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森林都市ヒューレー2

―――――





 ヘンの村にて南達がヒューレー壊滅の報を受けたのは、数日後ヒューレーからの避難民や冒険者達が大挙して押し寄せた時の事であった。

 冒険者達の宿泊場所は宿にほぼ無限に部屋が拡張可能なので、差したる問題には発展しなかったがNPCはそうとはならない。

 村の内部には住処を失った浮浪者が溢れ、ござを敷いて物乞いをしていたヘルの実入りが減る等で一部問題が発生している。

 紛争での傷も癒えた南が何時ものように、短剣投げの修練を積んでいた時の事だった。

 訓練所に慌てた様子のヘルが現れると周囲を見渡し南の姿を捜す。

 訓練所の隅で技を磨いていた南を見つけ出すと、悪巧みを企んでいるにやけ面を浮かべながら南へと接近する。


「おい南! 一大事だぞ!」

「ヒューレーの話題かな?」

「何だ、知っててこんな所でボサッとしてたのか?」

「避難民の話を聞く所によると、街がグールで溢れかえってるそうだよ」


 ヘルに言われるまでもなく情報収集を終えていた南は、ヒューレーに湧き出たグールの能力を冷静に分析する。

 生命力はゴブリンの二倍程度、攻撃力はそれほどではないが麻痺毒を持つ厄介な相手だ。

 幸い動きは遅いので遠距離攻撃を中心に攻め立てる必要がある。

 問題はアンデッドには《眠りの雲》が効果が薄い為に、かなりの苦戦を強いられるだろうという事だ。


「オレ様は行くぜ、空き家を頂いて都会で新生活を始めるんだ!」

「ふぅん、頑張ってね」


 都会で物乞いでもするのかな、と南は思ったが敢えて口には出さないで適当な相槌を返した。


「釣れねぇなぁ……鎌倉達も誘って一緒に行こうぜ」

「鎌倉くんがこの村を離れると、強力なモンスターが現れた時に対抗手段を失うよ?」

「冷たいヤツ、ヒューレーの住人を助けてやろうとは思わねぇの?」


 南の投げた短剣が的の中央を捉えると、訓練所に見知った顔の男が現れた。

 前以てここに向かう事を酒場の店主に伝えていたのが、功を奏したらしい。

 現れた男ダークは南の顔を見るなり頭を掻きながら南の元へと近付いた。


「久しぶりだな。南、ちっと背ぇ伸びたか?」

「成長期ですからね」

「へっへへ、元気そうで何よりだ。ちょっと話があるんだがぁ?」


 南との間に軽い冗談を交わすとダークは見慣れない面子であるヘルが居る事に対し警戒感を持っている。

 南が両手を挙げ、それに呼応するようにヘルがにやにやと笑うとダークは気にする事無く、ジェイルからの伝言を南達に伝えた。

 内容は謎のボスエネミー発生の知らせと、人員が不足しているのでヘンの街で救援物資を用立てた後に援軍として来て欲しいとの依頼だ。

 馬車はジェイル達が購入したようで、〈騎乗〉スキルを持つ団員が訓練所の外で待機している。


「これが報酬な」

「!? スゲェ金貨の量だ! オッちゃんこれ幾らあるんだ?」

「オッサンて君……そうだな、ここにあるので百金貨ぐらいかね」


 金貨が山のように入った袋を見てヘルが目の色を変えて、ダークへと売り込みを始める。

 とは言え生産専門チームという事もある上に、まだレベルは二に上がったばかりの新造チームである。

 コボルドやゴブリン以外の相手には部が悪い所もあるだろうとダークが指摘すると、後衛に配置して貰えるようしつこく食い下がる。


「弓や銃が使えるメンバーも居るんだぜ」

「遠距離攻撃は数が揃わないとなぁ」

「巻物の複製にも成功したんだ“不可視の盾”」

「……何枚ぐらい?」


 ヘルが自信満々に三本の指を立てるが、余りにも胡散臭い表情だったのでダークは現物を見る為に彼女の拠点へと向かうことになった。

 南も馬車に同乗すると、一行はヘンの村の郊外にある掘っ立て小屋へと馬車を進める。

 小屋の外ではミルキーが鉈を使い薪を割っているのが見え。

 何処かから摘んできたのか、勝手に花畑が増築されていた。

 ダークと南は御者台から飛び降りると、先に荷台から飛び降りたヘルが小屋の扉の前で足を止める。


「ここな、ここ」

「君は入らないの?」

「い、いいんだよ、オレは別に入らなくても……」

「綺羅星、ヘルが帰ってきたよ」

「あッ! ノッコ、てめッ!」


 昼寝でもしていたのか屋根の上からノッコがひょっこりと顔を覗かせると、小屋の中からばたばたと慌しい足音が聞こえてくる。

 やがて掘っ立て小屋にはそぐわない清楚な服装をした金髪の少女が小屋の外へと躍り出ると、ヘルは〈隠密〉技能を駆使してこっそりと扉の後ろに息を潜める。


「あれ、ヘルるんいないよぉ?」

「扉の後ろ」

「!?」


 少女が扉の後ろに隠れていたヘルを目敏く発見すると、腕をわきわきさせながら距離を詰める。

 一瞬にして少女はヘルとの間合いを詰めるとその場で押し倒し、鼻をふんふん鳴らしながら彼女の胸に顔を埋めながら身悶えしている。

 ヘルは慌てて振りほどこうとするがどれだけ抵抗しても外れず。

 南に向かって救援を求めるが、何時もの様子でしかとされる。


「ヘルるんラブラブチャージだよ☆」

「やめれ! いやもう、人が見てるから本当に止めて!」

「ノッコさんで良かったかな? 巻物を見せて欲しいんだけど……」

「いいよ、着いてきて」

「南、お前ってやっぱ只者じゃねぇよな」


 圧倒的スルー力を見せつけられたダークは南を見直すと、一行は小屋の中へと足を踏み入れる。

 狭い小屋の内部には四人の女性が暮らすには狭過ぎるのか、お互いのスペースを均等に分けて好きなように使っているようだ。

 ノッコの区画は綺麗に整頓され小洒落た調度品や鉢植えの花などが飾られ、落ち着いた雰囲気となっている。

 ミルキーの区画は雑多なガラクタに混じって服はおろかパンツなども無造作に脱ぎ捨てられて壮絶な汚部屋と化していた。

 ヘルの区画は殺風景な場所に本棚が置かれ「ギリギリ合法! 絶対儲かる! 七十七の秘訣」といった怪しげなタイトルの本が並び「迷惑な隣人との付き合い方」等といった本も一冊混じっていた。

 南は内心「この本は効果ないな」と思ったが、ここでも口には出さなかった。


「この部屋にあるよ」

「……勝手に入っていいんですか?」


 表札には「きららとヘるるんの愛の巣」と丸文字で書かれており、不穏な空気を醸し出している。

 ノッコは南と同等のスルー力で勝手に部屋の扉を開けると、一行は綺羅星の部屋の内部へと足を踏み入れた。

 立ち込める異臭に怪しげな薬品の数々。

 謎の干物や壁に走る返り血が黒ずんで染み付いていた。

 これにはさしもの南も冷や汗を流しながら生唾を飲み込むと、周囲を警戒する。

 ダークは眼前の光景に恐怖したのか、部屋の中へ踏み込む勇気が持てず入り口で突っ立っている。


「……何か御用ですか」

「うひゃぁ!!」


 ダークの背後に音もなく幽鬼のような表情を浮かべた綺羅星が音もなく現れると、ダークは驚愕の声を上げながらその場から飛び退いた。

 ノッコが三巻の巻物を手に取るのを見ると、途端に少女らしい表情に戻り、ぷくっと頬を膨らませて怒り出した。


「ダメだよノッコ。それはヘルるんの為に作ったの」

「売るんでしょ、これ?」


 ノッコの言葉に綺羅星と腕を繋いだヘルがこくこくと頷くと、ダークは受け取った巻物が失敗作でないかを確認する。

 問題がないのを確認し終わると、三巻と引き換えに八十金貨を手渡した。

 大金を得たヘルと畑から丁度戻って来たミルキーが分配率で揉めている隙に、南は治療薬の生産も可能かどうかを綺羅星に尋ねた。


「治療薬や解毒薬も製作できますか?」

「簡単な治療薬のレシピはあるけど、解毒薬は無いかなぁ」


 こういったMMOの世界では地味な生産職は不遇である。

 何しろ工程は練金釜である程度簡易化される物の、効果の高い薬品を〈製作〉するには調合その物を現実と変わらない手順で作る必要がある。

 そうした事もあって生産職に従事するものは少なく、治療薬を作れる技能は貴重な物であった。

 ダークは綺羅星を何とか引き込めないかと思案していたが、妙案が思い浮かびヘルに向かって提案を始める。


「ヘルちゃん、さっきの提案飲んでも良いぜ」

「本当か!」

「何のお話ニャの?」

「ヒューレーの街が壊滅したのは知ってるよな? それに参加したいって彼女が申し出たのさ」

「えぇ、そんなのダメだよヘルるん。離れ離れになっちゃう……」


 綺羅星の眼光が鋭く光ると、物言わぬ圧力に気圧されたヘルは蛇に睨まれた蛙の如く恐慌状態に陥る。


「綺羅星ちゃんも一緒に来てくれるとオジサン心強いなぁ」

「げッ! それじゃ意味ないじゃん!」

「えへ、キララとハネムーンだね。ヘルるん☆」


 綺羅星がヘルに向かってウインクすると、ヘルはこの世の終わりが来たような表情で歯軋りをするのであった。


―――――

―――――


LV:4

CLASS:ローグ

S・CLASS:レンジャー


STR:8 INT:11 WIS:9

VIT:9 DEX:17 LUK:11

HP:30 MAXHP:30

MP:6  MAXMP:6

AC:8  EV:8


・SKILL

〈隠密〉〈罠解除〉〈早業〉

・ABILITY

《念動球》《単騎駆け》《矢止め》

《擬呪》

・EQUIP

E・長剣 E・革鎧 短剣

・ITEM

盗賊道具 繩 錠前 油


―――――


LV:4

CLASS:ファイター

S・CLASS:パラディン


STR:14 INT:12 WIS:10

VIT:10  DEX:8  LUK:8

HP:33 MAXHP:33

MP:5  MAXMP:5

AC:6  EV:8


・SKILL

〈威圧〉〈生存〉〈騎乗〉

・ABILITY

《強打》《盾攻撃強化》《武器熟練》

《悪運》

・EQUIP

E・戦斧 E・鋲打ち革鎧 E・盾

・ITEM

携帯用寝具 携帯用調理具


―――――


美紗

LV:4

CLASS:クレリック

S・CLASS:モンク


STR:11 INT:16 WIS:10

VIT:14 DEX:16 LUK:9

HP:24  MAXHP:24

HP:18 MAXMP:18

AC:7  EV:9


・SKILL

〈交渉〉〈製作〉〈治療〉

・ABILITY

《武器破壊》《拳骨》

・EQUIP

E・槌矛 E・革鎧 E・小盾

・ITEM

保存食 水筒 治療薬 巻物


―――――


愛音

LV:4

CLASS:ウィザード

S・CLASS:ソーサラー


STR:8 INT:16 WIS:8

VIT:14 DEX:13 LUK:7

HP:23 MAXHP:23

MP:21 MAXMP:21

AC:10 EV:9


〈鑑定〉〈呪文学〉〈魔法装置使用〉

・ABILITY

《呪文熟練》《呪文相殺》《集中》

・EQUIP

E・杖 E・法衣

・ITEM

方位磁石 地域地図 治療薬


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