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近づく炎

東京は絶対に眠らない。夜遅くでもビルの明かりが町を照らしている。

その光があまり届かないある路地裏に社会から落ちこぼれた、いわゆる「不良」が三人。

彼らはコンビニで買った飲み物を片手に、フラフラと薄汚れた狭い道を並んで歩いていく。


すると、先頭を歩いていた男が何か硬くて大きい物にぶつかった。

見上げると、とても背が高い外人顔の男がこちらを睨んでいる。

男は分厚そうな革ジャンを着ていて、下は所々繊維のないダメージジーンズをはいていた。


すかさず不良たちは絡む。


「なんだお前?邪魔だからそこどけよ」


「オラァ、お前そんな図体でかくてもなぁ、こっちは三人なんだから喧嘩で勝てるワケねぇんだよ、分かったらとっととどっか行け!」


男は黙ったままだった。

そして、ズボンのポケットからゆっくりとタバコを出した。

タバコを右手で三人に見せつけるように持つと、とても低い声で言った。


「俺のジーンズ、これはただのダメージジーンズじゃない」


彼はタバコを自分の口に近づけた。

そして、フッと息を吹きかける。

それは大気に触れた瞬間、小さな炎を纏い、タバコに小さな明かりを灯す。


「この口から吐き出る2000度の炎が燃え移ってできたものだ」


「な…なんだお前は…」


「このバケモノがあああああ」

一人が近くに落ちていた鉄パイプを拾って男に殴りかかる。


次の瞬間。

暗くて薄汚れた路地道から赤い光がパッと漏れると、辺りは静かになった。

そして、たくさんの火花とともに背の高い男が一人出てくる。

男は吸い終わったタバコを後ろに投げ捨て、その場所から去って行った。




------------------------------------



「あれかわいい!」


アドルが嬉しそうに飛び跳ねながら指さしたのは、おもちゃ屋の入り口のショーケースに入っていたクマのぬいぐるみだ。


「あれが欲しいの?」


「えっ買ってくれるの!?ありがとう!」


アドルは美香に抱きつく。

美香はぬいぐるみのすぐ横に置いてある紙に書いてある値段を読むと、少し顔が引きつった。


「40000円って…なんでそんな高いんだコレ…高校生の手に届くものじゃ…」


「買ってくれないの…?」

アドルは目に涙を浮かべながら美香の方を見る。


あぁもう子供ってずるいよぉ、と心の中で美香は泣きながら、店に入っていった。



「やったぁ!美香姉ちゃんありがとう!」


買ってもらったばかりの大きいクマを抱いて踊りながらアドルはそう言う。


「うぅ…ずっと貯めてきた貯金が…」

美香は嘆いた。


「おっ美香、アドルも」

偶然に通りかかった涼介と出会った。

ものすごい力でぬいぐるみを抱いているアドルとなんだか元気のない美香を見ると、涼介はすぐに状況を理解した。


「美香もいいお姉ちゃんになったな」


「もう…正月に貰ったお年玉まで使っちゃったんだからねー。大切にするんだよー?」


「うん!」


満面の笑顔である。


その時、涼介の電話が鳴った。

相手は清田だ。


「おい、涼介!今すぐ来てくれ!」


「なんだ、何があった!?どこにいる」


目の前で火事が起きて、その際に燃える建物から急いで逃げていく男を見た、ということだった。

美香はアドルを自分の家に連れ帰ってから、と言っていたので、涼介はすぐに清田の所に向かった。


「おい涼介!」


「そいつはどこに行ったんだ?」


「あっちだ!」


男は町の東にある新海コンビナートへと向かっていったらしい。

新海(シンシ―)コンビナートは国内最大のコンビナートで、これ自体が一つの工業地帯となっているほどの巨大な工場である。


「てかお前、なんですぐそいつの後を追いかけなかったんだ?」


「いやちょっと、その時トイレを探している途中だったもんで…」


「ていうことはもうかなり遠くに行ってるってことじゃねえかよ!」

急いで駆け出す。


「すまん…」


「そうだ!」

涼介はコンパティを取り出し、衛星からのリアルタイム映像を受信した。

何km圏内かの映像を見てまわると、バイクで一人コンビナートに向かって一直線に走る男の姿を見つけた。


「コイツだ!いくぞ!」

コンパティに映るマップを頼りに走る。

相手はバイクで移動しているので差は広まっていく一方だったが、その目的地は分かっていた。


「ハァ…ハァ…」

なんとかコンビナートの入り口に来た。長い間走っていたせいかとても息が荒くなっている。

やけに静かだ。


「ん!?」

二人はすぐさま異変に気付いた。

入り口のゲートの所に人が誰もいない。普通ならこれはおかしいはずだ。

なぜ誰もいないか、それはこの惨状を見ればすぐに分かることだった。

ゲートは緑色に塗装された金属でできていて、その中心が溶かされたかのようにまるごと無くなっていた。

かろうじて残っていたゲートの一部はいびつな形にひしゃげ、職人が金属加工した鉄のように熱を持って赤くなっている。


きっとここで何かあったんだ。



この時、二人はまだ知らなかった。

この入り組んだ鉄の迷宮で起きた悲劇を。
















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