ヘンの迷宮1
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翌朝、南達はジェイル達に誘われるままに、村の近くで発見されたダンジョンの前へと出発した。
木の生い茂る山林を抜け開けた場所へと到着すると、石造りで組まれた迷宮の前に大勢の冒険者達が集結している。
生産スキルで作られた商品と思しき露店が並ぶ。
まるで祭りの会場のように賑やかな様相に、美紗は眉をひそめると堪らず口を開いた。
「何だか雰囲気ぶち壊しね……」
「少し来るのが遅かったかな?」
南は周囲を見渡しジェイル達の姿を捜すが、それらしい人物を探すには到らなかった。
それとは別にこちらへと接近してくる集団の姿を捉える。
忍者装束に身を包んだ黒頭巾に面頬の男。
ベースボールキャップにタンクトップ姿の男。
そして剣を担いだ褌姿の男の三人組であった。
その人物達から立ち上るオーラに気圧され、南達は思わず身じろぐと慌てて距離を取った。
「待つんだ。私達は怪しい者ではない」
「その格好で怪しくないと申されても、いささか説得力に欠けますよ」
「何で褌……」
思わぬ事態に面頬の男に話しかけられた南は困惑していたのか、若干おかしな敬語で返答すると面頬の男は何食わぬ顔で話を続けた。
「拙者の名前は鎌倉くん」
「オレの名前はサントス」
面頬の男は短刀を構えながら名乗りを上げ。
続けてタンクトップの男がポージングを取りながら自己紹介を終える。
何時の間にか視界外に消えたサブが柴の背後へと現れると、彼の尻をまさぐりながら名乗った。
「ひぃッ!?」
「俺の名前はサブだ。宜しくなアンチャン」
「さぁ、名乗りを上げた。これでもう怪しくはない」
「余計怪しさが増して……」
南が身を乗り出してツッコミを入れると鎌倉が「何故だ」と呟きながら、仲間達と円陣を組み小声で相談を始める。
しばらく相談したところで結論が出たのか、再度こちらへと向き直り自信満々の様子で口を開いた。
「俺の名前はサブ……」
「名乗る順番の問題じゃないです!」
「むぅ、ジェイル殿の話とは異なり、随分と気難しい御仁だな」
「何故それを先に言わないんですか……」
鎌倉の言葉にようやく得心のいった南は彼等の話に耳を傾けた。
ダンジョン攻略はチーム単位によって行われ一階の掃討は既に終了している事と、前衛の足りない南のパーティを援護するように彼等に言付けこの場に残したことを伝えた。
その話を聞いた南は内心厄介払いをしたかっただけではないのかと邪推したが、彼等がニンジャ・タフガイ・サムライのパーティである事を聞き驚嘆の声を上げる。
「こんな僅かな期間で上級職に!?」
「このゲームは名前を変数に初期値が決定される仕様、御存じなかったのか?」
「成る程……でもタフガイって職業なんですか?」
多少の納得を覚えた南は彼等と一時的にパーティを組むと、迷宮入り口で配給されていた治療薬を受け取り迷宮の中へと足を踏み入れた。
かびの臭いに苔むした床。
所々に打ち捨てられたモンスターの遺体の数が、ここで起きた戦闘の激しさを物語っていた。
南達は鎌倉達を先頭に迷宮の深部にある地下への階段を発見すると、音を立て下っていった。
やがて二十メートル四方はある石造りの部屋へと辿り着くと、仲間達となにやら話し合っているジェイルの姿を発見した。
「ん? よく来てくれたな南君、心強いよ」
「何かお手伝いできる事はありませんか?」
「いやはやこの迷宮が無駄に広くてね。人手は多いほど助かる」
ジェイルはそう言うと南達の捜索担当を指示する。
やがて通路を進みゆく彼等の目の前に扉が立ち塞がると、鎌倉は聞き耳を立てた。
しかし扉が分厚い為なのか、中の様子までは分からなかったようだ。
一行は武器を構え勢いよくドアを押し破るとそこには六体のオークが待ち構えていた。
「敵が来るぞ、オーク六体!」
「《眠りの雲》は?」
南は瞬間的に敵戦力の分析を行った。
武装は手斧に剣が中心で一人攻撃力の高い曲刀を持つ者が居たが、この状況ではもっと有効な対処法がある。
南は扉から後方へ下がるよう全員に指示すると、灰緑色の肌をしたオーク達は我先にと扉へと集い渋滞を起こす。
柴はその様子を見て呆れたように呟いた。
「こいつら頭悪過ぎじゃね?」
「HEY! 油断はするなよ! サブ!」
「応!」
サブが扉から雪崩れ込んできたオークを《仁王立ち》で迎えると、振るう剣を叩き落とす為に剣を振るう。
しかし受け損なったオークの剣がサブの肉を切り裂き僅かな傷を負わせた。
続いて二匹目が扉を抜け出ると柴に向かって剣を振り抜く、一旦は小盾に当てて軌道を逸らした物の体に剣を受けた。
一同は体勢を立て直すと反撃を開始する。
「《魔術師の腕》!」
南が口を開くと《疑術》が発動、開いていた扉が独りでに閉じる。
後続のオークはしたたかに頭部を打ちつけ仰け反った。
たちまち将棋倒しとなったオーク達は扉の前で積み重なる。
不意を突いて鎌倉の短刀が眼前のオークへと迫る。
扉の前で待ち構えていたサントスと挟撃した鎌倉の一撃が、一瞬にしてオークの首を刎ね飛ばした。
続いて大上段に構えたサブの振るう剣が、もう一体のオークへと打ちつけられると頭蓋を両断して打ち倒した。
「残り四体、扉が開くぞ!」
「曲刀を持っているオークに注意しろ」
鎌倉が注意を促すと部屋から通路へと雪崩れ込んできたオークの集団に、先手を取った南達が攻撃を降り注いだ。
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