戦闘回避
さて、我々実験部隊は現在、迷宮11階へと到達したところである。
「何だってまた、10階からのランダム転送で11階を引くのかね。21階に到達しちまえば入り口付近から一気に飛べるようになるんだから、19階でも引き当てりゃいいんだよ」
「トイレ怪人なのにウンがない」
そこのお嬢、汚いおっさんギャグはやめなさい。
前回の探索終了後、我々は直ちに第2研究所に戻って記憶の記録ならびにスライムが出した液体の分析を依頼した。程なくして判明した結果は、スライムの体液。
そんなことは言われるまでもなくわかっとるんじゃ、と叫びそうになったのはおっさんだけで、お目付け役二匹は熱心に研究所職員と話し込んでいた。
「スライムは分裂や融合も行う。それなのにどうしてこの体液を再吸収しなかったのか。自分の体液なんだから苦でもなかったはずなのに、ますます不思議だねぇ」
「そこに水流拳の秘密があるのかも」
あ、はい。私のクラス固有技能なのに、なんかすいません。お手数おかけします。
嬉々として二人は報告書を作成し、研究員さんに預けていた。研究員さんたちも博士の傘下の部隊なので融通を利かせてもらいやすい。というかキリ姉さんとサキちゃんがえらい人気だ。
そうして我々は、再び怒りの塔入場待ちの行列に並んだのであった。
「11階に出現するモンスターは色々いるけど、一番多いのがオークだよ」
ああ、ファンタジーの汚れ役をよく引き受けてる豚の皆さんですね。いつからそういうイメージが定着したんだろうなぁ。今となってはわからんが、ちょっと知りたかったな。
「オークキングがいるわけでなし、マジシャンやプリーストもでない。本当にただのオークさ」
「でも数が多い」
聞けば常に10匹前後で固まっているらしい。
分断された初心者PTなんかにとってはずいぶん厄介な話だ。
「まあエネルギーストーンの回収にはちょうどいいさ。流水拳の調査には1匹いれば十分だから、残りはさっさと片付けちまえばいいね」
「了解。では出発」
了解。では豚さん退治としゃれ込みましょうかね。まさか血を見ると「血ぃ俺の血ぃ!」とか発狂する拳法殺しさんはいないだろうから、大丈夫でしょ。いてもどうにかしちゃうけど。
さて、敵影発見。
ふーむ、情報どおり11匹の集団だ。
「戦い方は自由にしなよ。あたしたちは後ろで控えてるから、がんばりな」
「どうしても駄目なら手伝う」
あー、はい。そうだと思ってましたとも。スライムを相手にしたときの経験で、単独戦闘だろうということは予想してた。
というか、この2匹は私の観察が仕事だから、アドバイスや情報はくれるけど基本、戦闘には参加しないんだよね。当たり前といえば当たり前だ。
さてどうしたものか。正面突撃でもいいが、もう少しうまくやりたいね。
そんなことを考えていると、おや。我々とは反対方向からこちらに近づいてくる気配がある。冒険者かな。
ひー、ふー、み……足音の主は5人か。この重々しさから考えて、全員全身鎧を装備しているだろうな。
「ちっ。面倒なやつらが来たね」
キリ姉さんが珍しく不快さを隠さずにぼやく。知ってる相手なのか。
「おそらくレフィント王国の騎士団。あたしたちとは敵対的中立関係」
レフィント王国。ああ、この怒りの塔の領有を主張している国家か。門前町で税金を取っているのもこの国だったな。
どうしやす姉御?
「いきなりなんだい、その口調は。まあいい、下がるよ。無意味に戦端を開いて将軍に迷惑をかけるわけにはいかないからね」
「それにしても珍しい。あいつらは普通、この階層にはいない」
聞けば、レフィント王国の騎士団は普段31~80階で活動しているらしい。その幅がだいぶ広いのは、やはり上級騎士とでも呼べる精鋭部隊が最前線で活動し、低い階層では新米騎士などが訓練を兼ねて活動しているからだそうだ。
ちなみに、この階層に来てすぐのときにキリ姉さんがぼやいたように、この怒りの塔では10階層ごと、ボスを討伐した次の階に入り口付近から直接飛べる魔方陣がある。21階、31階、41階という具合だ。
しかし、その割には10階のボス部屋から飛ぶ魔方陣は大行列だったような気がするが……?
「さっきはあんたに19階を引けといったけど、ありゃ冗談だよ。あたしたちは怒りの塔攻略において、入り口付近の魔方陣を使うことはないからね」
「あたしたちだけじゃない。冒険者も同じ」
ほう。
ははぁん、読めた。レフィント王国はその魔方陣の使用を騎士団限定にしているか、高額の使用料を設定するかしているな。
「あたり。その両方」
サキちゃんがぱちぱちと拍手する。
「おまけに連中、この塔に出入りする段階でも冒険者から入場料を巻き上げてるだろ。そんなに何度も巻き上げられてたら商売上がったりさ。だからみんな手間隙かけて行列に並んでるのさ」
「冒険者から騎士団への評価はすこぶる悪い」
そっか。そりゃそうだろうな。何もせずに上前をはねているようなもんだからな。
ああ、そうか。だから敵対的中立関係なのか。合点がいった。
うんうんと頷いていると、こちらを見てにやり、とキリ姉さんが笑った。
「わかったみたいだね。このダンジョンは出入りするだけでも金がかかる。だから、できればダンジョンの中だけで準備を整え、休憩がしたい。そんな場所は普通ない。ダンジョンの中なんだから」
「でも、ここにはある。地下都市が」
なるほど。
だからこそあの盛況があり、冒険者との友好関係がさらに後押しされると。そしてそれは、裏を返せば騎士団との敵対関係だ。
「冒険者にしてみりゃね、騎士団は迷惑以外の何者でもないのさ。ダンジョンで危険な状況になったからといって手助けしてくれるわけでもない。それどころか、取り残された仲間を救出するために近道を使おうとすると、えらい吹っかけてぼったくるときてるんだからね」
「自分たちに何のメリットももたらさない。いい迷惑」
実態を伴っていないのに、領有を主張するものだから矛盾が生じてしまったということだな。
そしてその間隙をついて、冒険者に明確な形でメリットを提示する、地下都市というシステムを構築したと。
おおお。マフィア将軍、有能すぎるでしょ。いまさらながら改めて震えがきますわ。
そんな話をしながら、先ほどの地点から離れるように歩いていると、前方にオークの気配がする。
足を止めてじっくり探ると、12、いや13匹いることが感じ取れた。
ようし、気を取り直してがんばってみよう。
おっさん、トンカツもカツ丼も豚汁も大好きだったからね!
また解説回になってしまいました。




