ヘンの迷宮3
―――――
鎌倉が斥候に立ち、通路を歩いてゆくと再び目の前に扉が現れた。
鎌倉がドアに耳を当てると敵が居る事に気付いたのか、手信号で仲間達に伝えサントスが扉の前に立った。
次の瞬間サントスが扉を蹴破ると、南達は部屋の中へと雪崩れ込む。
そこには広さ十メートルほどの広さの部屋に約十二人のオークが存在。
南達に不意を突かれ、慌てた様子でこちらを振り返った。
すかさず愛音が手を振り上げ呪文を唱える。
《眠りの雲》
十二人のオークの内、四人は意識を失うように倒れ込む。
すかさず南達はオーク達に攻撃を開始した。
南は椅子に座ったままこちらを見ていた、オークの椅子を足で払いのけると転倒させる。
サントスが大声で《喝》を上げると、武器に取ろうと腰を下げたオークに蹴りを見舞い木製の椅子を武器代わりに顎を粉砕した。
「寝ている奴は無視だ。まず数を減らす!」
「頼んだぞ、サブ!」
両手に曲刀を持ったサブが大上段に構えると、腰溜めに振り払いオークに深い手傷を負わせる。
続けて理沙の棍棒を顔面に浴び、地面へと崩れ落ちた。
鎌倉が権を抜いたオークの横をすれ違い様に切りつけると、オークの首から音もなく血飛沫が吹き出す。
やがて体勢を整えた一際体躯の大きなオークが《咆哮》すると反撃を開始する。
「武器を抜かせるなァ!」
叫び声を上げて前に出る柴は振り下ろされるオークの剣を手斧で弾くと、返す腕でオークの頭を刎ね飛ばす。
続いてサブに向かって突きかかってきたオークの剣が彼に掠るとバランスを崩し、追い討ちを掛けてきたオークに胸板を切りつけられ手傷を負う。
「サブ!」
「サントス、前を見ろ!」
猛烈な勢いで突進してくるオークリーダーの一撃で壁に叩きつけられたサントスは、あわやという所で身を捻り襲い来る曲刀を回避。
南の眼前にいるオークは投槍で突きかかると南は難なくそれを避ける。
槍の穂先を足で踏みつけ逆にオークの自由を奪い胸板を蹴りつける。
「HEY! このデカブツは俺達が始末する。頼んだぞ!」
《凍つく光》
愛音の唱える魔法が眼晦ましとなり、オークリーダーは慌てて後退する。サブはその隙を見逃さなかった、猿叫を上げながら曲刀を打ち込み袈裟切りに斬りつけると、臓器に達するほどの大きな裂傷を与えた。
とどめとばかりにサントスの飛び蹴りが直撃、オークリーダーは上半身を弾かれたように吹き飛ばされ転倒。
そのまま絶命した。
戦意の下がった四体のオーク達が怯むと、一人は眠っているオーク達を起こしに掛かる。
投槍を持ったオークは愛音に向かって投槍を投げつけると、間に割って入った南が投槍を空中で掴む。
更には身を反転させ逆に投擲、吸い込まれるように投げたオークの頭部に突き刺さり、うつ伏せに倒れ込む。
“奇跡”のようなアクションに一同が目を丸くするが、当の本人が一番驚いた様子だった。
「……これで終わりのようだな」
机に下を潜り何時の間にかオークの背後に回っていた鎌倉が、仲間を起こそうとしていたオークの首を掻き切っていた。
残るは未だに眠り続ける四体のオークと起きている者が一人。
オークは覚悟を決めて柴へと襲い掛かるが小盾を顔面に浴びせられ、朦朧とした所を手斧で首を切断されると机の上へと仰向けに倒れ込んだ。
「さっきより数は多かったのに随分と楽でしたね」
「どっと疲れた。早く帰りたい」
「まぁまぁ、後はこの部屋を探索して終わりだから」
疲弊して不満を漏らす美紗を愛音が諌めると、部屋内部の探索が始まった。
先程倒されたオークリーダーはこの階層のフロアボスであった。
やがて室内から地下への扉を開く鍵と巻物が二巻発見される。
「オーク達が書いた訳ではないですよね?」
「なにやら不穏な空気を感じるな」
南はオークには不釣合いな持ち物に違和感を感じると、鎌倉もそれに同意した。巻物の中身は《幻惑の現身》使用したキャラクターのアバターを自由に変えることが可能な巻物だ。
しかしながら、こうした魔法の道具は大抵未鑑定で発見される物の為、鑑定技能を用いて〈鑑定〉を行う必要があった。
だがここで愛音は開いた巻物の〈鑑定〉に失敗、彼女には巻物の中身が文字化けして見えていた。
「幻わ5Qゅ? 全然読めないや……」
「俺知ってるぜ! こういうのは使っても識別できるんだよ」
「ちょっ!? 待ってくれ柴!」
ローグライクの知識を持って巻物を起動する韻を口にすると、対象範囲がパーティ全体になっていた為に南達は術に巻き込まれる。
体が光に包まれやがてその光が収束すると、小学生位の年齢の児童四人がお互いの顔を見合わせていた。
青みがかった黒髪にくりっとした目が幼さを感じさせる。
丸みを帯びた輪郭の少年、南を見て愛音が思わず声を上げる。
「カワイイーッ!」
「えっ? あれ……ボクなんでこんなに声が高いの?」
金髪に近い橙の髪色をしたはねた髪の少女、愛音が南の体に飛びつくと、南は自分の体の変容にようやく気付き自らの顔を弄る。
頬がマシュマロのようにふにふにしていて、まるで赤ん坊の頬のようになっていた。
やや緑が強い鳶色の髪をしていた柴は癖っ毛の頭を撫でながら、自分の低くなった身長から幼少時の記憶を述懐し血の気が引き青褪める。
腰まで伸びた赤毛の長髪をした仁王立ちの美紗に見下ろされている事に気付くと、慌てて両手を上げて降参した。
「こんの、おバカッ!」
「あいでーッ!」
こちんという音を立てて、美紗の拳骨が振り下ろされると柴は唸りながら頭を抑えた。
―――――