陽炎のショー
今回の敵のコンビナート爆破計画を実施するには、最低でも2人以上必要となる。
一人は、無限フィールド化を行っている装置を一定値に管理する者。
もう一人は、巨大核燃炉へ直接爆弾を設置しに行く者。
爆弾は遠隔起爆型かもしれないし、設置してすぐに爆破し、自分たちはコンパクト型の核シェルターで身を守るなど、方法もいくつか選ぶことができる。
しかし、どちらをとったにせよ結局、中央の巨大核燃炉の元へ行かなくてはいけない。
ということはつまり、敵が爆弾を設置する前に見つけ、その場で拘束してしまえば何も被害を出さないで済む。
「ん…?」
「おい、アレ見ろよ!」
突然涼介が向かっていた方向の空を指さす。
二人が見ると、そこにはさっき涼介と清田を襲った警備ロボットが8体、下にある何かに向かって直下していく姿があった。
「あそこって確か俺らが目指してる核燃炉だろ?」
「じゃあもう誰かがあそこにいるってことじゃない!?」
ふと足が止まるような光景を見た後、次の瞬間にはもっとすごいものを三人は見ることとなった。
ロボットが直下していった場所から突然大きな炎の渦が噴き上げ、それに飛び込んでいったロボットたちが飲み込まれて黒いシルエットと化したのである。
煙を噴き上げながら墜落した。
「おいおい…ヤバそうなのがいるぞ…」
「ビビってる暇なんてない、手遅れになる前にたどり着かないと」
核燃炉付近はやけに静かだった。
「おーい!隠れているなら今すぐ出てこい!」
急に清田が叫ぶ。
「バカ、呼んで出てくるわけねぇだろ」
涼介がこんな状況でもいつものようにツッコミを入れていると、上の方から誰かの声がした。
「君たちが、例の超能力で犯罪者をやっつけるチームかい?」
三人が見上げると、そこには黒い革ジャンを着た髪の赤い男が太いパイプの上に座っていて、タバコを吸いながら涼介たちの方を見ていた。
(普通に出てきやがった…!)
「じゃあまずは自己紹介からいこうか」
男は低い声で自己紹介をしだす。
「俺の名前はイフリート。もちろん実名じゃない。最凶犯罪者の一人だ。君たちは俺達を止めに来た、そうだろ?」
「俺…達…?」
「あぁ、先にネタバラシをしておこうか。この新海コンビナートには、私と同じ目的の仲間が全部で6人いる。それぞれが自分の持ち場所で、それぞれの任務を遂行している」
「6人…もいるのか」
「ハッハッハ、信じられないというような顔をしているね、人生そんなことだらけさ。ところで、君たちに一つ質問がある」
イフリートと名乗る男は吸っていたタバコを手で高く投げ、そのタバコは綺麗な放物線を描いて下の地面に静かに落ちた。
「君たちは情熱的な炎と、幻想的な炎、どちらが好きかい?」
「そりゃ、幻想的な炎の方がいいに決まってるじゃない。情熱的な炎なんて、暑苦しいだけわよ」
美香が正論を述べる。確かにそりゃそうだ。
「そうか。じゃあ見せてやろう。幻想的な炎のショーを」
イフリートは右手を口にあてて横にあった近くにあった燃料パイプの方を向いた。
そして大きく息を吸い込み、吐きだしたのは一つの大きな火炎。
それは燃料パイプを炙るように放射され、中を通っていた石油に燃え移る。
燃え移った火はパイプを通して涼介たちを囲むように広がり、辺りを陽炎が包んだ。
「世にも不思議な炎のカーニバルだ。美しいだろ?」
イフリートは炎たちに信仰されているかのようだった。
「熱い!熱すぎるゥ!」
思わず着ていた衣服を脱ぎだす涼介と清田。
「あれ、美香も脱がないの?」
「脱ぐわけないでしょ」
真顔で質問してきた涼介に向かって美香は軽蔑の目を向ける。
「仲いいねぇ君たちは。そんな君たちを跡形もなく焼き尽くすのが実に楽しみだよ」
「フッ、俺達だって普通の人間じゃないんだ。そんな簡単に焼かれてたまるかよ」
「最近の若者は臆病者が多いが、君たちはどうやら違うようだね」
「いや、そんなことはない」
涼介が下をうつむく。
「俺だって、本当は怖いさ。こんな恐ろしい力を得て、それで危険なヤツらと戦うっていうのが。でも、それは俺が背負うべき責任で、使命なんだよ」
そっと顔を上げる。
「そうか」
イフリートは空を見ながら小さく笑みを浮かべていたが、体勢を整えると、涼介たちに向かって大きな火炎を吹きだした。
炎は涼介たちをすぐに赤い閃光の中に隠し、煙を噴き上げた。
その中から、並んで立っている三人のシルエットが浮かび上がる。
煙が完全に消え去ると、焦げ跡一つない人類最強の三人が現れる。
その顔には、大きな自信と一つの確信があった。