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ヘンの迷宮5

―――――





 翌朝、南達は休息を終えて再びダンジョンへと向かう一団に参加。

 無事辿り着くと入り口前でジェイル達がパーティ編成しているのが目に入った。

 南達は列の後方に兜を被ったダークの姿を見つけると横に並び話しかける。


「ダークさん、おはようございます」

「あぁお早う、ってどうしたんだ南? そのカッコ?」

「ちょっとした手違いがありまして……」


 ダークが子供達の姿に目を丸くして驚くと表示されるポップアップから南達だと把握、当の南はじと目で柴の姿を目で追った。

 柴が目を逸らしながら口笛を鳴らしごまかすと、重圧に耐え切れなくなった様子で両手を合わせて謝罪した。


「いや、もうホントに悪かったって!」

「大変だなぁ、お前らも」

「何かあったんですか?」

「四階の敵が想像以上に多くてね、作戦を練り直し中」


 ジェイルの話によると迷宮の四階にはジャイアントラットが大量にひしめいている。

 召喚コストが安価で大量に召喚可能なのでAI側が足止めの時間稼ぎとしてよく用いる戦法である。

 逆に言えば最下層は四階の下の五階であり、追い詰められている事も同時に示していた。

 攻略メンバーが定員に達すると、集団は三階まで降り立つ。

 四階への階段前で装備を一旦確認すると、待機していたクレリック達から、魔法による洗礼を受けた。


《淡光の祝福》


 《淡光の祝福》は敵の攻撃や状態異状による抵抗を受ける事の出来る魔法である。

 ジャイアントラットはサラマンドラほどではないが、病気を媒介するモンスターであり、正面から打ち合えば集団で襲われ非常に厄介な敵になる。

 祝福を受けた南達はジェイルの編成へと加わると、奥地へと歩き出した。顔触れはボルダンと妹のシャルダン、両名はバーバリアンとして中衛に位置する。

 後衛には南達とは初対面のワーロックとゴブリン戦で組んだゾラス。

 そして前衛にはジェイルに加え、エルロンドと呼ばれるパラディンが立った。

 南達はウィザードの愛音以外は全員が中衛に立ち、左右にはボルダン兄妹の護衛がついた。

 端正な目鼻立ちをしたシャルダンは似合わない鎖帷子を着込み、子供達に対して興味津々な様子を見せる。


「貴方が南? 兄から聞いた話とは随分と印象が違うようだけど?」

「アバター強制変容の呪いにかかってしまって……」

「へぇ? それはそうと抱っこしても良い?」


 シャルダンが両手の指をわきわきと動かしながら南に詰め寄ると、愛音が咄嗟に間に割り込み南を庇うがそのまま自分がシャルダンに捕縛され頬擦りされた。

やがて一行の目前に扉が現れると、南が前に歩みを進め聞き耳を立てる。

 鍵は掛かっていないが扉が分厚い所為か、中の様子を窺い知る事は出来なかった。

 ジェイルが再び前に立ち眼前の扉を蹴破る。

 部屋の中は闇に閉ざされ深い暗闇から無数の眼がこちらを見つめていた。


「ジャイアントラット九体、うじゃうじゃ居るぞ!」

「きゃあ、大きい鼠!」


 美紗が慌てて中衛から離れ後衛へと後退すると、大鼠達は素早い動きで襲い掛かってきた。

 ジェイルは《無謀》にも立ちはだかるが脇を抜けられ、ラットを二体しか止めることが出来なかった。

 ラットは次々にジェイルの体に群がり牙を突き立てる。

 しかし彼の鎖帷子に穴を空ける事は出来ず、金属音を掻き鳴らすだけに終わった。

 更にはエルロンドへと三体のラットが殺到すると、装甲の隙間に次々を噛り付かれ鮮血が床に落ちる。

 深手を居ったエルロンドは足をもつれさせながら、ラットから距離を取る。


「エルロンド!」

「私は問題ありません、まだいけます」


 前衛から抜けてきたラットの四体がボルダン兄妹の元へと迫る。

 ボルダンの剣がラットの牙を迎え撃とうとしたその時“不運”が起きた。

 ボルダンが迎え撃とうと振るった剣がラットに命中したその瞬間、剣が根元から折れ吹き飛んでしまった。

 咄嗟に剣から手を離しラットを殴りつけるが軽症を負うボルダン。

 シャルダンも鼠が苦手な為か腰が引け、牙を革鎧の上から突き刺す。

 すると健常だった両名に異変が起き状態異常「びょうき」がポップアップされた。


「バステだ! 柴、ボルダンさんに斧を!」

「一匹こちらに抜けてくる」

「ボクが止める」


 南がラットの目前へと立ちはだかると、すれ違い様に剣を振るいラットの脇腹を浅く切り裂いた。

 やがて魔術の詠唱が終わると、ラット達の体が淡い煙に包まれる。


《眠りの雲》

《眠りの雲》


 九体のラットの内、六体が昏倒すると形勢は逆転。

 ジェイル達の反撃が始まった。ジェイルは両手に持った曲刀を振り下ろすとラットの頭部に命中、頭蓋骨を断ち割り深手を与える。

 更にエルロンドが細剣で肺を刺突するとラットはその場に崩れ落ちた。

 続いて柴から手斧を受け取ったボルダンがラットの側頭部を《強打》するとラットは鳴き声を上げながら怯みあがる。

 更にはシャルダンがもう一方のラットを剣で切りかかるが、ラットは素早く横っ飛びしてその剣を回避した。


「ちょこまかと!」


 ボルダンの殴りつけたラットが激昂して襲い掛かるが、突き出す牙は明後日の方向へと飛んでいく。

 シャルダンの相手にしていたラットは彼女に馬乗りになると覆い被さりながら牙を腕に突き立てる。

 血を流し呻きを上げるシャルダンから、すかさず美紗がラットを棍棒で殴打し引き剥がす。


「決めるぞ! 南君は眠っているラットに止めを!」

「はい!」


 ジェイルの曲刀が棍棒で殴打されたラットへと襲い掛かる。

 片腕を吹き飛ばされたラットは地面をのたうちながら、鮮血を周囲に撒き散らす。

 追撃にシャルダンが朦朧としながらも頭部へと突きを放つ。

 これが致命打となり、ラットは床を横転しながら息絶えた。


〈凍つく光〉


 愛音が後衛から魔法で支援するとラットの顔面が完全に凍りつき視界を失う。

 更にはボルダンが振りかぶった手斧によって、首から上を吹き飛ばされ一瞬にして絶命した。

 南達は眠っているラット達の首を切り落とし止めを刺すとm無事戦闘は終了した。

 戦闘が終了し状態異状が解除されたボルダン兄妹一息を吐く。

 深手を負ったエルロンドに中衛から美紗が歩み出ると、光る掌を患部に当て彼の傷を治療する。


《治癒の光》


「あれ? 美紗レベル上がった?」

「まだよ。 辻ヒーラーのお爺さんに教示を受けたの」


 クソゲークエストのシステムでは能力別に経験値が設定されており、レベルアップを行わなくともある程度のアビリティは訓練次第によって身につける事が出来る。

 またスキルの場合は金銭を支払い、ギルドの教習を受ける必要がある。

 美紗の治療が終わるとエルロンドの出血は完全に止まり、傷の幾分かは治すことに成功した様だった。


「有難う、助かるよ」

「いえいえ、こちらこそ」


 失った剣の代わりとなる予備の武器を持ち替え、ジェイル達は一旦体制を整えると更なる迷宮の先へと踏み入った。


―――――

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