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トリアの迷宮2

―――――


 妖精召喚の制限時間が迫り泡となって溶けていくのを確認すると、南は援軍が気になるのか通路の先にも時折目配せしながら柴の横へと並んだ。

 すっかりタンク役が板に着いてきた柴が盾を身構えると、地面に転がる長槍を後衛へ蹴り流す。


「南……連中慌ててるのか? 槍を取り落としてるな」

「チャンスだ、ボク達で引き付けよう」


 恐慌状態に陥った敵の他にも果敢にも向かってきたウェジピグミーの五体が柴に向かって爪を振るった。

 二体の攻撃を軽盾で上手く逸らすと、追撃で迫る爪が脇腹を引っ掻き軽傷を負った。

 続いて南に向かって攻撃を仕掛ける四体のウェジピグミーによる波状攻撃が南を襲う、先行して突撃してきた二体の攻撃を難なく避けると、残り二体による打撃を体に受けるが体勢を若干崩す程度の負傷に留まる。

 最後の攻勢に入った二体がボルダン兄弟に向けて攻撃に駆け寄るが、あっさりといなされてしまった。


「数だけは多いのニャ」

「これだけ密集してるなら《連射》しても……」


 ノッコが引き金を二回引いて連射すると、妖精の攻撃によって負傷を負っていたウェジピグミーにそれぞれ命中。

 ミルキーの機械弓が“幸運”にも命中した敵からボルトが横転すると、もう一体の喉元を引き裂き倒す事に成功した。

 一挙に四体を仕留める事で、ウェジピグミーの数は十二体となった。

 完全に回復したヘルがお返しとばかりに、烏木の戦杖を振るい一撃目を頭部に、二撃目を腹部に、そしてカッコよくポーズを取る。

 丁度その時、武器を構えた先には回り込んでいたウェジピグミーが爪を伸ばした所“幸運”にもヘルの武器が命中し一挙に三体を仕留めた。


「ど、どうよ、このオレ様のクンフーは……」

「何で動揺してるのよ」

「一時はどうなる物かと思ったけどニャ」


 愛音は詠唱を中断すると中衛に上がり、すり抜けようとするウェジピグミーの頭部を杖で殴りつける。

 ほとんど威力はないが手負いの敵にとどめを刺すには充分な威力があった。

 打ち据えられたウェジピグミーは頭部から流血しながら地面へとうつ伏せに倒れ込む。

 南が長剣の突きを放ち問題なく一体を仕留めると、柴の振るった戦斧がウェジピグミーの体躯を弾き飛ばした。

 ここからの逆転は不可能だと一行が勝利を確信した瞬間、前方から空気の切り裂く音が響き。

 柴の軽盾に機械弓のボルトが突き刺さると、南の脚と柴の肩口に一本ずつ矢が突き刺さった。


「増援か!?」

「いや……多分違うね。恐らくここが彼等の狩場なんだ」


 ウェジピグミーの菌床に入り込んだ冒険者が消耗し弱りきった所で漁夫の利を得て狩りだす作戦だ。

 突き刺さったボルトを両者は慌てて引き抜くと、血が流れるままに任せる。

 恐らく仕掛けて来たのはドラウであろう事は容易に推測できた。

 前方には揺らめく影が五体ほど動いているのを南の視界にも捉える。

 このままではウェジピグミーに足止めされた状態で機械弓を撃ち込まれ続ける事になる。

 有利なのは弓に比較して機械弓の再装填には時間が掛かるという事だ。


「ジェイルさんこの場はお任せします」

「……二人で大丈夫かね?」

「オレも行くぜッ!」


 南はジェイルにウェジピグミーの相手を任せるとドラウ目掛けて《疾走》を始める。

 それに合わせて柴が盾を構え突進すると、美紗はヘルに治療薬の最後の一本を手渡し送り出した。

 ウェジピグミー達が走り出す南目掛けて駆け寄ろうとする所にジェイルの長剣が煌き頭部を刎ね飛ばし“幸運”にもドラウの放ったボルトがもう一体のウェジピグミーの頭部に命中し息絶えた。

 更にはエルロンドの長剣が敵の肩口を綺麗に捉えると、ウェジピグミーの数を残り四体まで追い詰めた。

 ボルダン兄妹は戦況を素早く判断すると、南達の後を追いドラウの元へと突撃を敢行する。


「捉えたッ!」

「ネカットッ!」


《眩き閃光》


 南が《疑術》を用いて秘術の一つを行使すると、向かい合ったドラウ達との空間に突然の閃光が生成され敵集団の視界を一時的に喪失させる。

 攻め寄せてくる南に向かって突き出された細剣の一本は手元が狂い。

 自分達の味方である筈のドラウから背中を突き刺され、そのまま前のめりに倒れ込み死亡する。

 狂乱状態となったドラウ達の攻撃が南の胸元を浅く切りつけ軽傷を負わされる。


「南ッ!? 無事か?」

「大丈夫だよ、視界を潰した。一気に決めよう」

「よっしゃ!」


 南の振るう長剣がドラウの首元に命中し喉を切り裂き。

 もう一体のドラウは柴の戦斧による《強打》が顔面に直撃し息絶える。

 一挙に半数を倒されたドラウ達は怯んだ様子を見せると、背中を見せてその場から逃げ出した。

 追い縋るボルダンとシャルダンがそれぞれ長剣を振るうが背中に微かな軽傷を負わせるだけに留まった。


「クソッ! 逃げられた!」

「深入りはするなよ、兄者」

「……わぁってるよ」


 後方ではヘル達の波状攻撃によって数を減らしたウェジピグミーの内。最後の一体が美紗が槌矛によって倒される所であった。

 一行は一旦中央に集まり簡単な治療を施し体力の回復を待つと、今後の動きについて互いに話し合った。

 ヘルは部屋に置かれた宝箱を目敏く見つけると南の上着の袖を引っ張っている。


「撤退が順当でしょう、先程逃げたドラウが増援を呼ぶかもしれない」

「南君の提案に私も賛成だ。ボルダン……油が余っているなら、この菌床を焼き払っておいてくれ」

「あいよ、任せときなロードジェイル!」

「話は終わったか? 南、宝箱開けてくれよ」

「はいはい」


 南は宝箱の傍まで接近すると〈罠解除〉の技能を用いて罠の有無を確認する。

 南は宝箱の中に罠が仕掛けられている事に気付くと、箱の隙間から薄い板を差し込み起動用の仕掛けを切断する。

 更には盗賊道具を取り出して問題なく鍵の解除に成功させると、金貨が百七十枚ほどと一振りの剣を発見した。

 南が手を伸ばし剣を拾おうとすると火花を立てて感電してしまい、慌てて南は手を引っ込める。


「あちっ! なんだこれ? 愛音〈鑑定〉お願い」

「わたしとキララちゃんで〈鑑定〉するね」

「稲妻の剣って書いてある。エンチャント・ウェポンだよ☆」

「マジかッ!?……んで、エンチャント・ウェポンって何?」


 エンチャント・ウェポンとは特殊な秘術処理の施されたアイテム群であり、宝箱の中から得るか模造した物を購入するしかない貴重な武器である。

 単純に威力の向上した物やこの稲妻の剣のように韻を結ぶ事で封じられた呪文が放たれる物がある。

 アイテムの現物が存在すれば〈製作〉は可能である為に複製は可能だ。

 この剣の量産が可能になれば戦力の底上げに貢献できるだろう事を南はヘルに語った。


「増やせるのかよ、なんかお宝の有難味がないなぁ……」

「練金釜で増やせても、ネームド・アイテムとしては作れないからね」

「ふぅん、量産した方は性能が落ちる訳かぁ……なら」


 ヘルは稀少な物なら金になると判断したのか、にやりと不敵な笑みを浮かべる。

 こっそりと南の手に持っている稲妻の剣へと腕を伸ばすヘルだったが、南はジェイルに剣を手渡すと、剣を取ろうと掴みかかった彼女は目標を外してその場でよろめいた。


「オレの剣――ッ!」

「……だそうだけど、良いのかな?」

「『稲妻の剣』のエンチャントは雷属性による追加ダメージ。範囲攻撃を持つジェイルさんが持つべきです」

「ヘルるんはキララの『ラブラブステッキ』があるからいいの☆」

「いや、それはそうだけど……ってこの杖そんな名前だったの!?」


 ヘルがポップアップを確認すると、無常にも戦杖から『ラブラブステッキ』という名称がポップアップされる。

 ヘルが周囲の視線に気付くと、事前に知っていたノッコ達が口を抑えて笑うのを堪えていた。

 ヘルは耳まで真っ赤になってうろたえるが、捨てる等という行動を選択できるほど命知らずではない。

 キララがにこにこと笑いかけるのに引き攣った笑顔で返答する。

 やがて部屋の菌床に火が放たれると、一行は一旦探索を切り上げ街に帰還。

 探索は後日に持ち越される運びとなった。


―――――

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