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コマンダー03  作者: 前頭禿夫
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ピンチ! コマンダー03の危機!

今回は少し長めです。

 うーーシャゥっ!

 手刀を、頚動脈を切断するイメージで振るう。

「ギギャッ!」

 首筋を痛打されたゴブリンが、よろよろとたたらを踏み、ひざをつく。

 うむ。切れぬ。

 なんでじゃ! 私は南@聖拳に目覚めた! ならばこの程度切断できて当然のはず。

 はっ、そうか、これはお師さんに見守られているあのシーンか。石灯籠にたたきつけた手刀がとおらず、チラ見してみたらお師さんがこっちをガン見してるあれか!

 ならばもう一度だ! 食らえ石灯籠! お師さんの愛情のために真っ二つ!

 ゴスッ。

 手刀によってゴブリンの頚骨がへし折られ、首が曲がっちゃ行けない方向に曲がっている。


 うむ。

 ……修行だ。修行が足りぬ。南@十人組手、いや百人組手をせねばなるまい!

 今、私の宿星が輝いたのだ!


 どっこらしょ。

 腰を下ろした私の横には、下り階段が大きな口をあけていた。

 そして目の前にはゴブリンの死体の山。山。山。

 かなり早い段階でこの下り階段を見つけた私は周囲を探索。その結果見つけたゴブリンの集団に片っ端からちょっかいをかけ、まとめてこの広場に誘導。そして殲滅した。

 やっぱりあれだね。勢いだけで物事やっちゃだめだよね、うん。最初の慎重さはどこにいったんだ、私。

 ただ、百人組手も無駄になったわけではない。

 クリティカルは、なんというか自分の意識と肉体の動きが完全に一致したとき発生しているような気がする。

 そのほかの動きがずれているというわけではないが、本当に信じられないような一致を見たときに、発生するのがクリティカルなのだ。だから、この発生率を上げるためにできることはひとつ。反復練習、繰り返しだろう。

 だが私は改造されることによって肉体が強化される。そうすれば、再び意識と肉体にずれが生じることは想像に難くない。

 それでも、繰り返すのだ。繰り返された動きは決して無駄にならない。その経験は、次のずれを矯正する糧になる。その確信がある。

 必要なのは意識だ。意識し続けることだ。常に自分の肉体に意識を向けることだ。そしてその果てに、無意識でも自分の肉体を完璧にコントロールできるようになることだ。

 そんなことできるかなぁ。自分で言ってて不安になる。

 ……いや、できるかどうかではない、やるかやらないかだ。 

 中身はおっさんでも、この肉体は生まれたて。まだまだ成長力を秘めているはず。いや、むしろ生まれたての今だからこそ、最大の成長力を持っているのでは?

 そう考えると、今が最大のチャンスなのかもしれない。

 よし、やろう。

 下り階段を一瞥する。ダンジョンの探索は後回しだ。

 指一本、いや細胞の一つ一つまで自由にコントロールできる、そんなスーパー怪人を目指すのだ!


「呆れたな。半年たっても改造を言い出さぬから何をしているかと思えば、そんなことをしておったとは」

 言葉はきついが、博士の表情は楽しそうだ。

 修行を思い立って、はや半年以上が過ぎていた。

 この間、私はあのダンジョン地下2階への下り階段前広場でエネルギーパックがなくなるまで修行し、戻ってきては博士に入手したエネルギーストーンの半分を渡し、残り半分をすべてエネルギーパックに交換してもらってまた修行に行く、という生活を繰り返していた。

 ダンジョンの魔物はある一定の時間がたつとまた出現する。地下1階のゴブリンがすべて再出現したら修行がてらエネルギーストーンの回収をし、残りの時間はひたすら修行だ。

「でも博士、03番はエネルギーストーンはそこそこ持ってきているんだろ。それなら問題はないんじゃないかい」

 私をかばうように口を出してきたのは、カメレオン怪人のキリ姉さんだ。どうやら私が怒られていると思ったらしい。ありがたいことだ。

「大丈夫、姉さん。博士、怒ってないよ」

 そのキリ姉さんをなだめるように、今度はスカンク、いや違ったゾリラ怪人のサキちゃんが口を挟む。この二人はどうも博士の研究の手伝いをする機会が多いらしく、よくこの研究室で出会っている。

「そうなのかい? 悪いね博士、どうも人間の表情はわかりにくくて仕方ないよ」

 そりゃカメレオンから見れば人間の表情はわからないだろうなぁ。私もキリ姉さんの表情がわかりません。

「それで? 結果はどうなのだ」

「イーッ!」

 ぐっと親指を上げてみせる。

「ほう……。少々興味がわいた。どれ、検査してみるか。エネルギーパックを1本追加してやるから、おとなしく受けていけ」

 おお、エネルギーパックげっと。まあ、そんなものなくても命令には従いますけどね。上司ですから。

 というわけで棺おけに入場。そして退場。

 博士が結果を確認しているが……なんでしょう。すごく楽しそうです。

「どのような訓練をしていた? 詳しく聞かせよ」

 えーっと、そこまで面白いものでもありませんが。まず、体操。準備運動、整理体操、ラジオ体操、いろいろありますが、気をつけたのは自分の体を意識すること。筋を伸ばすのであれば、その筋がどこまでどのように続いているかとか。

 次に筋トレ。どの部位に負荷をかけ、どの筋力を鍛えるのか意識しながら実行。

 その次が、型稽古。といっても、おっさん格闘技やってたわけでもなんでもないから、体幹が崩れないこと、そしてたとえばパンチなら拳で引っ張らずに腰肩と連続させて押し出すとか、そういったところを意識。そして同じ動きを繰り返して確認。

 これらを、本当に体の細胞一つ一つ意識するつもりで繰り返しただけ。

 結果は大成功だと自分では思ってる。

 キックにしてもパンチにしても、なんというかキレがまるで違うものになった。間違いなく、戦闘力がアップしてるよね。

「ふむ。訓練内容がよかったわけではなさそうだな」

 ぶ、いきなり全否定ですか。ひどいです博士。

「……その訓練の最中、自分の肉体に命令をしなかったか。こう動け、あるいはもっと早く動けなどだ」

 え、あ、はい。大体そんな感じでやってましたよ。

「そこだな。ここからは仮説になるが」

 ちらりとこちらを伺う博士。ああ、はい。聞きたいです! 聞きたいです!

 博士満足顔。こういうタイプの人って面倒くさいよねぇ。ま、お世話になってる上司だから我慢だけど。

「おそらく、お前が指揮官型として設計されていたことが奏功したのだ」

「……イー?」

「指揮官型怪人には、いくつかの特性がある。ひとつは精神的視野の広さ。状況をよく確認できるようにするためだ。同様に二つ目が分析力の強化。そして決断力強化。指揮官が迷っては勝てるものも勝てぬからな。だが、これらの特性はお前の特異な成長に関係は……ないとはいえぬが、影響は微々たるものであろう。問題は最後の特性、指揮能力向上だ」

 博士が、横から差し出されたコーヒーカップを手に取った。おお、サキちゃんは気遣いのできる助手さんだな。

「指揮能力向上とは、自分が指揮する部隊全体に補正をかける能力だ。この能力を、お前は、自分自身に対して発揮している。いや、もっと正確に言おう。お前は自分の肉体、細胞一つ一つを部下として、この能力を発揮しているのだ」

 視線で博士に続きを促す。

「指揮能力には、たとえば命令伝達向上が含まれる。これは部下に対する命令が伝達されやすい、簡単に言えば指揮官の意図を部下が把握しやすくなるものだ。それがもし、自己の肉体に適応されたらどうなるかね」

 博士はうれしそうにこちらを見ている。

 もし博士が言ったとおりになったとしたら。肉体は自己が意識する以上に自己の意図どおり動くだろう。

動かそうと思ってもなかなか動かない筋肉なんていくらでもある。いや、意識して動かしている筋肉も、果たしてどれだけ動かせている?

 北@神拳は肉体のリミッターをはずすところに真髄があったはず。まさか、それが可能になるのか。

「また、指揮能力には部隊能力向上がある。これは指揮官の命令どおりに部隊が一体となって行動した場合、個々の能力の合計以上の能力が発揮される。わかりやすい例として攻撃力をあげよう。1の攻撃力を持つ部下が10人攻撃すると、本来発揮されるはずの10ではなく11になる。まあ、個々の能力が向上し1.1に引き上げられると考えてもいい。実際は少々違うのだが、お前にはこの程度の認識でよかろう」

 博士がコーヒーを口に運ぶ。満足そうだ。

「部隊指揮に使われるはずの適正、指揮官能力をまさか自己の肉体に対して発揮するとはな。自己の肉体を自己とは違ったものとして無意識のうちに認識する、そういった精神的視点がなければ不可能なはずだ。あるいは可能になったとしても、精神と肉体の齟齬に苦しみ、結局は肉体にあった精神へと変化する。改造に関する注意として話した気がするが、肉体に精神は引きずられるのだ」

 そうだ、ドラゴンに改造されれば、精神も結局それにあわせて変わり、今の自己を失うという話だ。

「もちろん、精神に肉体が引きずられるケースもある。自分が病だと思い込むことで実際にその病を発症してしまうなどだ。だがどちらにせよ、結局は影響を与え合って混在化する。今ある自己を自己として認識するということだ。そして」

 博士が笑う。う、なんか寒気がするぞ。

「問題は、生まれて1年もたたぬ怪人になぜこのような自己客観視が芽生えているのか、という点なのだよ。あの女からの注文で、お前に設定した人格は無骨な中年男性。ヤツの言葉を借りれば『渋いおじ様』だ。それ自体に問題はないし、生まれたばかりの人格がうまく定着せずに混乱を見せることはそれほど珍しくはない。だが、ここまで精神としての自己が、肉体としての自己を客観的にとらえるというケースは初めてだ。実に面白い。実験だ」

 その言葉が終わるや否や、キリ姉さんの舌が目にも留まらぬ速さで私の体をぐるぐる巻きにした。

 ひぇえええええ! なにこれ! ちょっと姉さんやめて!

「イーッ! イーッ!?」

「暴れられても面倒だ。サキ、さっさとやれ」

「了解」

 サキちゃんがお尻をこちらに向ける。え、これってもしかして。

 ぶぼっ。

 ぐぼっはああああああああああああああああ!

 痛い! 臭いじゃなくて痛い! 何が痛いのかよくわからないが痛い!

 あ、意識が……とお……く……。


 そうして私は意識を手放したのであった。

やめろー! やめろショッカー!

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