トイレ座の怪人
クラス 宿星拳闘士(トイレ座)
クラス固有技能 流水拳Lv.1
「…………」
博士が眉間に深いしわを寄せてデータを眺めている。
いや、あの、眉間にしわを寄せたいのは私のほうですよ。何ですかこれ。
宿星拳闘士はまだいい。
おっさんの好みからするとちょっーと、渋さが足りないとは思うけど、悪くないクラスだよね。
トイレ座、がついていなければ。
ねえねえ、星座な~に? 便座。
などという小学生じみたギャグですか。はは、童心に返るね!
そんなわけあるか。
クラス固有技能。かっこいいね。あれだよね、その職独自の技だよね。
流水拳。かっこいいじゃない。流れる水のごとく、相手の攻撃を受け流す技か? 激流のように、敵を打ち砕く技か? はたまた、相手に合わせて形を変える、変幻の技か?
うん。わかってるよ。わかってるんだ、おっさんだって。
でもさ、少しぐらい夢を見てもいいよね。
おっさん、トイレ会社でデザイン設計とかしてたわけじゃないんだけどなぁ。
「トイレ怪人。仲間」
うっさいわ、スカンク娘! 否定しきれないところがさらに傷をえぐるのよ! もうやめて!
「よかったね、サキ。ちょっとタイプは違うけどお仲間だよ」
「うん」
おお、純粋に喜んでらっしゃる……。そんな笑顔見せられたら、おっさん黙るしかないよ。ぐぐぐ、悔しいが子供には勝てぬ。
おや、今まで微動だにしなかった博士が、厳しい顔でこちらに近づいてくるぞ。
「これは、初めてみるクラスだ」
そらそうでしょうとも! なに、そんなわかりきったことを言うために間を取ってたの。そろそろ本気で怒るぞ。いや、泣くぞ。
だが、そんな風に感じていたのは私だけだったらしい。
キリ姉さんとサキちゃんから、驚きが伝わってくる。
「博士が知らないってことは、かなりレアじゃないか」
「てっきり同種がいると思った。びっくり」
え、そうなの?
「拳闘士は珍しくもない。そこから派生するクラスには、わしの知らぬものもあろう。だが、このクラスはまるで別物だ。肉弾戦を用いるため、拳闘士とついたのだろうが、それ以外が一切不明だ」
ま、まあ、宿星とかトイレ座ですからね。
「トイレ座はどうでもよい。いや、どうでもよくはないが、しかし何かしら星座をモチーフにしていることはわかる。だが宿星はなんだ。運命を星に導かれる拳闘士? なんだそれは。個々の怪人が、宿命と呼べる星を持つというのか。いや、導かれるのは拳闘士というクラスなのか。トイレ座に」
ちょっと博士、なんだか支離滅裂になってますよ。
「トイレ座。お前は、いやお前の精神、記憶はなにかトイレ座にかかわりがあるのか。調べた限りでそのような情報はなかった。なにかあるのか。トイレと、トイレ座と深くかかわりが」
ないわ! そんなもん一切ないわ! そんなものはT○TOか東○に任せてくれ!
「いや。いやいや。トイレ座は大きな問題ではない。トイレ座であることは問題ではない。やはり宿星。運命という不確定要素をもつクラスであることが問題なのだ」
うーん。この発狂ぶり。マッドサイエンティストって感じだなぁ。
ぶつぶつつぶやくその姿を眺めていると、突然博士が私のほうをじっと見つめ、それからサキちゃんとキリ姉さんを指さした。
「カメレオン怪人ならびにゾリラ怪人。トイレ怪人に同行し、その行動を記録せよ。その変化、成長をつぶさに余すところなく記録するのだ。これは作戦命令とする」
二人がびっくりして博士を見る。いやちょっと待て。今さりげなく、トイレ怪人とかいったな。なに、私はトイレ怪人で確定なの? サキちゃんだけかと思ったら、あんたもですか博士。
「ちょ、ちょっと待っておくれよ博士。同行するのはともかく、どうやって記録すりゃいいのさ。本人の記憶を解析するだけじゃ駄目なのかい」
「駄目だ。記憶解析は当然として、その上でこいつを見る第三者の眼がほしいのだ。いや、こいつを見るといっては語弊がある。こいつを取り巻く環境、こいつにかかわる他者、そういったものを複数の目で確認せねばならぬ。運命などというものは、本人の目では見えぬことが多い。近くにいる他者のほうが、えてして気がつくものだからだ」
「……つまり、記録とは、私たちの記憶。同行し、ともに行動すること?」
「ああ~……そういうことかい……」
納得半分、あきれ半分といった感じの言葉が、キリ姉さんから発せられる。
「でも、それなら、記憶の解析と保存はこまめにしたほうがいい。どうするの」
首をかしげながら問いかけるサキちゃんに、博士が頷く。
「そうだ。だからこそ、遠征作戦はその環境が整っている場所でなければならぬ。『怒りの塔』を目標地点に指定する」
「納得。了解」
「なるほどねぇ。あそこなら確かに条件に合致してるよ。りょーかい」
なになに? おっさん一人だけ蚊帳の外なんですが。
「解析記録の提出は半年に一度とする。直接でも、定期便でもかまわぬ。ただし状況に大きな変化があった場合は必ず連絡を入れよ。よいな」
「了解」
「わかったよ」
「イーッ?」
いや、えっとわかりませんよ。
誰か説明。説明ぷりーーーーず!
コマンダー03ことおっさんは、トイレ怪人として認定されました。合掌。




