第7話
「…え?なんっ…」
教室に入るなり聴こえてきたのは、ガチャと言う鍵が閉まる音。
「……今日はホントに機嫌が良いみたいだね。1年に1回あるか無いかぐらいじゃない?」
「当たり前でしょ?せっかく伊織と2人っきりになれたのに、邪魔されちゃ元も子もないでしょ」
今のカイなら、いつもは無口なんです。と説明しても誰にも信じてもらえないだろう。
カイの機嫌がどうしてこんなにも良いのか。本当は理由なんてかなり前から分かっていた。
『普段は一緒に居るレイが居ないから』
伊織の記憶では最後にレイ抜きで2人だけの時間が出来たのは正月だった。
確か、その時は3人で初詣でに行ってたんだけど人混みで逸れたように見せかけて2人で少し話したり買い食いしたりしたんだよな。……あんまり長い間離れてたらレイにバレるし。
この時ほど家にスマホを置いてきたら良かった、と思ったことはなかったな。と1人で少し前の思い出に浸っていると…
「どうかした?」
…ビックリした。
急に話しかけないでほしい、と思う反面自分も2人っきりになれて舞い上がっているのかもしれないと伊織は思った。
「なんでもないよ。ちょっと考え事してただけだから」
「ふーん?ま、そんな事より 伊織… こっちにおいで?」
「日直日誌の記入が終わったらね」
子どもがおねだりをしているような顔でこちらを見つめ両手を広げている。
カイの腕の中に今すぐ飛び込みたい。
そんな自分と葛藤しながら日直日誌を開く。
「……待てない」
あー…。
今日のカイは何かあったのではないかと疑いたくなるほどおかしい。
こんなにもカイが積極的なのは初めてなのではないか。
「カイ、暑いから離れて」
「ヤダ」
「お願いだから」
「無理」
「カイ、恥ず「知らない」か、しい…、から……」
5月下旬なので、生暖かい日はあるものの暑い日はまだない。過ごしやすい気候だ。
だから、本当は暑くない。
それなのに口が勝手にそう言ってしまう。
カイに真正面から抱きつかれ体温が上がっているのだろうか。
━━このままカイに全てを委ねてしまおうか━━。
伊織がカイの背中に腕を回そうとした、その時━━。
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