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超人間化計画

「この装置に入れば…僕は変われるんだ、今までの退屈な人生に別れを告げて…!」                                                           

目の前のカプセルのような機械に一歩ずつ足を踏み込んでいく。

青い光に包まれながら、涼介は期待に胸を膨らませていた。


--------------


時は2022年。技術の発展は常にとどまるところを知らず、毎年新たな科学革新が起こり目まぐるしく人々の生活は変化する。

ここは、磁力で宙を浮く車がそれぞれの行き先に向かって絶えず飛び交う町、東京。

日本の首都であり、昔の人が夢に見ていた未来都市だ。


ただ、どの時代でも変わらないものもある。


「なんで東京は世界的にもこんなに技術が発展してるのに、テストなんてものは変わらず存在し続けているんだあああ!」


「大丈夫、また次頑張ればまだ間に合うから…」

美香は必死に笑顔を作り、そんな言葉を涼介にかける。

いつもこうだ。


ここは空南高校。都心に近い公立の学校だ。


今学期の成績表が配られ、その学校の生徒の一人、涼介がいつものように頭を抱えていると、周りはいつものように同情の言葉をかけてくる。


第一、同情するという行為は、相手を見下してる時に行うものだと涼介は考えていた。

言葉では優しいやつを装っておいて、内心では優越感に浸りきっているのである。


それは幼馴染の美香でも例外ではなかった。

涼介の思い込みなだけかもしれないが。


涼介は、この退屈な世界が大嫌いだった。

常に社会という腐れ切った概念に流され続ける、そんな日常をこの手でぶっ壊してやりたかった。



「チャイム鳴ったよ、帰ろう」

机に顔うずめてうなる涼介に、美香はいつものように声をかける。

横には俺の親友、清田も一緒だ。

またテストの結果が振るわなくて落ち込んでんのかぁ~?、ととても腹が立つ顔で罵ってくる。



いつもの三人で歩く帰り道。

だが、その日は少し違った。


校門の前を出ると、黒いスーツを着た体つきのいい男が涼介たちの前に立っていた。

男は涼介たちを見ると、何か考え付いたような顔をして、

「君たち、ちょっといいかな?」

と話しかけてきた。


別に怪しそうな訳でもなく、3人とも急いでたわけでもなかったので、話を聞いてみることにした。


「最近、工場が謎の爆発をしたっていうニュースをよく聞かないかい?」

そういえば言われてみればそうだ。一日のニュース番組で2,3回はどこかの工場が爆発したというのを聞く。


「あれについて、国が隠していることがあってね。あの爆発は、全て、ある一人の人物によって行われているんだ」

「そいつの名前は、道谷一輝。通称、人間武器庫(マンマガジン)


人間武器庫(マンマガジン)?なんだその物騒な名前は。


「国の特殊部隊も手をつけられないような犯罪者が、ここ最近増えている。そこで国の中では、ある一つのプロジェクトを進めている。」


「ちょっと待ってください!」

美香が話をとめる。


「国の特殊部隊も手をつけられないほどの犯罪者って、一体どんだけ危険なんですか」


黒いスーツの男はどうやら都合が悪いのか、答えるのをためらっている。

しかし、ゆっくりと顔をあげた後、その続きを語りだした。


「正確には、犯罪者というより、特殊な人間と言っといた方がいいだろうか。さっきの道谷の例でいうと、彼はもともとは人気のある武器デザイナーで、最新の誰もがうなるような武器を紛争地域へと送っている。

しかし、ある時彼の工場が何者かによって爆破され、同時に彼の体はものすごい損傷を受け、手足もろともなくなってしまった」


「その時からだ。彼は精神的におかしくなり、自宅の地下にある小さな武器庫に1か月引きこもり、何かをやっていたそうだ。地下から出てきた彼は完全に別人だった。体の半分が武器と化していたからだ」


「それってつまり、自分自身が作った武器を、自分自身の体にくっつけた……ってことですか」


「あぁ、そして彼は、かつて自分がされたように他の武器工場を次々と襲っていく。何かに憑かれたかのように」


悲しい話だ。ある一つの事件がきっかけで、ある一人の男の人生が狂ってしまったんだから。


「道谷のような犯罪者が、最近多発している。それらを止める、超能力を持った人間のチームを作る…」


「それが、超人間(ネオヒューマン)計画。国の内部で密かに進められていたプロジェクトだ」


超人間(ネオヒューマン)計画、超能力を持った人間のチーム。なんだか幻想的な響きに涼介は聞こえた。


黒いスーツの男は、そこで一拍置いて、

「君たち、このプロジェクトに参加してみないか」

と言ったのであった。








「えっ、俺が…!?」


涼介は、一瞬耳を疑った。

自分が、超能力を手にして、町を救うヒーローになる。

そんなことがあっていいのだろうか。

こんな自分で本当にいいのだろうか。

もっと頭がよくて、運動神経の優れてるやつならこの世にたくさんいる。


「なにそれ、なんかすごい楽しそうじゃん」

清田がサラッと言った。


「えぇなんか危なそうだよ、やめようよ涼介君」


美香の言葉は涼介の耳には届いていたが、返事はしなかった。

涼介の後ろ姿が、少しだけ長くなったような気がした。


「そのプロジェクトに、俺を参加させてください」


黒いスーツの男は、小さくうなずく。


「ちょっと涼介くん!?何考えてるの!すごい怪我するかもしんないんだよ!?」

美香は慌てる。


「大丈夫、美香は怒ったらすごい怖いんだから、それで敵も震え上がっちゃってどっか逃げちゃうよ」


「…」


「はぁ…」


美香はそっとためいきをついて何かを決心した後、私も行きます、と言ったのであった。



三人は車に乗せられ40分ぐらい走った後、小さな建物の前に止まった。

それはごく普通のコインランドリーで、中には埃をかぶった洗濯機、薄汚れた昔の雑誌が置いてある。


「着いたぞ」


「えっ…洗濯でもするんですか?」


「違う、今日からここが君たちの秘密基地だ」


そう言って、黒いスーツの男は車から降り、コインランドリーの中に入っていった。

涼介たちはそれに着いて行った。


黒いスーツの男は周りに人がいないのを確認すると、洗濯機のお金を入れる所に見たこともないコインを入れた。

チャリーン、とコインがどこかに落ちた音が聞こえると、洗濯機が奥の壁の方にゆっくりと動いていき、その場所から人が何人か乗れるほどのエレベーターのようなものがスッと出てきた。


「うわぁ、なんだこれすげぇ」

清田が興奮していると、黒いスーツの男はエレベーターに乗り、お前らも早く、と言った。


4人が乗ったエレベーターはゆっくりと動き出し、どんどん地下へと沈んでいく。

真上を見ると、さっきの洗濯機が元の位置に戻っていた。


黒いスーツの男はドアの横にずらっと並んだ階のボタンの中から、B39と表示されたのを押した。


「このエレベーターは強力な反重力を使って動かしていてね、これもまだ試作段階なんだ」


「へぇ、もう反重力ってこんなとこに実用されてたんだぁ」

美香は感心している。


エレベーターが止まり、ドアが開くと、そこは学校の体育館を4つ並べたほどの広い空間だった。

天井も高く、18mはありそうだ。壁は見たことがない金属でできていて、青白い光が部屋全体と4人を照らしていた。


そしてその中央には、なにやらカプセルの形をした装置が4つ並んでいた。


「あれは…なんなんですか」


「君たちの人生を変えてくれる、素晴らしい装置だよ」

黒いスーツの男は笑顔で答えた。


後ろのエレベーターから白衣を着た3人の男たちがやってきた。


「彼らは、このプロジェクトに参加し、そしてこの装置、『ニュジェネ』を作った研究員たちだよ」


「どうもこんにちは」

3人のうちの一人が挨拶する。


「では、今回のプロジェクトの概要を説明させてもらうよ。まず、君たちにはこのカプセル型の装置に入っていただき、地球にない元素から発せられる電磁波を浴びていただく」


「なんか、危なそうな話だなぁ」

清田の表情が少し曇る。


「人間の脳は全体のほんの一部しか普段使われていない。しかし、その使われていない部分をこの電磁波を使って開発させることで、新たに超人的な能力を覚醒させ得ることができる…」


それってつまり、この装置に入れば超能力を得られるってことだ。

嘘みたいだ。


「具体的に何が起こるんですか?」


やっぱり、これは聞いてみたかった。


「いや、未だによく分かってないんだ。人によって影響する脳の箇所が異なるようで、具体的に何の能力が覚醒するかは言えないんだ」

研究員は少し険しい表情になる。


「やっぱり…副作用はあるんですよね?」

美香は心配そうな声で言った。


「ない、と99%断言できる。だが、100%とはいえない。この世に100%という数字は存在しないからね」


なんだか頼もしい。

そうと決まって涼介たちは、防護服のようなものを着せられることになった。

これで有害な電磁波を防ぐという。


涼介、美香、清田の3人は、それぞれ決められた装置の前に立った。


研究員たちが何かのボタンを押すと、カプセルの扉が開く。

中にはこの部屋よりも青い光が差し込んでいる。


「では…どうぞ」

そう言われ、3人は一歩ずつ装置へ歩いていく。


中に入ると自動で扉が閉まり、何の音も聞こえなくなる。

もちろん期待もあったが、この瞬間は不安でいっぱいだった。


装置が動きだす音がすると、カプセル内の気温が急激に下がる。


次の瞬間、地球を包み込むかのような光によって世界は真っ白になる。




こうして、涼介は超人間(ネオヒューマン)になったのであった。











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