着いて状況を把握している風を装っているが、内心はかなりあせっている。エネルギー、今必要なのは魔力だが、その回復スピードはお世辞にも速いとはいえない。

 カリカリカリカリカリカリカリカリ。

 戦線は一進一退、じわじわと盗賊たちが押し込まれている状況だ。

 よし、この隙に隠し扉の先に逃げ込もう。

 戦闘に集中している男たちを尻目に、女性の下から這い出る。

 ごー! 突撃、突撃!

 とてとてとてとて~。


 無事到着。

 盗賊といえば自身の気配を殺したり、あるいは気配の察知に長けているものたちだから難しいかとも思っていたが、ありがたいことにその点は杞憂に終わった。

 それもそうか。ボス戦が始まれば出入り口が閉じてしまって外部からの侵入者はいない。

 そして単独で出現するタイプのボスなら、あとはそいつに集中すればいいだけだ。

 おまけにあの幽霊さん、ろくでもない気配をばらまいてるから、その分だけこちらの気配がかくれやすくなっているのだろう。

 カリカリカリカリカリカリカリカリ。

 勝負はおそらく、幽霊さんに軍配が上がるはずだ。男たちは盗賊だけあるというべきか、回避力の高さで何とかしのいでいるが、いかんせん攻撃力が足りない。

 盗賊の頭が先ほど使ったのは、付呪符といったか。エンチャント効果を発揮する符のようだ。

 それを裏付けるように頭の長剣が炎をまとっている。

 カリカリカリカリカリカリカリカリ。

 だが、それでも幽霊さんに対して効果は薄い模様。

 なんだろう。光属性とか聖属性とかそういう攻撃じゃないとあまり効果がなさそうだ。炎属性って、ゾンビとかには効きそうだけど幽霊にはあんまり効果がないんだな。やはり実体のあるなしが大きいのだろうか。

「くそぅ、ポーションはもうねえのか!」

 そして生命力を回復するポーションは、幽霊には攻撃になると。うん。ファンタジーあるあるだな。

「か、頭ぁ、たすけ……」

 あ、また一人やられた。生命力を吸い取られたのか、枯れ木みたいになってへし折れてしまった。

 10人くらいいた盗賊も、残りは4人か。半数を切ったな。

 これならうまくいきそうだ。ふふ、計画通り(ニヤリ)。

「か、頭!」

「なんだ、泣き言ならきかねえぞ!」

「違ぇやす、あいつ、あの女ですよ!」

「あん、あの女?」

「あ、あの女、神官じゃねえんですか! こいつに対してなんか有効な手が」

「!!」

 盗賊たちの表情に驚きと希望が浮かぶ。


 なにいいいいいい!?

 これは考えてなかったパターンだぞ!

 そしておっさん(幼児)の顔には驚きと焦りが浮かぶのであった。

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