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トリアの迷宮5

―――――





 二階の捜索はその後問題なく終了し、肉人形『フレッシュドール』の排除は一定の成果を見せた。

 三階には通常のモンスターが出るのを確認すると、南の提案により三階層の掃討は五階まで直通の昇降機へと繋がる通路のみに留め、先に進むことを決定する。

 その理由は他冒険者達の足止めとして、通常モンスターを利用するというアイデアであった。

 ジェイル達は現在昇降機に乗り込み五階へと向かう途中である。

 昇降機が音を立てて揺れる度に女性陣は不安顔で、お互いに声を掛け空元気を出している。

 やがて五階へと辿り着くと金属製の床が大きく揺れ、巨大な金槌を打ち込むような音を立てて部屋が停止した。


「ここが五階か……」

「みんな今回は帰還に懸かる消耗も考えて行動してね」

「早速、熱烈な歓迎がきやがった」

「グルルル……」


 南が皆に警戒を呼びかけると、先導していたダークとスゥが敵を発見し後方へと舞い戻って来た。

 敵陣様はフレッシュドールが三体、しかし手に長剣を装備しており以前の者とは違った印象を受ける。

 すかさず中列のノッコの銃弾が一体に命中するが、爆発する事無くゆっくりとした足取りでこちらへ接近。

 続いてミルキーが南の指示を受けて別の敵を機械弓による狙撃を浴びせるが、頭部に命中しながらも爆発はしないようだ。


「ど、どうすんだよ……南!」

「一通りフレッシュドールに射撃攻撃を、起爆条件が“瀕死又は死亡時に爆発”の可能性もあるよ」

「以前の長槍を回収しておいて助かったな」


 前衛陣が剣を鞘に収め長槍を手に取ると、ジェイルが渾身の力を籠めて突きかかる。

 ジェイルの放った突きは“幸運”にも足の付け根に入り一体は脚が捥げて転倒。

 まだ生きてはいるが戦闘は続行不能となる。

 続けて柴とエルロンドの長槍がもう一体のフレッシュドールの腹部を突き刺すと、ダークの放った槍は惜しくも腕を掠るだけに終わった。

 ヘルは烏木の戦杖から機械弓に装備を変更すると、冷静に狙いをつけてボルトを発射する。

 フレッシュドールの動きが遅い所為か余裕を持って命中した。


「動きが遅いから楽勝じゃん!」

「でも……かなり撃ち込んでるのに倒れないね」


 気を良くしたヘルの言葉にキララは違和感を漏らすと、一行は後退しながらも更に攻撃を加える。

 南は愛音に念には念を入れて《魔法の矢》を撃つように指示する。

 アンデットであろう事から《眠りの雲》の効果は薄いだろうという事からの判断だ。

 南は長槍を的確に胸部に打ち込むと、フレッシュドールに向かって“単騎駆け”敵の横を横切ると、周囲を周回後“近接起爆”が条件でないかを確認する。


「愛音《魔法の矢》を準備、術が起爆条件の可能性もある」

「わかった、転倒したのを狙うね」


 やがてフレッシュドールの一団が前線に触れると動きが見違えたように良くなり。

 ジェイルに向かって長剣を振るった。

 腕を深く切り裂かれ手傷を負うと再び後方へと下がり警戒する。

 もう一体はエルロンドを肩口から切りつけ幸い防具によって止められるが、肩から骨が見える程の深い裂傷を負った。

 その動きの素早さもさる事ながら、重量感のある予想外の威力にエルロンドは小さな呻きを漏らした


「意外に力強い……中衛の方は前に出ないで下さい!」

「後方のスペースを確認!」

「壁際まで凡そ三十メートルです!」


 中衛の美紗がジェイルに対して壁際までの距離を伝えると、援軍が来ないかどうかを逐次目配せをしながら確認する。

 再び攻勢に入ったジェイルが突きかかると肩口を掠り、柴の攻撃はフレッシュドールの正中線に命中する。

 しかしどれだけ攻撃を浴びても出血が見当たらずどれだけダメージを与えているかも観察できない。

 エルロンドの突きが肩口に入りフレッシュドールを押し退け距離を取らせる。

 更にはダークが追撃を入れ腹部に長槍を突き立てた。


「おいおいマジかよ!」

「まるで効いてないって事は無い筈だが……」

「ミルキーの《落とし穴》なら一体くらいは余裕ニャ!」

「《集中砲火》開始」


 ノッコが新造した拳銃をもう一丁抜き二丁拳銃のスタイルで構えると、交互に二発の銃弾を放つ。

 更にはミルキーとヘルの機械弓に南のワンハンドアクションによる短剣が加わり、激しい《集中砲火》が浴びせられる。

 次々と打ち込まれる矢弾の雨にフレッシュドールは棒立ちのまま受け止めると、なおも止まらず前進を続けている。


「生命力だけは“フレッシュゴーレム”と同程度には備えているかもしれない……」

「南、支援は!?」

「敵の増援に備えて、必要なら僕の手札から切る」


《魔法の矢》


 〈集中〉していた愛音の詠唱が終わると三発の光弾が彼女の周囲を取り囲み、転倒していた敵目掛けて光弾が放たれた。

 フレッシュドールに命中した箇所から皮膚が剥がれ垂れ下がるが、やはり余り効いてはいないようだ。

 残す《自爆》の危険性は瀕死か死亡時、もしくは保持して居ない或いは他の特殊条件があるかで多少限定される。


「動きが変わった!?」

「ジェイルさん!」


 負傷を帯びたフレッシュドールが、ジェイルの長槍を潜り抜け長剣を振るう。

 それは“不運”にもジェイルの首に吸い込まれるように命中、激しい鮮血を吹きながら、ジェイルは転倒すると口から血を吹きながらも追撃に掛かるフレッシュドールを蹴り飛ばした。

 すかさず美紗が救助に向かい負傷したジェイルを中衛まで下げると懐から治療薬を取り出す。

 更にはもう一体のフレッシュドールの長剣がエルロンドの元へと迫る。

 盾で軌道が反れ腹部へと叩きつけられるとエルロンドはその場でうずくまった。


「エルロンドさん交代です、柴」

「嫌な予感がバリバリすんだけど……」

「すまない、後詰めは頼むよ」


 エルロンドが柴と後退すると、負傷したフレッシュドールへの攻撃を再開する。

 南の長槍が命中したところで、ようやく腰を落とし足を引き摺るように歩き寄る。

 行動パターンが変わったのを見抜いた南は懐から油を取り出すと、退避の合図を出した。


「何をする気なんだ!?」

「ちょっとした火遊びだよ」


 フレッシュドールに投げ込んだ油が足元に落ちたのを確認後、疑術を用いて松明に着火。

 フレッシュドールに目掛けて火の点いた松明を投擲すると激しく燃え上がり延焼によるスリップダメージを与える。

 瀕死状態で自爆或いは死亡時に自爆だとしても、これならば巻き込まれる心配はない。

 ノッコ達がすかさず銃撃を浴びせると、フレッシュドールは近場の熱源に向かって《自爆》を敢行する。

 たちまち巻き起こる爆炎と共に迷宮内に閃光が走ると、フレッシュドールの肉体は四散し跡形も無く消え去った……しかし。


「南、他の二体はまだ生きてる!?」

「無条件即死じゃなくて単純ダメージなのか……生命力が高いから耐え切れたんだ」

「それは朗報だな」


 治療を終えたジェイルとエルロンドが長槍から長剣に持ち替え前衛に合流する。

 ヘンの迷宮ボスのように耐え切れる自爆であるなら、一撃死のリスクは無い。

 しかし残されたフレッシュドールは思っても寄らない行動に出始める。

 脚を負傷して倒れ込んでいたフレッシュドールの傍にもう一体が腰を下ろす。

 やがてゆっくりと頭部が花弁が開くように四つに割れると倒れ込んだ仲間を《捕食》し始めた。

 予想だにしない行動に南達が呆気に取られていると、次第にフレッシュドールの体が巨大化していく。


「おぇぇぇッ! このゲーム、レーティングどうなってんだよ!」

「そういう問題じゃないでしょ、おバカ」

「体力回復? 能力上昇? 効果が読めないね」


 一回り大きくなったフレッシュドールが一歩一歩南達の元へと接近してくる。

 南は〈念動力〉を掌に展開し迎撃に備え、仲間達は一様に悲壮な覚悟を浮かべた。その瞬間――


「ほいっと《落とし穴》っ♪」


 そう言うなりミルキーがフレッシュドールの足元を指差すと、人が一人通れる程の大きさの穴が出現する。

 フレッシュドールの下半身が穴へと飲み込まれると、上半身を振り回しながら足掻きだす。

 一行は脱力すると同時に嫌な予感が全身を駆け巡り、全力でその場から撤退し始める。


「グロ注意! グロ注意です!」

「敵が食う前に使っとけよ、ミルキーッ!」

「だ、だって、そっちの方がお得ニャ!?」


 落とし穴が徐々に狭まると、背後からみちみちと肉を捻じ切るような音が聞こえてくる。

 落とし穴の効果が切れると穴は消失する。

 つまり上半身だけが穴の外にあるフレッシュドールは下半身だけが穴の内側に飲み込まれ、フレッシュドールの輪切りの完成となるのだ。

 南達は急いで昇降機で三階へと戻ると、何事かを心配するボルダン兄妹に何も語る事無く迷宮を後にするのであった。


―――――

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