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コマンダー03  作者: 前頭禿夫
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コマンダー03は2度生まれる

 夢を見ていた。

「Oさん、Aさん結婚するんだってさ」

 そうか。それはよかった。おめでとう。

「本当にいいの? 本当によかったの?」

 ……ああ、いいんだよ。

「そっか。Oさんがそういうなら、俺からはなにもいわないよ」

 わかってる。

 彼女が私のことを好いてくれていたことには気づいていた。

 それでも一歩を踏み出さなかったのは、臆病だったから。子供だったから。家庭を築くより、自分の好き勝手な生活を送りたかったから。

 仕事は忙しかった。だが、それはただの言い訳だった。

 結局は、すべて自業自得だ。手遅れになってから、自分の気持ちに気づいた。彼女を愛していた、この感情が愛なんだと気がついた。

 いつも、私は失くしてから気づく。馬鹿な男だ。

 結婚、おめでとう。


「ふーむ、わしの知らぬ、いやこの結社のデータベースにすらない情報を認識しているとは」

「博士、転生なんて本当にあるのかい」

「わからんな。しかし、アンドロイドであれば自己の人格、経験をメモリーとして保管し、別の肉体へと移し変えることができる。これもまた転生といえよう。なれば、魂と呼ばれるもののメモリーが何かの拍子に再構築されることもあるのではないか。狙ってできるものではなく、もはや奇跡としか呼びようがないだろうがな」

「博士が奇跡とか言うと、違和感」

「それは違うぞ。森羅万象、この世の理を解しようとするもの、その理の理解を深めたものほど、奇跡を知ることになるものだ。無知蒙昧なものどもがすがる奇跡とは別物であろうがな」

「おや。博士、目が覚めたようだよ」


「イ、イィー……」

 うう、頭が痛い。おならで気絶させられた挙句、夢見は最悪だ。おっさん泣きたい。

 自分の体のにおいをかいでみる。クンクン。

「においはしっかりとってあるぞ。研究室に染み付いても困るのでな。……しかし予想以上に面白い精神構造をしていたな。別の人生を送ったと認識し、その記憶を持つ人格か」

 しかもいつの間にか、いろいろばれてるっぽい。

「安心せい。いちいちお前の脳みそを解剖せずとも、いくらでも調べられるわ。逆に言えば、今わからないことなど、解剖したところでわからんのだ。あほなことを心配するヤツだ」

「イーッ!」

 悪かったですね! マッドサイエンティストといったら解剖! これが私のジャスティスなんですよ!

「あははは。元気そうでよかったよ。悪いけど博士の命令だからね。あたしらのことは恨まないでおくれよ」

「ごめんね」

 キリ姉さんとサキちゃんがわらっている。くそー。この二人が博士の助手まがいのことをしているのは、これが理由か。

「イー……」

 ま、いいですけどね。ふんふん。おっさんいじけてませんよ、ふん。

「へそを曲げとらんで、さっさとエネルギーストーンの回収にいってこい。お前が極めて特異な適性を持っていることはわかったのだ。しかも、経験の中で新たな適正を取得しておる。面白い。次の改造が楽しみだ」

 新しい適正?

「お前が指揮官型で、その適正を本来とは異なった形で利用していることは話したな。おそらくはその派生として、新しい特性を身につけておったぞ。『気配察知(強)』だ」

 んんん? 気配察知? それがどうして自分の肉体を部下としてコントロールする能力から派生するのだろう。

「わかってなさそうだねぇ。詫びってわけじゃあないが、あたしが説明してあげるよ。03番は、気配ってどうやって察知するかわかってるかい」

 カメレオン怪人さんが話しかけてくる。キリ姉さん? 誰ですかそれ。知りませんね。ふんっ。

「におい、温度、音、音にならない空気の振動……いろいろある」

 おならぷぅ子ちゃんがあわせて答える。そうですね、いろいろありますね。ふんっ。

「あたしらはみんな、それを察知するための器官を持っている。でもね、専門外の器官でも、ほんとに微量だけど感じ取ることはできる。細かいところまではわからなくても、なんかある、ってね」

 カメレオンさんがちらりとぷぅ子ちゃんを見た。

「たとえばにおいは鼻でかぐ。でもね、じつは皮膚でもかげるのさ。微妙すぎてさっぱりわからないし、そもそもその情報をにおいとして認知しないけどね。……ああ、サキのアレは、指先で触れてもひっくり返るよ。嗅覚のないような相手でもぶっ倒すとんでも爆弾さ」

「お姉ちゃん、それ余計」

 ぷぅ子ちゃんがぷくっと頬をふくらませる。

「あははは。ごめんごめん。さてこっから本題だけど。つまり03番、あんたは自分の指揮官適性によって、細胞を活性化させている。その結果、全身でいろいろ感じ取れるようになってるってことさ。今まで感じなかった空気の揺らぎが、わずかな気温の上昇が、耳には聞こえない音が感じ取れる。気配ってのは、その総合的なものさ。だからこそ気配察知(強)だろうさ」

 むむむ。でもそれって、諸刃の刃では。敏感になりすぎるってことは、皮膚を指で触られただけで激痛に感じるとか。俺の名を言ってみろーの人がやられたみたいなことになるのでは。あるいは、鼻の利きすぎる犬におならぷぅかましたときのようになるとか。通風とか歯の知覚過敏もそうか。

「それは大丈夫さ。あたしらはダメージを受けても戦えるように、過度の刺激情報は押さえ込めるようにできてる。気配レベルのものはどんなに大きくなっても、気配と感じる以上のものにはならないよ。押しつぶされそうになるとんでもない気配とか、あるいはどんな防壁もぶちぬくにおいなんてのもあるけどね」

「む。その言い方にはとげを感じる」

 ぷぅ子ちゃんがカメレオンさんを半目でにらむ。

「納得したか。納得したらほれ、さっさと行かんか。約束したとおりエネルギーパックは1本、いや2本余計に入れておいた。次のお前の改造はわしとしても楽しみなのだ。さっさとエネルギーストーンを集めて来い」

 そんなに楽しみにしてくれるなら、今まで収めたエネルギーストーンを使うとかどうですかね、ええ。

「そんなもんとっくに使って残っておらぬわ」

 そうですよねー。わかってました。

 ああ、108派の伝承者レベルにはパワーアップしたはずなのにどうしてこうなった。


 おっさん、死兆星ってガスでできてる星だと思うんだ!

うぬには北斗七星の横に赤く輝くおならが見えるか!

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