表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/70

ヘンの迷宮7

―――――


 闇の中をエルロンドの体が落下していく。

 脇に抱えた少女達が悲鳴を上げると、不思議な事にエルロンドの体は《舞い落ちる羽根》のように落下の速度を弱め、やがて五階の落下地点へと辿り着いた。

 降りた先には落ちた四人の男達が何事かを話し合っている。

 愛音はその様子を見てほっと一息を吐くと、エルロンドの脇から下ろされた途端南へと駆け寄った。


「南くん無事!?」

「あれ、愛音まで来たの?」

「エルロンドのユニークスキルか……私もそれで降りればよかったな」


 南の体に愛音が激突し弾き飛ばされると、着地時に足を挫いたジェイルが顎をさすっている。

 ジェイルは若干の後悔を覚えると南達に向き直り、再び相談を再開した。

 四階のフロアボスを撃破した事で五階の扉は直に開き、救出がやってくる。しかし、それまでにこちらが持つかはまだ分からなかった。

 何せ五階はまだ掃討が全く進んでいない区域である。

 かと言ってこのままその場に留まるのも十二分に危険と言えた。


「何処かの部屋に鍵を掛けて篭城するのが最善手です」

「召喚する魔力も尽きかけているのだろう? 然程危険はないんじゃないか?」

「いえ、それは……」


 バットやラットといった所謂雑魚モンスターを大量に召喚する行為は確かに追い詰められた際に始める時間稼ぎではある、しかしもう一方の推論も成り立つ。


「強力なモンスターを召喚するための布石……」


 言葉を繋ごうとした南の口が止まる。

 振り返ると背後から奥から蝙蝠の羽根の生えた黒い皮膚を持つ魔物、一体のガーゴイルが姿を現した。

 ふらふらと足が覚束ない様子で足をよろめかせると、次の瞬間四肢が弾け飛び。周囲に肉片が撒き散らされる。

 愛音と美紗が眼前の光景に思わず目を逸らす。

 その先には手足を切断され、胴体と頭部だけとなった人間が宙に浮いている。

 糸で眼孔を縫われた女性のようにも見えた。

 全身にはこびりついた血に塗れ、口からはか細い呻きを上げている。

 プレイヤーにポップアップされる情報には「82726B32」とだけ表示されていた。


「何だこいつ? 文字化けしてるぞ?」

「アップデートされたのかな……こんなモンスター攻略情報にもないよ」

「とりあえず魔法で牽制してみよう」


《魔法の矢》


 ワーロックから放たれた光弾が敵に触れようとした瞬間、見えない壁に遮られる。

 ワーロックは思わぬ事態に後退すると、女の口からは眼球が飛び出し、ワーロックを視界に捉えた。

 途端に叫び声を上げながらもがき苦しむワーロックに南が叫ぶ。


「ワーロックさん、奴の視界の外へ逃げて!」

「ギャァァァ――ッ!」


 ワーロックの腹部が弾けるように飛び散ると、臓腑を撒き散らしながら息絶える、そしてゴースト化したワーロックの足元が開くと、地面に開いた虚空へとその魂が吸い込まれていった。

 南は短刀を敵へと投げつけると、女の腹部へと突き刺さり血を流す。

 しかしワーロックはそのまま穴へと吸い込まれ、何処かへと消え去っていった。

 その様子を見ていた柴が狼狽した様子で声を荒げる。


「消えた? 消された? 死んでないよな南!?」

「ゲームは死亡事故が起きた時点で強制終了する。まだワーロックさんは無事だ」

「奴の攻撃の正体が分からん……」

「口から出る目に注意して!」


 愛音が敵の目に注意を促すよう叫ぶと、南達は敵の周囲を包囲するように取り囲み攻撃を開始した。

 ジェイルが切りかかると虚空の壁に曲刀が弾かれ、再び女の口から眼球が現れるとジェイルを睨みつける。

 しかし何らかの変化が起こることはなく、ジェイルは走って女の視界外へと逃れた。

 それを見た南は敵の能力を分析。

 取り囲む味方に向かって指示を出した。


「皆、無傷の人は武器で自分の体を傷付けるんだ!」

「どういうこと南くん?」


 南の思わぬ指示に愛音が何事かを聞き返す。


「おそらく、あの眼は生命力を減らしてるのではなく増やしている……」

「回復ではないの?」


 対象のHPを最大HPを無視して増やす能力。

 これが無傷のキャラクターが対象になった場合、現在値が最大値を超えてしまいシステムからは“チート”と看做されるのである。

 結果として強制的に死亡させられ、ゲーム上からは除外される。

 これがモンスターの能力であると南は推理し、その予想は見事的中していた。


 背後を取ったエルロンドの攻撃が続くがここで“不運”にもエルロンドは敵の障壁に触れてしまい、弾き飛ばされた先の壁に激突する。

 柴が手斧を振りかぶり女へと殴りかかるが、これも障壁に弾かれる。

 続いて南の短刀が女の脇腹に突き刺さると、バランスを崩した所を美紗の棍棒が掠る。

 南達は距離を取り各々自分達の体を傷付けると、血を流しながら女へと向かい合った。


「倒せるの?」

「ダメージがあるならいける」


 すると足元からワーロックを飲み込んだ穴が現れ、そこから白い煙が噴き出される。

 ジェイルは辛うじて身を捩り回避すると周囲を見渡す。全員同じ攻撃を足元から受け、攻撃を避けそこない意識を朦朧とさせてながら武器を仲間へと向ける美紗と愛音の姿が見えた。

 攻撃パターンの変化とその攻撃方法を見て再び南が叫ぶ。


「今度は全体魅了みたいだ……」

「マジかよッ!」


 全体魅了とはプレイヤーキャラクターを魅了させて、同士討ちを誘う状態異常である。

 その範囲が全体となれば一撃で全滅もありうる、何故なら高レベルプレイヤーであればあるほど同士討ちの危険性は高まるからだ。

 更には先程の強制排除能力があれば、能力の目撃者自体を排除し対策すら執る事が不可能になる。

 ――初見殺し能力の数々に皆が恐怖する中、南は一人口角を吊り上げ笑みを浮かべていた。


 このクソゲーに勝ちたい――その狂気ともいえる執念が彼の体を突き動かしていた。


―――――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ