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コマンダー03  作者: 前頭禿夫
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行列のできる迷宮

 02番にアドバイスを与えた我々は、いよいよ怒りの塔へと侵攻することと相成った。

 いざ行かん、未知のダンジョン!


 と、気合を入れたのは良かったのだが。

「相変わらずの人通り。流石」

 キリ姉さんの上に横向きに腰をおろしたサキちゃんがのんびりと口にする。

 現在、怒りの塔1階。

 ここにたどり着くまでは苦労の連続だった。

 主に人混みが理由で。

 なにせ、地下都市からここまで延びている通路、そして怒りの塔地下1階から地上1階までの通り道、そのすべてが冒険者でごった返していたのだ。

 そりゃ地下都市もあれだけ繁栄するはずよ。

「大迷宮ってのは伊達じゃないよ。いったい、毎日どれだけの冒険者がここに足を踏み入れているのかわかったもんじゃないね」

 キリ姉さんものんびりと答える。

 右を見る。冒険者。

 左を見る。冒険者。

 後方確認。冒険者。

 前方確認。冒険者。お、滑って転んだ。

 モンスターの姿が確認できないのですが。

「そりゃそうに決まってるじゃないか。見つけ次第狩られてるんだから」

 ええ~。

 なんと言うか、浪漫がない。

 迷宮には6人以上のPTでは侵入できず、それ以上の人数が一箇所に固まるとモンスターが活性化して大量発生、暴走が起きるとか。善と悪は同じPTは組めないとか。そういうのあるじゃないですか。

「ない」

 サキちゃんに一刀両断される。ひどい。

 肩を落としつつ、もう一度周囲を、今度は迷宮内部の様子をつぶさに観察してみる。

 壁面はレンガ造りのような見た目だが、ぼんやりと発光しており、なにやらいかにも魔力がかかっていますという印象だ。

 軽く拳でたたいてみると、かなり硬質な音が返ってくる。

 通路の横幅は、そうだな、高速道路の3車線分くらいある。天井の高さは3,4メートルといったところか。

 しかし相も変らぬ人混み人混み人混み。観光客になった気分だ。

 すれ違う、あるいは追い抜き追い抜かれる冒険者たちも、こちらにちらりと視線をよこすが、それだけだ。時折お目付け役2匹を見てぎょっとした表情を浮かべる冒険者もいるが、周囲がまったく気にしていないので、特にこれといった行動を起こすものはいない。

 ダンジョンらしい要素がどこにもないではないか。

「ある。階層ボスがいる」

 おお、なんだ王道の皆さんがいるんじゃないですか。早く言ってくださいよ奥さん。

「ただし、10階層ごと。だから最初のボスは10階」

 …………。

 もういい。さっさと最初のボスまで行こう。


 そうしてずんずん進んでいたのだが、よくよく周囲を観察していると、モンスターが出現する瞬間に出くわすこともあり、なかなかに興味深い。

 通路の一箇所にもやが立ち込めたかと見ると、見る見るうちに濃度を増していき、やがて形作られてモンスターとなるのだ。地点Mことゴブリン迷宮では目を離すといつの間にかリポップしていたから、こういう場面を見るのは面白いな。

「それは迷宮が生み出しているタイプのモンスターさ。それとは別に、迷宮の中に勝手に住み着き、繁殖しているやつなんかもいるよ」

 ほう、なるほど。確かに迷宮が生み出すモンスターを捕食するものがいるならば、こんなに楽な狩場はないだろう。

 黙っていても飯が沸いて出る。すごい、引きこもり垂涎の物件だ。


 そんなこんなで、あっという間に10階、ボス部屋。

 残念なことに、ボス部屋の扉は大きく開け放たれ、冒険者の行列に貫通されていました。

 あちらこちらから「押すな」だの「横入りするな」などといった声が聞こえる。

 ただの人気店ですね。はい。


 行列に並んで待つこと十数分。

 ようやく先頭が見えてきた。

 ボス部屋の中はテニスコート3面分ほどの広さがある長方形をしており、入口と、そして対になるように入口の正面一番奥だけがへこんでいる。

 その奥まったへこみの地面には光り輝く魔法陣があった。


 おお、ここまでは上の階へ行くのにすべて階段だったから、新鮮だ。

 先を行く冒険者たちを見ていると、魔法陣の上にすし詰め状態になっている。そして5秒ほど待つと、ひときわ激しい光とともにその姿が掻き消えた。

「ここの魔法陣から飛ばされる先は、かなりランダムなんだよ。なにせフロアすら違う。11階から19階、そのどこかに飛ばされるんだからね」

 なぬ?

 ということは、場合によっては10階の次にいきなり19階なのか。

 それは、運が良いのか悪いのか、なかなか難しいところじゃないか?

「そう。初心者殺しの罠」

「ここまでは誰でもこれる。だからこそ、いきなり実力に合わない19階なんぞに飛ばされた初心者は、間違いなくあの世行きだろうね」

 なるほど~。なかなかえげつない罠だわ。

「それにここまでは人の流れに乗って一直線だろ。11階からはフロアの広さがおよそ4倍になる。塔の中にあるくせに、どう考えても塔の外周より広いときてる。流石ダンジョンだよ」

 ダンジョン万能だな。どんな理不尽もダンジョンだからといえば許されそうだ。おっさんが結婚できなかったのも、ダンジョンのせいに違いない!

 そんな話、まあ私はイーイー言ってるだけだが、そんな話を交わしていると前に並んでいた冒険者たちがこちらをじっと見ていることに気がついた。

 今の話に反応するということは、初心者か、あるいはこの怒りの塔に挑むのが初めてかだな。装備や体つきを見ると初心者ではなさそうだが、後者かな。

「だからね。……PTを分けて魔法陣に載るんじゃないよ。こいつは忠告さ」

 キリ姉さんの台詞の後半は、前に並んだ冒険者たちに向けられていた。

 巨大カメレオンから忠告されたことに動揺が伺えたが、それでも、リーダーらしい若い男性が胸に手を当てて軽く頭を下げた。おお、立派なリーダーだな。こちらの3匹は胡散臭い目を向けられても仕方ないというのに。


 さて、待ちに待った初魔法陣! おっさんちょっとわくわくしちゃうぞー。

「何言ってんだい。ウチのエレベーターも同じ原理だよ。雰囲気作りのために浮遊感を加えたりしてるだけさ」

 え。なんですと?

「お姉ちゃんの言うとおり。全然初じゃない」

 サキちゃんまで加わってばっさり。

 ええ~。そんなぁ。


 おっさんちょっと、いや、かなりがっかりだよ。トホホホ。

10階ボスは登場すらしませんでした。哀れ。

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