第12話
今回からカイ目線です。
レイが部屋を出て行った後、1人で机に向かい勉強もせずに伊織と出会った時の事を思い出していた。
小学3年。1学期の始業式。
その日が初めて伊織の存在を知った日。
伊織をひと目見た瞬間、今まで体験したことのない感情に支配されたのを今でも覚えている。
初めてレイ以外の女子に興味を持った。
初めてレイ以外の女子に興味を持たれたいと思った。
オレが伊織に落ちるのは遅くなくて。
伊織とクラスが一緒と知った時は嬉しくて、意味もなく笑ってしまったのをレイに見られ「気持ち悪い」と言われてしまった。
教室に行ってみると、1人だけ浮いている子が居て。
周りを遠ざけているような雰囲気を身にまとっていた。
「……カイ?」
靴箱で見かけた女の子に気を取られていると急に話しかけられた。
驚いたが、口や顔に出すほどの事では無かったので無表情で「ん?」とだけ答える。
「あ…、何でもない。それより、あの子綺麗だね」
「うん」
そう言ってレイが顔を向けたのは、さっきまでオレが見つめていた子。
いや、見惚れていた。と言うのだろうか。
どちらにせよ、見ていたのに変わりはないが。
「ちょっと名前聞いてくる」
そう言ってレイに背を向けあの子に近づいて行く。
すると、その子は此方に気が付いたのか一瞬だけ視線を向けた。
やはり綺麗だ。近くで見ると尚更際立っている。それでいて可愛い。
そんな事を考えながらさらに近づく。
そして声をかけようとした、その時…。
ビクッと身体を強張らせ、此方を睨んできた。
例えるなら…そう、ライオンに周囲を囲まれた子どものシマウマが、最期の抵抗を見せている。そんな感じ。
相当警戒しているようだ。
まあ、あの容姿だし。今までにも近寄ってくる男が居たんだろうな。
なんて思いながら眼を合わせる。
「ねえ、名前何て言うの?」
「……」
別に変な質問をした訳ではないし、この学校はクラスが多いので最初に自己紹介をするのは不思議な事ではないはずだ。
疑問に思っていると「貴方の名前は」と逆に質問されてしまった。
後で名乗るつもりだったから問題はないのだが。
「カイ。嫩カイ。そっちは?」
「……伊織」
此方から名乗ると、今度は答えてくれた。
「苗字は?」
「……白銀」
白銀。それはここら辺の住民なら知らない人はいない名前だった。
白銀家は鎌倉時代から伝わる名家で、今でも家は豪邸だった。
だが、今の当主には子どもがいない事でも有名だったはず。
なのに伊織は白銀家の娘だと言う。
……家に帰って母さんにでも聞いてみるか。
「……ねえ、どうして私に近づいたの。これ以上私に関わらないで」
それは小学3年生の言葉ではなかった。
何故、人を遠ざけようとするのか。興味が湧いた。
「無理かな。今日から鬱陶しく付きまとってみようと思うからよろしくね。伊織」
「いきなり呼び捨て?それとストーカー宣言するのやめて。あと真顔も」
伊織だって真顔なのに人の事言えんのかよ。
「元々こういう顔なんで」
「呼び捨てとストーカーは無視?」
「当たり前」
「……もういい。好きにしたら?」
まさか、了承して貰えるとは思いもしなかった。
「ねぇ、どうして人を遠ざけようとするの」
「それを貴方に言う必要はない」
「そうだけど?何か問題でも?」
「……貴方と話してたら頭痛がしてくる」
「そりゃどーも。そうそう、オレちゃんと名前あるんだから名前で呼んで」
「気が向いたらね」
こんなに喋ったのはいつ以来だろうか。
初めて、他人とマトモに話したかも。
「ふーん。で、教えてくれないの?」
「……貴方が信用できると判断できたら教えてあげる」
「ふーん。で、教えてくれないの?」
「人の話聞いてた?」
「うん」
ワザと怒らせてみる。
もしかしたら、教えてくれるかも。と言う小さな希望を抱いて。
「私の家に来る?そこで教えてあげる。茜に認められたら、だけどね」
「え、行く」
即答だった。 当たり前だけど。
「じゃあ、次の日曜日だけ来ていいよ」
「ありがと。じゃ、妹が待ってるから」
「……来るのを認めるのは貴方1人だけよ?」
「分かってる」
結局名前では呼んでくれなかったが、名前も聞けたし、家に来てもいい、と言ってくれたから今回は許すか。
なんてことを思いながら、今度は伊織にせを向けレイの元へ歩いていく。
「遅かったね。名前聞けたの?」
「うん」
「よかったね」
「レイ、機嫌悪いの?」
「別に」
レイの元へ帰ると、何故か機嫌を悪くしたレイがそこに居た。
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