スニーズ
「ス、スニーズ?くしゃみ?」
美香が首をかしげる。
「もっといい名前無かったのかよ…」
清田が呆れたようにつぶやく。
なんのひねりもない。
「なんか言ったか?それより、お前らだな。例のUSBを持っているのは」
「あれが必要なんです?」
美香が訊く。
「あぁ、もちろん。あの中に入ってるものは、恐ろしいほど重要なものだからねぇ…もし少しでも誰かに見られたら…」
「もう見たよ」
涼介は真顔で言った。
「エッ、嘘だろ!あの映像に隠されている秘密がバレちゃったら、俺はまた強制断食させられちゃう!」
スニーズは思わず頭を抱える。
「ハッ!そうと決まれば今俺がやることはただ一つ、お前らからUSBを取り返すことだッ!俺だってこう見えて一応『最凶犯罪者』に認定された一人なんだぜ?」
「その『最凶犯罪者』って一体なんだ?」
亀谷が頭を掻き毟りながらそう訊く。
「そういえば、コンパティの機能の一つに最凶犯罪者リストっていうのが確かあったよ」
美香はそう言ってカパッとコンパティを開く。
見てみると、そこにはたくさんの人物の顔写真と、その下にそれぞれのデータベースが載っていた。
中には、あのマンマガジンのデータもあった。
「あった!えーっと…スニーズ、本名不明。幼少期から強度の鼻アレルギーでくしゃみが止まらず、それを何かに使えないかと考え、鼻に『ハリケーンダクト』というくしゃみを木をもなぎ倒すほどの突風に変える装置を自分で発明して入れ、それを使い宝石店などから強盗を頻繁に行っている…」
「そういうことだぜ」
スニーズは腰に手をあて鼻を高くした。
「なんつーか、最低だな」
「そんじゃ自己紹介も終わった所で、早速やらしてもらうぜ」
スニーズはそう言うと、ズボンのポケットからティッシュを取り出し、先をとがらせて鼻に突っ込んだ。
「ファッ…ファァッ………」
「やべっ来るぞ!」
清田が圧縮した空気で四人を守れるほどの壁を作った次の瞬間。
ハクションッ!
スニーズのくしゃみは一つの巨大な突風となり、四人に襲いかかった。
「クッ…」
清田がそれに押し負けないように必死に掌を前に向ける。
近くにあった家の塀が全て吹き飛ばされ、更には横の電柱も何かに吸い上げられるように宙に舞いあがっていった。
この区域一帯が停電を起こす。
ようやく風が止むと、辺りは竜巻が通ったかのような惨状だった。
四人は清田が作った壁を涼介が左手で上手く支えていたため、なんとか飛ばされずに済んだ。
しかし、スニーズの力は想像を遥かに超えていた。
「見たかい?これが俺の力さ。今頃町はパニック状態だろうよ、ハハハ」
その時、誰かの携帯の着信音が鳴った。
ハンガリー舞曲第5番である。
「あっ、はいもしもし」
何のためらいもなく電話に出たのは、ついさっき町を吹き飛ばそうとしたスニーズである。
「え!?USBは後回し!?それよりも重要な問題が出てきたと…はぁ…。分かった、すぐ行く」
「おい、誰からの電話だ」
「そんなの君たちに教えるワケないでしょ?ま、とりあえず本部に戻れって言われたんで、じゃあね~」
そういうとスニーズはさっきのティッシュを取り出しまた鼻に突っ込む。
危ない、と清田が急いで壁を作る。
ファクションッ!
スニーズはくしゃみを自分が立っていた地面の所にぶつけ、その反動でどこかへ飛んで行った。
再び強風にあおられた四人は、それをなんとか防ぎ切った後、地面に倒れこんだ。
「アイツ…なんだったんだ…」
「ちくしょう!」
亀谷が突然立ち上がった。
そうして涼介たちのことを振り返ってこう言う。
「お前ら、マンマガジンとかいうやつを倒したんだろ?そのマンマガジンも、あのスニーズとかいうやつも、全員何かに関係してんじゃねえのか」
「確かに…マンマガジンが落としたあのUSBをスニーズが欲しがってたってことは、アイツらはなにかしらの組織を通して繋がっていた…とも考えられるね」
「おいおい、それってかなりヤバいんじゃないのか?」
他にも同じような奴らがたくさんいるとなると、それはとても恐ろしいことだ。
「この東京って町は…俺たちが思ってる以上にかなり闇が深そうだな…」
東京…それはあらゆる闇が集まる場所…。
その闇との壮絶な戦いは、まだ始まったばかりだった。