辺境の村ヘン2
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南は道中で知り合ったジェイルと共に街道と森の境界線を歩きながら、最初の村“ヘン”へと辿り着いた。
切り開かれた山林の中に佇む集落の一つで、閑散とした村の中には人も居らず。家屋も所々欠損しており、NPCの姿も見えないようだった。
「何だかダメっぽいですね」
「FPSでよくみる“A‐LIFE”だな」
A‐LIFEとはNPC同士が独自の生態系を再現して、ゲーム内を行動する生態系シミュレーターの呼称である。
通常のゲームでは街の内部へはモンスターが入られぬよう設計されているが、クソゲークエストの世界ではそのような気が効いた制限などかけられていなかった。
その為に村落に侵入したモンスター達とNPCとが戦闘となり、配置されていたNPCは全滅してしまったのだ。
南が村落の中を散策すると、ちらほらとプレイヤー達の姿が増えてくる。
南は愛音達の姿を捜す内に、人だかりが出来ている冒険者ギルドを発見した。
南は冒険者ギルド内に入ると辺りを見渡す。
ギルド職員すら居なくなった部屋の中では、受付に置かれた豪華な装飾を施された一冊の本だけが残され。
プレイヤー達は本に手を置き宣誓する事で、職業を決定している。
南は自分の順番が回ってくるのを確認すると、本の上に掌を置き何処からともなく聞こえてくる声に返答した。
『クラスを選択して下さい』
「ローグ」
『セカンドクラスを選択して下さい』
「レンジャー」
南はクラス選択を終了させると、ステータス スクロールを開く。
南
LV:1
CLASS:ローグ
S・CLASS:レンジャー
STR:8 INT:9 WIS:9
VIT:9 DEX:14 LUK:11
HP:11 MAXHP:11
MP:0 MAXMP:0
AC:10 EV:7
・EQUIP
E・旅人の服
・ITEM
NOTHING
・SKILL
〈隠密〉〈罠解除〉〈早業〉
・ABILITY
《疾走》
職業とインターフェイスが無事変更されているのを確認すると、ジェイルと共にギルドの前で待機し、他の仲間達と合流するのを待った。
ジェイルの方もメンバーを募集しているようで、クラス選択を行いに来たプレイヤー達に声を掛けている。
やがて柴が姿を現すと南に向かって走りより、調子付いた声で語りかけてきた。
「よぉ南ィ、生きてるかぁ?」
「なんとか……それより、その装備はどうしたんだ」
柴は布の服には不釣合いな手斧を掲げ。
ゴルフ棍棒を振るうように、その場でスイングした。
「廃墟になった家に落ちてたんだよん」
「それは盗んだって言うんだよ。カルマが下がるよ」
「所有NPCは死んでるから平気だって、それより美紗達は?」
「まだ見てないね」
その言葉を聞いた柴は表情を変えると、考え込む素振りを見せる。
ゲーマーである愛音は兎も角、美紗は右も左も分からないゲームビギナー。
心配する柴の言葉を待たずに南は彼を安心させる為に言葉を重ねた。
「美紗は初期設定がゴーストになっている。狙われる事はない」
「愛音は心配じゃないのか?」
「彼女もクソゲースレイヤーだからな……」
真剣な表情でそう語る南を見て、柴は片手で顔を覆って天を仰いだ。
四人組は幼少時の短期学習の時からの知人ではあったが、南と愛音のゲーム好きに振り回されることが度々あった。
時によっては三年近い期間ゲーム内で過ごした事もある。
しかしゲーム内で良い雰囲気になったとしてもゲームが終われば仲の良い親友へと戻ってしまう故に、付かず離れずの関係が続いていた。
「けど、そろそろ捜索隊が組まれる頃じゃないかな?」
「お前は仕切らないの?」
「ここに来るまでに会った。ジェイルさんとそんな話をしてたんだ」
「へぇ、じゃあ俺達もそれに参加しようぜ」
やがて捜索に参加するプレイヤー達は中央広場へと集まり、パーティを結成すると周辺の散策を行う打ち合わせを始めた。
その後モードロックと呼ばれるウィザードのアイデアで、同心円状に捜索範囲を広げる方法が採用され、南達はジェイルと一時的にパーティを組んだ。
お互いの名前とクラスの確認をし終えると、パーティ編成の隊列を相談する。南が口を開き前衛から決定する。
「ジェイルさんでタンク安定ですよね」
ジェイルはパラディンのクラス、モンスターの攻撃を無効化するACが高いので壁役に向いている。
南の職業はローグ。状態異常などを駆使して、モンスターを封殺する戦法を得意とする職業だ。
南の提案に皆も賛成すると続いてジェイルが中衛を指示する。
「ダークさん、柴さんは中衛をお願いします。モードロックさんは後衛をお願いします」
ダークと柴の職業はファイター、打点の高い職業でモンスターを確実に仕留める。
柴の場合はセカンドクラスをパラディンを選択しているので前衛にも向いている。
そして後衛はウィザードのモードロック。高い殲滅力が持ち味だが、序盤では出来ることは少ない職業だ
「はてさて、どうなりますことやら」
モードロックは蓄えた白い髭をさすりながらそう呟いた。
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