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コマンダー03  作者: 前頭禿夫
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目覚め

 ああ、夢を見ているんだな。

 働いている自分を、なぜか客観的に見ている自分を意識したことで、これが夢だと気がついた。

 無駄な電気は消し、フロアの一角、自分のいる場所だけが明かりが灯っている。

 二十代後半、とある縁で勤めることになった職場の風景だ。

 この職場に私がいたのは、一年ちょっと。だが、あまりの過酷さに、3、4年は勤めたような印象がある。

 思い返せば、いろいろと苦笑いとともに思い出がよみがえる。

 長時間労働、うち休憩はトイレ2回と昼飯を食った7分程度。合計すると15分にも満たなかっただろう、最も忙しかった時期。

 疲れ果てて家に帰り、眠ろうとして何か忘れていると思い、気がついたのは夕飯をとっていなかったこと。

 一年ちょっとの勤務で、7キロ減った体重。

 疲労で集中力が失われ、いすに座ったまま5分の仮眠を取ろうとしていた私を丁寧に起こしてくれた上司。そしていただいた、「こいつは働いていない」というお言葉。

 その上司に、何を見てものを言っているのかと食って掛かった先輩。

 一方で、同じ部署にもかかわらず何の指導も助言もしてくれず、ただ批判だけをぶつけてくれた同僚。

 当時は、ただがむしゃらに駆け抜けることしかできなかった。

 懐かしい思い出だ。

 良き思い出も、悪しき思い出も、今となってはしかし、ただ懐かしさだけが残る。

(若かったなぁ……。もっと器用に立ち回ることだってできただろうに、そうしなかった、できなかった。それはただの意地だった。傷つけられたプライドを、ただ意地を通すことで補填しようとした日々だった。……まあ、あの無能上司とくそ同僚だけは今でも絶対に許さんが)

 懐かしさしか残っていないはずだったのに、ふつふつと怒りがわいてくる。

(大体、あの無能上司、酷すぎだろ! 私だけならいざ知らず、どの社員に聞いても無能という評価が返ってくるとかありえないだろ。職場を移って数年後、聞こえてきた評価が「無能」しかなかったのには乾いた笑いしか出なかったわ!)

 あれ? なんだか怒りが際限なく湧き上がってくるぞ?

(うおー、腹が立つ! あのハゲ野郎、次に会ったら絶対殴っちゃる! 殴る! 殴る! 殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴るなぐーーーる!)

 バキンッ。

 怒りとともに振りかざした拳が、何かをぶち破った。

 うわ、何か壊してしまったか!?

 物理的衝撃を確かに感じつつ。

 それ以上に、精神的動揺と衝撃が、急速に自分の意識を夢のまどろみから浮上させていくのを私は感じていた。



「なぐーう!」

 突き上げた拳が天井に穴を開けた。

 ……天井?

 頭の少し上のところに穴が開いている。天井にしては、低すぎないか。

 いや、待て。

 周囲を見渡す。

 右、左。前、後ろ。どこも真っ暗闇だ。唯一、頭上に開いた穴の先はほのかに明るい。

 なんだこれは?

 私は、そうだ、強化改造を受けたんだ。あの珍しいスライムから取れたエネルギーストーンと、博士が送ってきたものをつかって強化改造を受けたはずだ。

 で、あればここは棺おけの中のはずだが、扉らしきものがないぞ。

 さっぱり状況がわからん。まずはここから出ることが第一だろう。

 そうと決まれば、まずは頭上の穴に手をかけてみるか。簡単に穴が開いたし、壊すのは簡単だろう。

 そう思って手を伸ばしてみて、ふと気がついた。

 あれ、なんか手が小さくなってるような……?

 それになんだか、体の感覚が違うぞ。なんだろう、なんといえばいいのかわからないが、妙に違和感がある。まさか、強化改造の結果、かなり違う形態になったんじゃなかろうな。

 ええい、とにかく行動だ。


 穴のふちに手をかけ、少し力を入れるとパキリと割れた。

 最初は慎重にやっていたが、次第に適当かつ早くなっていく。こういうところは性格がでるよね。うん。

 どんどん足元に向かって穴を広げていくと、やがて自分が出られるだけのサイズになったので、最後は跨ぎ越すようにして外へでる。

 ぼんやり明るいと感じていたが、違うな。あたりは暗闇だ。ただ、自分がいた場所よりわずかに明度が高いだけだ。

 目に入る光景は、研究室のそれ。だが、博士のいた第1研究所とも、強化改造を受けた第2研究所とも違う。

 そしてなにより。

 沈黙し、一切の動きを見せない機械群。

 降り積もった埃と塵。

 老朽化を色濃く見せる周囲の光景は、ここを訪れるものがいなくなって久しいことを物語っている。


 おっさん、もしかしてリストラされたんでしょうか?

 本当に理不尽な展開しかないなぁと思いつつ周囲を観察していると、ふと目にとまったのは大きな姿見。

 上半分は割れてしまっているが、自分の目線なら問題なく全身を映せるはず。

 そうして姿見の前に立つ。

 そこにいたのは、推定年齢は2歳ぐらい、黒髪黒目の男の子。

 あらま、可愛らしい子だこと。

 ……うん。わかってる。お約束だね。


 うーん、これが今の自分なのかぁ。

おっさんが、渋いおっさんが描きたい……なぜ子供になってしまうのだ!

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