鉄の迷宮
コンビナートの中は恐ろしい数の鉄パイプ、学校の校舎並みの大きいタンク、色んな色の煙が吹き上がる煙突が無造作に配置されていて、まるで異世界に迷い込んだかのような気持ちになる。
ここは鉄の迷宮。
男の姿を涼介たちはすぐに見失ってしまった。
なぜかコンパティの電波も入らなくなってしまい、完全に手がかりが途絶える。
「おい、ここどこなんだよ一体」
「こんな広いなんて思ってなかったぁ…」
どんなに歩いても同じような景色が広がり、ここから出ることすら不可能に思えてくる。
すると、清田が何か思いついた素振りをした。
「そういえばこの施設って、基本無人で工場を動かしてるのは全部機械って母さんが言ってたの思い出したんだけどさ、その中には無断で侵入した者を強制排除する超危険なロボットもいるって」
「え」
「嘘だろ」
その時、何か重い物が近くに落ちた音がした。
辺りが何かの影になり暗くなる。
「…まさか」
ゆっくりと音があった方を振り向く。
すると、涼介たちの目の前でトラックが立ち上がったかのようなロボットが起き上がろうとしている。
「これか…?その侵入者を強制排除する超危険なロボットっていうのは」
「あ、あぁ…そうみたいだな」
「逃げるぞ!」
二人はロボットとは反対の方へ、来た道など気にせずにとにかく走り出した。
ロボットは立ち上がると、基地のエレベーターにも使われていた反重力のモーターで宙に浮き、涼介たちに向かって一直線に飛んできた。
「清田、頼む!」
清田は走っている状態で後ろへと右手を伸ばし、ロボットへ掌を向ける。
次の瞬間ロボットは何かにぶつかったかのようにその場で地面に崩れる。
清田が作った空気の壁だ。
「よしナイス!今のうちに安全な所まで逃げるぞ!」
コンビナートは恐ろしいほど静かで、それがまた不気味でもあった。
機械の動く金属音だけが空気中を響き渡っている。
もうあのロボットは追ってきていない。
「助かったぁ…」
「おいおい…アイツから逃げ切れたのはいいけどこれじゃマジで迷子だぞ」
「てか本来の目的もまだ達成できてないし…」
美香や司令室へ連絡をとろうとしてもコンパティと携帯、どちらにも電波が入ってこない。
「とりあえず出口を確認しよう。緊急時の時にこんな危険物がたくさんある所からすぐに脱出できないとなるとそれは脅威だ」
その時だ。
二人の目の前の空間がぐにゃあと歪んだと思うと、その中から誰かが飛び出してきた。
「イテテ…」
「美香!?どうやってここに」
「それはあとで話すわ。とにかく聞いて、これは想像以上に危ない状況なの」
美香は何か焦っていたようだった。
「今ね、この新海コンビナートは無限フィールド化しているの」
「へ?」
無限フィールド化。聞いたことがある。
指定した座標の範囲を無限に連ね、永遠に抜け出せない迷路を作り出すことができる恐ろしい技術だ。
かつて国の暗部の科学者がこれを作り出すことに成功したものの、クローン技術と同じで特別な場合を除いて使用することが完全に禁じられている闇の技術だ。
「てことは誰かが無限化の主装置をどこかで動かしてるってこと?」
「そう。そしてこのコンビナートは無限化の影響で外部との繋がりを全て遮断され、誰も入れないし誰も出れないようになってる」
「なんでそんなことする必要があるんだよ…」
「敵の目的はこのコンビナートの破壊。中央にある巨大核燃炉をなんらかの方法で爆破し、同時にその反動で無限フィールド化の装置も破壊して、東京自体を砂漠と化させる」
「ウソだろ…そんな恐ろしい計画、なんで分かったんだ?」
「調べていったら分かったらしいの。今回涼介くんたちが追いかけていた男の過去の行動の軌跡を見ていくと、まだ公に発表されていない新型の爆弾の部品を集めていたらしいの」
なるほど、その爆弾で今回の爆破計画を遂行するというわけか。
「でも一つおかしいの。その爆弾を構成しているパーツはどれも入手困難なもので全部手に入れるのには相当な時間がかかるはずなの。つまり、あの男一人では無理」
「ていうことは…」
「他にも仲間がいるってことか…」
もしかして、それはまたあのスニーズとかと繋がってくるんじゃないのか?
「おい、ちょっと待てよ」
清田が納得のいかない顔をしている。
「ここは無限フィールド化されていて外部との関係が一切ないってことは、美香はどうやってここに来たんだ?」
「基地の研究者たちが開発した、『座標コントローラー』を使ったの。私もよく仕組みは分かんないんだけど、これを使えば世界中のどこにでも、たとえそれが無限フィールド化している場所であったとしてもそこに物体を転送できるらしい」
「ただ…これ一度転送したものを元の場所に戻すことはできないみたい…」
「えっ?じゃもうここから出られないってことかよ!?」
「そうなんだけど…無限フィールド化の元の装置を壊せば一応ここから出れるようになる…と思う」
どちらにせよ、この迷宮に潜んだ敵を探し出して倒すほかなさそうだ。
これは東京の危機であり、自分たちの日常を守る戦いでもある。
「とりあえず、中央にある巨大核燃炉へと向かうぞ!」