ゴブリン掃討3
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声を張り上げながら先程の隻眼のゴブリンが南達の下へと近付いてくるのが見える。
南達は柴との合流を中断すると、近寄ってくるモンスター達を迎え撃つ体勢を整えた。
その時、南達に同行していたミルキーが口を開き南に質問する。
「ゴブリン・犬・見張り台、どちらを優先しミャす?」
「見張り台かな?」
「犬は《眠りの雲》で何とかなるよ」
ここでミルキーが地面へと指を振るとユニークスキル《落とし穴》が発動。
突然地面に現れた落とし穴によって、傾いた見張り台はそのまま横転する。
射手は高所から空中に投げ出され、そのまま落下による衝撃によって死亡した。
「結構な耐久力のある。見張り台が一撃?」
「ユニークスキル良いなぁ……」
「一日一回しか使えニャいけどね」
三体のゴブリン射手が美紗に向かって集中攻撃を浴びせる。
一本は小盾で防ぎもう一本は頬を掠ると最後の一本は革鎧を貫通し腹部へと突き刺さった。
僅かに走る痛みに美紗は唸り声を上げている。
美紗は咄嗟に見張り台に走りこむと、槌矛で見張り台を殴りつけた。
入れ替わりに鎌倉くんが見張り台の真下に立つと印を組んで《火遁の術》を発動する。
「忍法《火遁の術》!」
たちまち火が燃え移り激しく延焼しながら、周囲に煙が巻き起こる。
ゴブリン射手達は次の矢を弦につがえるが激しい煙によって、南達の姿を捉える事が出来ない。
そして三体の野犬達がようやく南達の下へ辿り着くと、愛音はすかさず魔術を詠唱する。
《眠りの雲》
野犬三頭の内一頭は走る最中に昏倒し、大きく体勢を崩して意識を失う。
残りニ体の前にサブが立ち塞がると、犬の牙がサブの体へと迫る。
しかしサブの振り下ろした曲刀に一刀の元に頭部を両断され、悲鳴を上げる間もなく野犬は地面へと転がり回った。
もう一方の野犬はサブの足へと噛み付くが《疾走》して走り込んで来た南に、腹部へと蹴りを入れられ横転した。
「助かったぞ、南」
「残り十体……」
「また逃げ出すんじゃない?」
「ここは彼等の拠点だから、それはないね」
美紗がぴょこんと前衛へと加わると、血止めの薬草を体に塗りつけていた南が返答する。
魔力を使い果たした愛音は、野犬に対して投石を行い、距離を取っている。
一方柴達は包囲してくる五体のゴブリン達に対し反撃を開始した。
「柴……しばらく時間を稼いでくれ」
「了解!」
柴が戦斧を振るうとゴブリンの小盾に掠り、受けた体ごと後方へ仰け反らせる。
刺す様な気配に柴が背後を振り返るとサントスの体から気が立ち昇るのが見える。
やがて体から風が渦巻くと、サントスの肉体を包み込んだ。
慌てて柴がサントスの目の前から飛び退くと、突き出した拳から《風拳》が炸裂。
“幸運”にも固まっていたゴブリンの一団に、サントスの風を纏った拳が命中すると、激しい圧力によって弾き飛ばされたゴブリン達は激しい衝撃波を浴びて絶命した。
「HEY! やったぜ!」
「え? ぜ、全部倒しちまった!?」
「新しく覚えた新技だが、上手くいったようだぜ」
サントスのユニークスキルに幸運が重なり、一挙に形勢は逆転。柴は当初の指示通り見張り台の破壊を再開した。
ほとんどの仲間を失った隻眼のゴブリンは歯軋りをしながら、美紗へと向かって突進する。
美紗は小盾を構えて迎え撃つとゴブリンの手斧が腕に裂傷を負わせた。
「あ痛! 柴の嘘吐き……結構痛いじゃない!」
「サブさん!」
「応! この攻撃で決める」
南の長剣が隻眼のゴブリンの脚を突き刺すと、機動力の削がれた敵に向かって、サブの大上段からの袈裟斬りが振り下ろされる。
肩口を切りつけられながら、ゴブリンは仰け反る事で回避すると同時に“報復の一撃”を南に向かって放つ。
“報復の一撃”は戦闘中に倒れた敵の数が、隻眼のゴブリンのダメージ修正値に加算されるユニークスキルである。
轟音を放って南の首筋へと襲い掛かる手斧であったが、回避に専念していた南に紙一重という所で避けられてしまった。
「い、今のは危なかった……」
「南くんは矢傷を負ってるんだから、無理はしないで」
九死に一生を得た南は中衛へと下がると、見張り台から二本の弓矢が放たれる。
しかし炎から巻き起こる煙によって視界が塞がれ矢はあらぬ方向へと飛んでいった。
更には延焼を続けていた見張り台が遂には崩れ落ちると、ゴブリンの頭上に落下。
そのまま火に飲まれて隻眼の小鬼は煙の中に消えていった。
残った二体のゴブリンが慌てて見張り台から下に向かって顔を覗かせる、牢を開けに行ったもう一体のゴブリンは既に逃げ去った後のようだった。
見張り台に攻撃を加えられるとたちまちゴブリン射手は見張り台から落下、ゴブリンの集落はほぼ全滅に到った。
南達はようやく一息を吐くと、消耗の少なかった愛音とミルキーが燃え上がった見張り台の火を、各所に燃え移し集落を焼き払っている。
「南くん、宝箱があるよ!」
「罠がありそうだから、無視でいいんじゃないかな?」
「だって宝箱だよ!?」
南は諦めきれない愛音に背中を押されて隻眼のゴブリンの居住していたと思われる高床式の住居へと向かった。
梯子を上った先の小屋の内部には確かに両腕に抱えられる程の宝箱が三つ鎮座していた。
南は宝箱を両腕で抱えると、出入り口へ向かいおもむろに宝箱を空中へと放り投げる。
「ちょっ!?」
「まぁまぁ、大丈夫だから」
墜落した宝箱から毒霧のような物が巻き起こると、やがて風によって霧散していった。
三個の宝箱に仕掛けられていた罠を誤作動させると、鎌倉が歩き寄り宝箱の開錠を始める。
やがて宝箱の蓋が開くと三百枚近い金貨と指輪が一つ残りの一つからは雑貨の様な小物が大量に発見された。
愛音が指輪を手に取り〈鑑定〉を開始すると指輪に対してポップアップが表示される。
「紋章の指輪だって……」
「印鑑代わりに使用するマジックアイテムだよ」
「なぁんだ。つまんないの」
南が雑多な品物を確認すると内容物はどうやら殺害された人間から強奪された物のようだった。
それに加え一本の鍵が発見されると、表からミルキーの呼び声が、南達の元へと届いた。
「生存者が見つかったニャ!」
「ゴブリンの生き残りですか!?」
「ンニャ! 人間だニャ!」
南と愛音はお互いの顔を見合わせると、急いで梯子に向かい掛け下り始めた。
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