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クソゲークエスト

―――――


 簾戸ゲームセンターへと足を踏み入れると、くすんだ床色のタイルが南達を出迎えた。

 閑散振りに苦笑いしている愛音達をよそに勝手知ったると言った具合の南は、真っ直ぐにレトロゲームコーナーへと向かった。

 やがて見えてくる一角には五十円玉を山ほど積んだテーブル筐体に向かい合い、一人の老人がインベーダーゲームに興じている。

 老人は南の足音に気付き目を上げると、自機のやられる電子音が施設内に響いた。


「おぉ、よう来たな坊」

「MMOをやりたいんですが、オメガ筐体空いてます?」

「そんなん見ての通りやわ」


 越前の返答を聞くなり、柴が腕を頭の後ろに組みながら伸びをすると、癖っ毛の前髪が揺れる。

 彼は老人が電子ゲームに興じているのを見ると、呆れた様子で感想を述べた。


「越前の爺さんも相変わらずだなぁ、時間の無駄じゃね?」

「浪費する時間なくして何がゲームか」


 越前はその場から立ち上がると、両面にドアの建ち並ぶ空間へと歩みを進めた。

 電源を入れると駆動音が鳴り響き、フィルムスクリーンに広告映像が流し出される。

 南達は老人の後を着いて歩くと、施設の中央にある巨大なゲームコンソールの鎮座する部屋へと辿り着いた。


「滞在期間はなんぼくらいにすんねや?」

「越前さん、クソゲークエストのクリアタイムは平均何年程度ですか?」


 滞在リミットを聞いてくる越前に対して、愛音が平均的なクリアまでの時間を聞き返す。


 “ニューロアクセラレーター・オメガポイント”コンピューター技術の粋を集めて開発された、人類最後のゲームコンソールである。

 人間の意識を一旦ゲームメモリ内に保存し、体感速度をニューロアクセラレーターによって加速する。

 取り込まれた意識は“相対的時間の遅れ”を利用して、数秒の時を何年もの時間に引き伸ばす事が可能となる。

 よって通常十六年ほどかかる公教育すらも、たったの十六秒で修業となるのだ。

 これによって人類は技術的特異点に達し、恒星間航行も可能とする事に成功した。


「データを見る限りでは平均三十年位やね」

「そ、そんなに!?」


 美紗が思わず悲鳴を上げる。

 理沙個人はゲームには余り興味はなく愛音の付き合いで参加している部分が大きい。

 それでも三十年という時間になると流石に躊躇する所があるのだった。


「実時間はたったの三十秒だよ?」

「でも三十年って、絶対途中で飽きちゃう」

「エンジョイ勢とガチ勢だと、クリア時間も変わるし。ガチでやれば直ぐに終わるってぇ」


 美紗は腰まで伸びた長髪を左右に揺らしながら、額に手を当て考え込むと愛音に頷いて返答した。


 南達はシリンダー内に入ると、ゆっくりと目を閉じる。

 続いて視界に閃光が走ると、肉体が何処かへと飛び上がっていくような浮遊感を感じた。

 眼前に表示される警告文を流し読みで確認すると、そこからの意識は途絶しシナプス加速が始まる。


『オメガ・ポイント・アテインメント』


 閉じた瞼に入り込む光が加速する意識の中で煌々と輝くと、南の意識はゲーム内へと取り込まれていった。





 鳥の鳴き声で南は意識を覚醒させる。

 周辺を見渡すと一面の草原が広がり、風がそよぐたびに身をしならせている。

 南は革の靴で一歩を踏み出すと、眼前に安っぽいゴシック体のフォントが表示された。


『クソケ゛ークエストの せかいへようこそ!』


―――――

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