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辺境の村ヘン3

―――――





 愛音は風のように森の中を走り抜ける。

 背後からは追走してくる犬頭のコボルドの群れが手に手に棍棒などで武装して、愛音の後を執拗に追跡してくる。

 愛音は疲労で息を荒げながら走り続けるが、一向に戦闘フィールドから抜け出せない。


「何で振り切れないの!?」

『大丈夫、愛音?』


 虚空から美紗の気遣う声が聞こえてくる。

 彼女は実体のないゴーストとしてフィールドに降り立っているので、愛音やモンスターからも可視する事は出来ない。

 現在、美紗は愛音に取り憑いている為に声だけが彼女の耳へと届いているのだ。


「美紗のお仲間になっちゃうかも……」

『私がトラウマになるから諦めないで!』


 目の前で友人が棍棒で袋叩きに遭う、ショッキングな映像を想像しながら美紗は声を張り上げる。

 プレイヤー側はHPが尽きた瞬間に意識が途切れるが、見ている側はそうではない。

スタミナを失った愛音の後からじわじわと距離を詰めてくるコボルドが遂に手の届く距離まで接近すると、棍棒を振り上げた。


「キャウン!?」


 その瞬間、前方から飛来した光弾がコボルドの顔面を捉えると、モンスターは仰け反りながら地面へと崩れ落ちた。


「魔法の矢?」

『助かった?』


 前方から見知らぬ男と並ぶ柴の姿を確認すると、美紗はほっと安堵を吐いた。

 愛音は視界を左右に振ると、木々の間をすり抜けてコボルドの集団に向かって《疾走》する南の姿を捉えた。


「グループモンスター五体、気をつけろ!」

「俺も前に出ます」


 グループモンスターとは群れを形成して、地形や生息地域に関係なく動き回る野党的存在である。

 行く先々のNPCやプレイヤーを襲撃する事で装備アイテムを奪い武装する事で勢力を広げる。

 攻め寄せてくるコボルドの中には皮鎧を着込んだ者や、剣で武装した個体が混じっている。

 南達は知る由もないがヘンの街を壊滅させたのも、この群れの仕業であった。


 ファイターのダークが警戒を呼びかけると、柴が前衛に乗り出し、手斧と即席で製作された小盾を構えた。

 前線の二名とコボルドが接触すると、ジェイルの防御姿勢に当たり負けしたコボルドが跳ね飛ばされる。


「こいつらは弱いな……」

「押し返せ!」


 ジェイルの保有する《無謀》のスキルが発動、攻撃を受けたコボルド達は隊列の後方へ移動することが出来ない。

 隊列の内側へと逃げ込んだ愛音は肩で息をしながら呼吸を整えると、手近な石を拾い戦闘に参加した。


『愛音、平気なの?』

「戦闘参加しとかないと、経験値貰えないもん!」


 美紗の心配を余所に愛音は石つぶてをコボルド達に浴びせた。

 その間隙を縫って飛び出す、南の足払いがコボルドに命中するとあえなく転倒する。

 これで立っている者が二名となったコボルド達は形勢不利と判断したのか背を向けて逃げ出していく。


《魔法の矢》


 モードロックの魔法の矢が完璧な形で決まる。

 逃げ出そうとしていたコボルドの一体は、頭から地面に突っ伏すと動かなくなった。

続いて転倒していたコボルドに向かって柴の手斧が命中、コボルドに浅い傷を与える。

 最後にジェイルの剣が綺麗に肋骨を避けるように肺へと入るとコボルドは口から血を吹き絶命した。


「あと二体!」

「囲め、囲め」


 転倒から回復したコボルドが棍棒を振り上げて柴に殴りかかるが、柴の構えた小盾に掠っただけで傷を与えることは出来ない。

 続いてもう一体のコボルドが剣でジェイルに切りかかる。

 これもまたジェイルの脇を素通りしただけで、効力打には到らなかった。


「よっしゃ!」


 ダークの振るう短刀の突きがコボルドの腕に深々と突き刺さる。

 柴の手斧による追撃がコボルドの顔面は吹き飛ばし、敢え無く絶命させる。

 残る一体も問題なく処理され、南達の初戦闘は大勝利の結果に終わった。


―――――

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