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冷たい戦い

それは、あまりにも突然の出来事だった。


「なんで!?この近くには工場なんてどこにもないぞ!?」

ヤツは工場だけを狙うはず、こんな住宅街でむやみに暴れたりしないはずだ。

しかし、現に目の前で銃火器を乱射しているヤツの姿がある。


とりあえず警察へと110番に電話する。

事情を説明し場所を伝えると、今度は美香と清田へ電話した。

二人はすぐに向かうと言って電話を切った。


みんなが来るには時間がかかる。

それまでにヤツを食い止められる人は、涼介しかいない。




すぐに家を出ようとした。

すると、後ろから何か声をかけられた。

振り返ると、そこには母がいた。


「気をつけなさいよ」


そう一言だけ言った。

それが、狩宮涼介の親として言える精一杯の言葉だったんだろう。


涼介は小さくうなずくと、扉を開けて外に出ていった。


………


ここら辺一帯に住んでいた人たちは、それぞれ家から飛び出て狂ったように逃げ回っていた。

それをかき分け、絶えず鳴り響く爆発音に向かってひたすら進んでいく。


さっき起きた爆発の中心辺りまで来ると、視界が全て真っ赤に染まった。

あちこちで炎が立ち込め、煙で目が痛くなる。

向こうのがれきの所から、何か黒い物が顔を出した。

それは目を光らせ、涼介の方へと向かってくる。


そうして目の前に現れたのは、人間武器庫(マンマガジン)だった。


「お前か、あちこちの工場を襲ってるというやつは」


「お前に、俺の何が分かる」

その男の声にはあまりにも人間味が感じられず、まるで本当に機械と話してるみたいだった。


「とても辛い思いをしたのは分かる、でも、それと同じことを他の人にするというのは、ただの八つ当たりだろ!?」


「八つ当たりではない、これは私がするべきこと」


「なにが私がすべきこと、だ!他人を不幸にすることが、お前の使命なのか!」


「黙れ」

彼は静かにそう言うと、両肩に付いている機関銃の銃口を涼介に向けた。


彼の両肩が小さく光ったと思うと、次の瞬間、幾つかの弾が地面に当たり小さく煙を噴き上げた。

涼介は素早く左に避けたため、幸い被弾はしなかった。


「命惜しければここから立ち去れ、邪魔だ」


彼は何から何までとても冷たかった。鉄のかたまりのようだった。


「元々私は武器デザイナーだった。私の作った武器でたくさんの人が死んだ。私の武器が殺した人のことを私は全く知らない。君の言うとおりだ。他人を不幸にすることが、私の使命なのだ」


「ぐぅ…」

言われてみればそうだ。武器デザイナーとはそういう仕事だった。

いかに効率よく多くの命を奪える武器が作れるか、それが武器デザイナーだ。


しかし、それで納得しちゃいけない。

今、彼がやっていることは、絶対に許されることじゃないのだから。


「話し合いじゃ分かり合えないみたいだな…」


涼介は近くに落ちてた鉄パイプを拾い上げ、左手でブンと投げ飛ばした。

それはマンマガジンに直撃し、彼は少しよろけた。

しかし、それでも平然とした表情で涼介のことを睨んでいる。


涼介は、目の前の存在が少し恐ろしく感じた。


「お前、本当に人間なのか…!?」


「自分でもわからない。私がいつからこうなってしまったのか、別にそれは、いまさら気にすべきことでもないだろう」


彼はそういって、左手についていたロケット砲を放つ。

大きな爆発とともに涼介は遠くに吹き飛ばされた。


「ぐっ…」


手に何か冷たいものを感じた。

血だ。


涼介は頭から出血していた。


マンマガジンは休むことなく今度は機関銃を乱射する。


涼介は近くに落ちていたどこかの家の塀のかけらを持って盾にし、なんとかそれを防いだ。

このままじゃ長くはもたない。


それに追い打ちをかけるように、マンマガジンは背中から10発ほどのロケット弾を撃ち放つ。

動きはゆっくりだったので、涼介はすぐさま右に避けたが、それらは綺麗な曲線を描き、再び涼介に向かってくる。

どうやらホーミング性があるらしい。


最初の3発はさっきの塀のかけらを投げつけて上手く起爆させることができたが、残りはまだしつこく涼介を追いかけてくる。

あちこち走り逃げていたが、次第に距離を詰められていく。


「ヤバい…」


振り返ればすぐそこまでロケット弾は迫ってきていた。

7発の爆発が辺りを揺るがす。


「………あれ、生きてる」


見てみれば、そこには空気の壁を作ってロケット弾を防いだ、清田の姿があった。


「ここで死んじゃうなんてあっけねーぞ?」


「助かったぜ、ありがとう」


「美香はどうした」


「アイツは今怪我した人の避難を手伝ってる」


美香の予知能力なら、どの道が危険じゃないかすぐに把握して、安全に避難を行っていることだろう。

とりあえず今は、コイツをなんとかしなくちゃいけない。


「行くぞ、清田」


二人は同時に走り出した。

マンマガジンは右手のショットガン、左手のロケット砲を交互に撃ち放つ。

しかしそれは清田が作った空気の壁によって綺麗に防がれていた。

両肩の機関銃が火を吹いても、完璧に防がれていた。


徐々にお互いの距離を詰めていく。

清田も圧縮した空気の塊を放つが、空気の量がまだ少ないので彼に当たっても吹き飛ばすどころか微動だにしなかった。

しかし、そうしてる間にも、少しずつ涼介はマンマガジンと距離を詰めていく。


拳で殴れる所まで来た。

左手に力を入れる。


「俺の最強の左手、くらええええええええええええええ」


力いっぱいこめて殴る。

機械が壊れるような音がしたと思うと、マンマガジンは10軒先の家の方まで吹っ飛んでいった。


その後、まるで戦隊ものの悪役のように大爆発を起こしたのであった。


「……やった」


「やったぞおおおおおおおおお!」


「意外とあっけなかったな」


涼介と清田は思わず二人でハイタッチをした。

これでついに「ミッションコンプリート」だ。


基地に戻る途中美香に会い、無事に避難は完了したと言った。

消防車やパトカー、救急車のサイレンが絶えず流れていた。


咲乱は涼介たちを見つけるとすぐに駆けつけ、早くこの車に乗れ、と横に停めてあった黒い車を指さした。

車に乗った涼介たちは、人間武器庫(マンマガジン)のことを咲乱に話した。

咲乱はおめでとう、と一言言った。


「その頭の出血大丈夫か?基地に戻ったら治療をしよう」


そう言われて初めて涼介は自分の怪我のことを思い出した。

アドレナリンがたくさん分泌されていたおかげであの時はなんとも思わなかったのである。

鋭い痛みが襲ってきた。思わず頭を抱える。


「大丈夫?でもとてもかっこよかったよ、勇敢に戦ってる涼介君」


美香は優しくそう言った。


涼介はなんだかとてつもない達成感を噛みしめながら基地へと戻っていった。



















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