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辺境の村ヘン6

―――――





 南達はゴブリンとの戦闘をこなした後、ヘンの村へ帰還すると村内の雰囲気が変化しているに気付いた。

 街道を通ってNPC達が訪れ、町としての機能を修復しつつあったのだ。

 南はジェイル達と活気を取り戻しつつある村内を一回りすると、業務が再開されていた冒険者の酒場へと足を運んだ。

 酒場の敷居を跨ぐと室内の慌しい喧騒の中で冒険者達は木製の椅子に腰掛けながら机の上で軽い食事を取っている。

 酒場内に入るなり柴は、はしゃぎながら空いた椅子へと座ると、食事の注文を始めた。


「よっし、やっと飯が食えるなぁ!」

「食うなら最後に口にするのは、肉かパンにするといい」

「へぇ、それまた何でだ?」

「肉類は筋力、パン類は生命力に食事ボーナスが付くのさ」

「ほぉ、そいつは良い事を聞いたな。しかし食事の前に戦利品の分配を済ませようか」


 ジェイルはそう言うとゴブリンから剥ぎ取った戦利品を机の上に並べる。

 剣が三振り、短槍が一本に加え小盾が一枚。

 防具は子鬼の身長にあつらえた物なので、素材として売買するくらいしか使い道はない。

 南達は剣を一振り受け取ると、残りをジェイル達に差し出した。


「本当にそれだけで良いのかな? 君達は四人いる訳だし……」

「僕達はもう既に最低限の装備は揃えていますから」


 原則的に明確なクリア目標が設定されているゲームでは、他プレイヤーを出し抜く意味は全くない。

 このゲーム内では敵勢力も限られたリソースしか利用出来ず、無限にモンスターを発生させる事が出来ないのだ。

 となると戦力を分散していれば、敵勢力もモンスターを分散せざるを得なくなる。

 それはプレイヤーの戦闘参加が減れば減るほど集中攻撃を受ける事を意味する。


「そういや南ィ、このゲームの一次目標ってなんなんだ?」

「クエストって言うくらいだから討伐系だろうね」

「それを調べるのも攻略の一環って事なの?」


 分配を終えて五銀貨ほど支払い料理を購入すると、食事を始める。

 味覚情報もフィードバックしているが複雑な味は再現不可能な為に、大まかな味しか得る事が出来ない。

 柴がマンガ肉に歯を立てながら南に一次目標を問いかけると、南はクリア目標が特定ネームド・モンスター殺害による討伐だと推測した。

 流石にそれでは大雑把過ぎたのか、美紗は納得のいかない様子で果物を口に運ぶ。

 話を聞いていた愛音もチーズを挟んだパンに齧りつくと、今後の方針を述べた。


「もう少しNPCから詳しい話を聞いてみないと分かんないよ」

「愛音の言う通り、もう少し大きい街に向かう必要があるけど……」


 南が言い淀むと三人の視線が集まる。

 NPCの大半が全滅している事が原因で、ヘンの街では詳しい話を聞くことが出来ない。

 更に言えば、地図も無しに村から離れては道中で死んでしまうだけだと南は考えた。

 幽霊状態のキャラクターは遺体から離れることが不可能な為に、救助が来なければキャラクターを破棄するしかなくなる。

 結論から言えば、ヘンの村周辺を攻略してエンカウントレベルを下降させる必要があった。


「エンカウントレベル?」

「攻略情報によると、ダンジョン奥の魔方陣がリスポンポイントになっていて、そこをクリアすると敵とのエンカウントも減少するのさ」

「ちょっと待って南、モンスターは無限に再生するの?」


 美紗が愛音に苺を食べさせてあげようとした折、南の言葉に反応。

 横合いに会話に混ざると、愛音は口を開けたままお預けを食らった。

 その様子を横目に見ながら南は美紗に対して答えを返す。


「供物……NPCやプレイヤーの負傷や死亡で魔物側にもポイントが貯まる。それを消費して魔物を召喚するんだ」

「ヘンの村のNPCが全滅してたから、倒してもモンスターが減らねぇのかなぁ……」

「それって下手すると、進行不能にならない?」


 美紗の指摘する通り、クソゲークエストでは所謂“詰み”の状態がいくつか存在する。

 特定プレイヤーが少人数で魔物を倒し過ぎた場合、敵がリスポンしなくなる。

 結果、他のプレイヤーはレベルを上げる機会を永遠に失い詰む。

 或いはモンスターの死亡よりもプレイヤーの犠牲が多い。

 キルレシオの偏りが発生した場合、マップ上に大量のモンスターが溢れる状態が発生。

 鼠算式にモンスターが増加する事でこれもまた詰みとなる。


「ジェイルさん達を見る限り、他の人達も平気だと思うけど……」

「クソゲーに慣れてる印象があるよね」

 

 南達は食事と相談を終えると、行商のやってきた広場へと向かった。

 そこでしか物が買えないとあって、冒険者達が大挙して押し寄せ行列を成していた。

 日用品が飛ぶように売れる中、南は商品を物色し目に入った盗賊道具に腕を伸ばす。

 パーティーの共有財産は二百六十二金貨に五銀貨、盗賊道具は三十六金貨もするが、これがなくては扉すらも開けることは出来ないと考えれば安い出費である。

 愛音は南の手に取った商品の値札を確認すると眉をひそめる。


「少し高くない?」

「ファンブルでもしない限り壊れないから、妥当な値段だと思うよ?」

「ちょっと値切ってくる……」


 美紗が服の袖を捲りながら行商人へと歩き出すと〈交渉〉を開始した。

 やがて話し合いが終わると、美紗は力なく項垂れながら南達に歩み寄ると盗賊道具を手渡した。

 どうやら交渉は失敗に終わったようだ。

 南が周囲を見渡すと、柴が棒を取り回しくるくると回転させている姿が彼の視界に入った。


「十フィートの棒は買わねぇの?」

「棒くらいならその辺に落ちていそうだけど……」

「野営と探検用の道具は必要だよね」


 愛音は野営道具を一セット、身だしなみ用具二セットを手に取る。

 南はそれに加えて包囲磁石、ランプと三リットルほどの油を手に取り、総額で二十九金貨ほどの商品を購入した。

 美紗は南の持つ商品を横目にみると思わず悲鳴を上げる。


「きゃッ! な、何持ってるの南君!」

「瀉血用のヒルだよ。毒を受けた時にはこれで……」

「戻しなさい!」

「でも……」


 美紗の無言の圧力に負けて南はしぶしぶ瀉血道具を元の位置に戻す。

 会計を済ませると百九十枚の金貨と二枚の銀貨が南達の手元に残った。

 南達は明日への用意を済ませると、住み着いている廃屋の仮設拠点へと歩き出した。



―――――

―――――


LV:2

CLASS:ローグ

S・CLASS:レンジャー


STR:8 INT:10 WIS:9

VIT:9 DEX:14 LUK:11

HP:16 MAXHP:16

MP:0  MAXMP:0

AC:10 EV:7


・SKILL

〈隠密〉〈罠解除〉〈早業〉

・ABILITY

《疾走》《擬呪》

・EQUIP

E・剣 E・旅人の服

・ITEM

盗賊道具 松明 油


―――――


LV:2

CLASS:ファイター

S・CLASS:パラディン


STR:11 INT:12 WIS:10

VIT:9  DEX:8  LUK:8

HP:15 MAXHP:19

MP:2  MAXMP:2

AC:8  EV:8


・SKILL

〈威圧〉〈生存〉〈騎乗〉

・ABILITY

《盾習熟》《武器熟練》

・EQUIP

E・手斧 E・厚手の服 E・小盾

・ITEM

保存食 携帯用寝具


―――――


美紗

LV:2

CLASS:クレリック

S・CLASS:モンク


STR:11 INT:13 WIS:10

VIT:14 DEX:16 LUK:9

HP:14  MAXHP:14

HP:12 MAXMP:12

AC:8  EV:10


・SKILL

〈交渉〉〈製作〉〈治療〉

・ABILITY

《武器落とし》

・EQUIP

E・棍棒 E・革鎧

・ITEM

ランプ 油 着火具


―――――


愛音

LV:2

CLASS:ウィザード

S・CLASS:ソーサラー


STR:8 INT:13 WIS:8

VIT:14 DEX:13 LUK:7

HP:14 MAXHP:14

MP:12 MAXMP:12

AC:10 EV:9


〈鑑定〉〈呪文学〉〈魔法装置使用〉

・ABILITY

《呪文熟練》

・EQUIP

E・短刀 E・旅人の服

・ITEM

方位磁石


―――――

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