目標地点M侵攻作戦2
現在、私は地下10階、通称ボス部屋の前にいる。
結論から言ってしまえば、ゴブリンは上位種になっても所詮ゴブリンであった。
ほぼ一撃で勝負が決まるので相手にならんのです。はい。
魔法はどんなもんかなぁと警戒し、実際今でも警戒はしているが、どうもファイアーボールとかそんな感じのやつしか使ってこない。あれだな、最も初歩の魔法なんじゃなかろうか。
回収できるエネルギーストーンもたいしたことがない。
エネルギーストーンは大きさや輝きが品質を見分けるための基準らしいが、あいにくとまったく見分けがつかない小石でしかない。
だが。
だが、である。ここはボス部屋。期待も警戒も今までの比ではない。
そもそも、戦闘に関しては通路などの地形を利用して、できるだけ同時に多数を相手しないように心がけてきた。せいぜいが同時に3匹、それも狭くて互いの動きが阻害されるような位置取りだ。
しかしここではそうはいかない。
情報端末によれば、ボス部屋は大部屋。
そしてボスのゴブリンキングを筆頭に、親衛隊が10匹おり、計11匹を同時に相手取ることになる。
さらに親衛隊の中には、ゴブリンマジシャンとゴブリンクレリックがそれぞれ1匹いるらしい。
囲まれたらまずいのは明白。ということは、取るべき戦術は一つ。
機動戦だ。
とにかく動き回るしかない。
あたらなければ、どうということはないのだよ!
ではエネルギー残量確認。ふむ。苦しいわけではないが、ここはエネルギーパックを使って満タンにしておこう。ボスの前では全回復。これ基本。
これでエネルギーパックの残りは4本。
エネルギーパックは、怪人にとって食料であると同時に、回復薬としての働きもある。人間が病気や怪我を自然治癒させる働きを、きわめて強力にしたものと考えればいい。
裏を返せば、骨折などに対しては効果を発揮しても、切断された腕を生やすようなことはできないということだ。もちろん、切断された腕をしっかりつないで体内のエネルギーを用いれば、つなぎなおしは可能だ。だが、戦闘中にそれが可能であったとしても、つないだばかりの腕が使い物になるかどうか不安は残る。実際試してみる気にもなれないしね。
生きて帰れさえすれば、再生槽に入って失った部位も回復できるから、がんばるとしよう。
エネルギーパックを入れたリュックの口は開けたまま、左手に持つ。
さあ、いくぞ。
コマンダー03、おっさん、出るぞ!
ボス部屋に入ると、背後の出入り口が消えた。やっぱりこういう仕様なのね。
リュックを下ろし、すばやく周囲の地形を確認。正方形、いやわずかに縦に長い長方形か。
天井は高く、壁面は滑らか。壁を上ることは厳しそうだ。
正面奥、ぽつんと置かれた玉座(という名の椅子)にボスの姿、その手前、左右2列に分かれて親衛隊。全身鎧に長剣と盾で身を固めているのがそれぞれの列に4匹ずつ、計8匹。そして親衛隊の列一番後ろに、白いローブと、……白いローブのゴブリン。なんだ? マジシャンとクレリックはどちらも同じ格好なのか?
中央奥に位置どるボス自身の格好は、革でできた軽鎧だ。
ボスだけが軽鎧? どういうことだ。ボスは重装鎧ではなかったのか。
ボスが立ち上がるのと同時に、親衛隊が一糸乱れぬ動きで抜剣する。
左右の白いローブが杖を高く掲げ、何事かを唱えると、ボスであるゴブリンキングの全身が淡く発光した。
これは、補助魔法か。となると、あの二匹はどちらもクレリックなのか。マジシャンがいないことといい、ゴブリンキングの装備の違いといい、事前に聞いた情報と差異がある。注意が必要だ。
ゴブリンキングが両手で長剣を握り締め、肩に担ぐとこちらに突進してくる。
速い! 他のゴブリンの比ではない!
袈裟懸けに斬り下ろされた刃を、半歩下がることでかわす。ゴブリンキングは振り下ろした先の足を半歩すり足で前に進めると、
! 腕を返した!!
電光石火の煌きで、逆袈裟に長剣がはしる。
上体を大きくのけぞらせるようにしてかわすが、まずい、このままだと体勢が崩れる。
うおおおおお、動け足! 大きくなくていい、細かく小さく、しかし素早く動け!
強く命じながら、足を小刻みに動かし体勢を整える。突きこまれてきた長剣を半身になってかわし、裏拳で剣の腹を弾く。
弾かれた長剣はくるりと円を描いて再び襲い掛かってきたが、バックステップが間に合っている。
間合いが開いた。
目を相手から切らさぬようにしつつ、バックステップでいっそう距離をとる。
視界で残りのゴブリンたちの様子を捉えると、クレリック2匹を守るように、全身鎧のゴブリンたちが壁を作っていた。
なるほど……。
クレリックが補助および回復。その他はその護衛。そして戦うのはキングのみ。
ボスであるキングの戦闘力を最大限高めることを考えた構成だったのか。
そしてキングは、剣士か。
なるほど。なるほど。
いいじゃない。
おっさん、時代小説も大好きでかなり読みこんでるよ。
正統派剣士に対して、こちらは素手。
ふふ、いいじゃない。
見せてあげよう……陰流の秘技、無刀取りを。
ちなみにおっさんは剣術なんか一回もやったことはありません。
あれです、カンフー映画を見て出てきた人がホアチャー!とかいって蹴りを出したりする現象です。
浪漫を実現する肉体が手に入ってしまったわけですね。




