3人(乗り)ライダー
トンネルを抜けると雪国……いやちがう、荒野だ。
しかもトンネルって何だ。自動ドアではないか。
脳内で自分に突っ込みを入れ、02番さんに続きつつ、後ろの自動ドアを振り返ってみる。
荒野にドーム上の建物が鎮座していた。
正直あまり隠すつもりが窺えない。いや、あたり一面が荒野だから、立地自体が隠蔽になるのか。よく見ればドームの外壁は荒野になじむような岩石色をしている。迷彩か。
しかし荒野のど真ん中ということは、幼稚園バスを襲撃するのも一苦労ではないだろうか。出勤が毎回遠距離出張になるのか? それとも都市には支店が存在していて、そちらにつめればよいのだろうか。何から何まで疑問が尽きません。
おっと、考え事をしていたら02番さんから少し遅れてしまった。足を速めて追いつく。
社屋から少し歩いたところにある、大きな岩の前にやってきた。
……いや、この岩少し変だ。妙に横に長いし、よく見ると取っ手のようなものが複数個所に見える。
そう考えていると、01番さんが取っ手らしきものに手をかけて横にスライドさせる。横開きの扉か。
01番さんが中に入っていく。続いて……と思ったら02番さんが動かない。あれ、何だ。私たちはここでお留守番か?
と考えていると中からエンジン音が聞こえ、ゆっくりと01番さんの姿が現れる。
サイドカーつきのバイクだ。これも荒野に合わせて迷彩されている。……街中にいったら却って目立つのではなかろうか。
ん、01番さんが扉を指差す。ああ、閉めろということですね。了解。
扉は重そうだったが、思った以上に簡単に閉められた。
振り返ると02番さんがこちらをみている。なんだ?
「イー?」
サイドカーと01番さんの後ろを指差している。どちらに乗るかということのようです。選択権を私にくれるのか。ありがたい。ここはサイドカーを希望しよう。乗ったことがないので少しわくわくする。
頷くと、01番さんの後ろに置かれていたヘルメットを取って腰を下ろす02番さん。私もサイドカーに乗り込み、ヘルメットを……。
おい、なんで鍬形なんだよ!
「イーッ!」
二人が私を指差してイーイー笑っている。あ、お前ら知ってたな!
悔しいが仕方がない。しかし、この秘密結社ノリが軽いな。案外、仮面のライダーさんと戦っていた皆さんも、普段はこんな感じだったのかもしれない。
……何で私はこんなになじんでしまっているのでしょうか。
ええい、考えてもどうにもならない場合は行動あるのみ。もともとグチグチと考え込みやすいタイプだった私は、だからこそ迷ったり失敗した際には行動することを心がけてきた。そうしないとまるで動けなくなる人間だったから。
即断即決。打たれ強さ。チャレンジ精神。
どれも私にはなかった。だからこそ、自分の心に鞭打って動いた。
新しいこと、未知のこと、自分にできないこと。
そこに飛び込む勇気などなかったから、無理やり自分のケツをたたいて飛び込んだ。そのエネルギーは小さなプライドと、怯懦を叱り飛ばす理性。
簡単に言えば、意地を張って生きてきた。
意地を張るって、大事なことだ。
いつからか、どうも若い子たちに意地がみえなくなった気がしていた。
悪いことではない。まっすぐな子が増えたと感じるようになった。
しかし、だからこそ、寂しさも感じた。自分のように、ひねくれながらも意地を張ってまっすぐに生きようとする、ゆがんだ木材を組み合わせてまっすぐな柱にしているような、そういう人間を見なくなった気がしたから。
年をとったな、と感じた。生涯独身でいようと思っていたが、お見合いをして家庭を持とうと思うようになったきっかけのひとつだったかもしれない。
まあ今はなぜか怪人になってますけどね。イーッ!
しばらく走ると、屋根と柱だけの作業小屋のようなものが近づいてきた。
その隣には、ぽっかりと口をあけた洞窟。
3人を乗せたバイクは作業小屋に近づくとスピードを落とし、やがて徐行運転で屋根の下に入ってとまった。どうやら目的地のようだ。
洞窟が目的地? わけがわからない。
バイクを降りる二人に続いてサイドカーから降り、鍬形を脱いでサイドカーのシートに置く。
「イーッ?」
01番さんが親指でクイっと洞窟を指す。準備はいいか、ということか。
「イーッ!」
親指を立てて応えてやると、二人が頷く。
さあ、鬼が出るか蛇が出るか。……正義の味方さんの総本部、なんてことはないですよね?
おっさん泣いちゃうぞ。