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ゴブリン掃討2

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 ▼



 小高い丘の上に匍匐状態で接近した鎌倉が双眼鏡を用いて、森の奥地に存在したゴブリンの集落を見下ろしている。その数、実に二十一匹。

 襲撃に出てこの場に居ない者の数を合わせてもかなりの数となるだろう、道案内をしてきたミルキーも、この数には驚いた様子で脂汗を流しながら生唾を飲み込む。

 ミルキーはキャットフォークとヒューマンのハーフというキャラ作成をしている為、人間の面影を残している猫獣人である。

 通常獣人族の表情は変化に乏しく分かりづらいが、彼女は人間はほぼ人間に近いアバターなので鎌倉にも彼女の動揺が伝わってきた。

 ミルキーはおもむろに背後を振り向くと、地面を這っている南に声を掛けた。

 

「本当に大丈夫なのかニャ?」

「ゴブリンのHPはおおよそ五点ですから、数は問題になりません」

「南殿の言う通り。問題は飛び道具の数だ」


 背後をぴょこぴょこと這ってきた少年。

 南がミルキーの不安を払拭すると、鎌倉もそれに同調し問題点を挙げた。

確認するだけでも短弓を持つゴブリンが、五体以上確認できた。

 中衛・後衛といった隊列に関係なく直接狙える遠距離攻撃は、集中攻撃を受ければほぼ即死してしまう程に強力だ。

 その上クソゲークエストの世界では、どれだけダメージを軽減、或いは無効化しても最低一ダメージは確定する仕様。

 つまり伝説の鎧を着込んだ生命力百点の大ベテランでさえ、百体のゴブリンに囲まれて袋叩きに遭えば死んでしまうという事になる。


「集落から遠い者を一体ずつ仕留めて数を減らそう」

「確殺を狙うのなら、二人は必要ですね」

「愛音君は《眠りの雲》を何度使える?」

「まだ一回です」

「そうか、それは厳しいな」


 匍匐状態で後方に戻ると、ツーマンセルによる編成を再度行う。

 鎌倉と南、サブと柴、になる所だったが柴が慌てて拒絶したのでサントスと柴となった。

 残ったサブは女性陣と組まされて不満顔のようだ。

 南は丘の上から降りるとゴブリンの集落へと向かった。

 木陰から木陰へと身を隠しながら、一匹目のゴブリンの元へと辿り着くと、鎌倉は石を投げて敢えて音を鳴らした。

 ゴブリンは頭を傾げながら不機嫌そうに何事かをゴブリン語で呟くと、石の落ちた場所へと歩き出した。

 鎌倉が背後から接近すると、気配に気付いたのかゴブリンが慌てて振り返る。

 鎌倉の短刀がゴブリンの脇腹に突き刺さると、合わせて飛び込んだ南の長剣が首を薙ぎ払い、喉笛を切り裂いた。


「まずは一匹」

「愛音達の方も上手くいったみたいです」


 続いて向かった先には、二体のゴブリンが何事かを話していた。

 気が逸れているのならば背後を突くのは容易いと考えた両者はゆっくりとゴブリンの元へと接近すると、鎌倉はゴブリンの喉笛を一撃で掻き切る。

 南は慌てて振り向いたもう一体のゴブリンの剣によって“不運”にも脚を深く切り裂かれるが、長剣をお返しとばかりに顔面に叩き込み絶命させた。

 すると、柴の向かった方角からゴブリンの騒ぎ声が上がり、集落の方角からざわめきと怒号が巻き起こる。


「どうやらバレてしまった様だ」

「合流して攻め寄りましょう」


 南が《疾走》すると、やがて開けた場所へと出た。

 木々で組まれた見張り台や今にも崩れ落ちそうな木の葉屋根の家屋。

 集落の奥には檻のようなものも見える。

 どうやら南が一番乗りであったらしく、見張り台の上から引き絞った矢が南の元へと飛んだ。

 南は長剣を振るい《矢止め》を行うと、ゴブリンの射手達の間に動揺が走る。

 短弓による四本の矢が南に降り注ぐが、脚を負傷した南は回避に失敗、二本の矢が革鎧越しに肩口と腹部に突き刺さる。

 ここに来て仲間達が現れ南は柴に指示を飛ばした。


「柴ッ! 戦斧で見張り台を破壊して!」

「わかった! でも南大丈夫か……矢が刺さってんぞ」

「私が治療する」


 柴とサントスは見張り台の破壊へ向かい、愛音達は南へと合流する。

 ゴブリンの射手達は慌てた様子で次の矢を番え弓を引き絞り始める。

 すかさず愛音は呪文を口にすると、射手の行動を妨害した。


《凍てつく光》


 一体のゴブリンの射手の指が凍りつき行動に遅延が発生する。

 残り十四体となったゴブリン達は、見張り台に向かう柴達を迎撃へと向かう。

高床式の家屋に作られた扉から隻眼のゴブリンが飛び出す。

 南達を見るなり興奮状態に陥ったのか、虹彩が赤く染まると《鬨の声》を上げた。

 たちまちゴブリン達の動きが素早くなり、一瞬にして柴達との距離を詰める。


「あのゴブリンは!?」

「ユニークエネミーになったみたいだね。きっと今のはスキルだよ」


 顔の傷に見覚えのあった美紗は声を上げると、南は先程の行動がスキルである事を看破した。

 隻眼のゴブリンは二体のゴブリンにゴブリン語で何事かを喚き散らすと、ニ匹のゴブリンは牢へ向かって走り出す。


「妨害した方が良いかな?」

「おそらく小動物か何かだろう……ここは無視して見張り台を倒すのが上策」

「これ以上、傷を受けるのは不味いわよ? 無理しないで南君」


《癒しの光》


 牢に向かうゴブリン達に警戒する南を治癒する美紗が諌めると、牢へ向かったゴブリン達は放置。柴達へと合流する為に走り出した。

 一方、柴とサントスは七体のゴブリン達に囲まれていた。

 柴は見張り台を破壊するのを取り止め、手近に居たゴブリンへと戦斧を叩きつける。

 ゴブリンの肉体に攻撃が直撃すると、小さな体躯は跳ね飛ばされ動かなくなった。

 サントスは《喝》を入れるとゴブリンの顔面に前蹴りを放つ、直撃したゴブリンは頭蓋骨を砕かれ即死。

 続いて、切りかかってくるゴブリンの攻撃を華麗な足捌きによって回避すると脇腹に突きを入れる。


「これで五体……余裕じゃね?」

「俺達も強くなってるからな」


 柴は三体のゴブリン達の一斉攻撃を攻撃を盾で受け止める。

 その内一体の攻撃が柴の腰を叩きつけ浅い傷を負った。

 柴が盾を下げた瞬間に顔面へと向かって飛び上がりながら、一体のゴブリンが柴に突きかかるが“幸運”にも最後の一体の放った攻撃が味方に命中。

 ゴブリンは顔面から墜落し喚き散らした。


「ギャワワワッ!」

「ギャ――ッ!?」

「何だこいつら、仲間割れかァ?」


 続いてサントスに二体のゴブリンが手斧で切りかかる。

 サントスは一体のゴブリンの攻撃を避けそこない転倒すると、もう一体の手斧が腕に深々と切り裂いた。


「クソッ! ミスった!」

「大丈夫かサントス!?」


 遂に牢が開くと戦闘フィールドに三体の野犬が増援として姿を現す。

 野犬の一匹は近場に居たゴブリンの一体に襲い掛かると、残りニ体は南達の方角へと吠え声を上げながら、砂煙を舞い上げ走り込んできた。


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