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ヘンの迷宮2

―――――


 サントスは自分自身に《喝》を入れると、渾身の二連撃を放つ。

 顎と腹部をそれぞれ捉え、オークは腹を抱えてうずくまる。

 すかさず柴の手斧がオークの後頭部を直撃すると、叫び声を上げて体を持ち上げた後に絶命した。


「グォォォ――ッ!!」

「ディズッ!」


 オーク語で何事かを口走るとオークの振るった曲刀が柴の身に迫る。

 次の瞬間、通路の天井にまで鮮血が舞い上がり、美紗の悲鳴が響き渡る。

 オークの振るった曲刀は肩口から腹へと綺麗に抜け、柴はそのまま床へと力なく倒れ込んだ。

 すかさず南は《疾走》し、前線のカバーへ入る。

 愛音は柴の脇に手を入れ引き摺りながら後衛へ下げると、治療薬を取り出す。


「愛音!?」

「まだ息はあるよ! 大丈夫!」

「こいつゥッ!」


 美紗が柴を切りつけたオークへと飛び掛ると、全力で振り回した棍棒が脇腹へと命中しバランスを崩した。

 すかさずサブの剣が追撃し、オークの腹部を切り裂く。

 しかしオークは腹部から臓物を覗かせながらも呻き声を上げ、こちらを睨み返している。

 鎌倉の短刀が煌くと、オークの頭部は睨みつけた表情のまま首から血を吹き、座り込むように地面へと倒れ込んだ。

 二体のオークは若干怯んだ様子を見せたが互いに顔を見合わせると、負傷した柴達を庇うように立ち塞がった南を次々と切りつける。


「ちッ!?」


 南はオークの攻撃を飛び退きながら回避するが、足に裂傷を負ってしまう。

 そして着地しようとした瞬間“不運”は起きた。

 南は迷路内に自生しているコケに足を取られ転倒、踊りかかってくるオークの剣を避けきれず咄嗟に腕を交差させて頭部を庇う。

 交差した椀部に振り下ろされるオークの剣が肉に食い込み、思わず南は呻き声を上げる。


「南君ッ!」

「大丈夫だ、痛みはない!」


 愛音の呼び声に南は余裕を持って返答する。

 通常であれば激しい痛みを感じるであろう傷、全く感じない訳ではない。

 南は蹴りを入れてオークを突き飛ばすと、その場から跳ね起きて身構えた。

 そして走り寄ってきた鎌倉達の反撃が始まる。


 南に蹴りを入れられバランスを崩したオークに鎌倉が走り込み短刀を振るうと、急所を狙い澄まし頭部に裂傷を負わせる。

 続いてサントスの拳がオークのこめかみに衝撃を与え、バランスを崩したオークに美紗がとどめを指す。

 最後の一体にサブの剣が振り下ろされる。

 オークは自らの剣で受け止め、なおも果敢に戦おうとする物の多勢に無勢、集中攻撃を受け遂には膝を折った。





 二階の広場へと引き返し戻ってきた一行は、待機していた辻ヒーラーの男から治療を受ける。

 男は柴の治療を終えると禿げ上がった頭を撫で上げながら次の負傷者の治療に当たった。

 周囲には十人以上の冒険者達が集まっていたが無傷の者はほとんど居らず。

 モンスター達の激しい抵抗を感じさせた。


「すまないな、余り役に立てなくて……」

「いえいえ、鎌倉さん達が居なかったら全滅していた所です」

「ねぇ今日はこの辺りで引き上げない?」


 弱気になった美紗が恐る恐る声を上げると南に提案する。

 南は考えていた出現するモンスターから考えても、未だ序盤の迷宮である。

 ゴブリンやゴボルドが相手ならば楽かと言われればその答えは否だった。

 例え弱いモンスターが相手でも、徒党を組んで襲われれば極端に不利になってしまうからだ。

 そんな様子を見ていた柴が美紗をなだめるように声を掛ける。


「平気! 平気ィ! ビジュアル的にショッキングだけど痛みはないって」

「でも、ちょっとは痛いんでしょ?」

「生産職に絞るという手もあるけど……」


 石床に腰を下ろしていた柴はその場から飛び上がると、ボディビルダーのようなポーズを取ると、身体の健常さを美紗にアピールする。

 それを見ていたサブがにっこりと柴に微笑むと、顔面蒼白になりながら慌てて姿勢を正した。


「治療薬をもう一つ貰ってきたよ。あと串焼きの差し入れだって」

「貴重な薬なのに、奇特な人が居るものだね」

「へェ、幾らぐらいするんだ?」

「金貨三十枚」


 串肉に食らいつきながら治療薬の値段を聞いた柴が、思いもよらない価格に串肉を口に咥えたまま固まる。

 無論彼らも慈善事業でやっている訳ではない。

 生産職でこの世界を渡り歩くにしても、採取の度にモンスターに殺害されていては錬金が進まない。

 ダンジョンを攻略してエンカウントレベルを低下させる事は彼等の理に適う行動でもあった。


「あと一戦して今日は帰還しよう」

「南殿、その前に先程のオーク達から剥いだ装備の分配を……」


 曲刀が一振りに剣が五振り、鋲打ち革鎧が一着に加え革鎧が三着。

 南達は鋲打ち革鎧と革鎧を一着ずつ受け取ると、装備を改めて変更する。鋲打ち革鎧を着込んだ柴が苦笑いすると愚痴を漏らした。


「さっきの攻撃でこれを着てればなぁ……」

「瀕死が重傷になる程度の差だろうけどね」

「準備は終わったか? いくぜ!」


 サントスが前方に立ち、先程戻ってきた道を再び進む。

 戦闘のあった部屋ではオークの死体が転がっており、奥には一つの宝箱が鎮座していた。

 南は懐から盗賊道具を取り出すと慎重に〈罠解除〉を開始した。

 箱には単純な鍵がかかっているのみで罠は掛かっていないと踏むと、キーピックを差し込み鍵の開錠を始める。

 しかし宝箱は鍵の開く様子はない。

 時間をおいて二度目も挑戦するがやはり開く事はなかった。

 鎌倉が変わりに身を乗り出して開錠を始めると、あっさりと鍵は開錠されてしまい南はばつが悪そうに頭を掻いた。


「錠前を買って練習するといい」

「面目ないです……」


 宝箱の中身は金貨の山だった。

 約百三十枚の金貨をその場で六十五枚ずつ分配すると先にある扉を開ける。

 通路の先から吹いてくる生暖かい風が南達の頬を撫でていった。


―――――

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