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竜の娘  作者: ゆのみ
9/11

お土産は

宿に戻るとカウンターに宿の主がいた。

鍵を受け取るために向かうと、余程落ち込んで見えたのだろう。


「依頼でも失敗したか?」


そう掛けられた声に視線を上げ、ユフィは思い出す。


「いえ、それより魔獣の肉を持って来たので引き取ってもらえないですか?」


主は荷袋に視線を向けるが、レアリアース特製荷袋は膨らんでいない。


「ほう。ちゃんと狩れたんだな!レグルスたちが嬢さんのこと、期待の冒険者って言ってたぜ。早速持ってきてくれるたあ、ありがてえ」


頑張った子供を褒めるように言う主に連れられて、厨房へ向かう。


主としては上得意の連れである。

それでなくとも小さな子供が落ち込んでいるのだ。

こんな年端もいかぬ子供が冒険者だと聞いて驚いたが、何かしらの理由があるのだろう。

今回が初依頼だとは聞いていたが、随分と時間がかかっている。

普通見習いなら、半日もあれば終わる依頼がほとんどだが、多分この子供は小さな魔獣の討伐依頼を受け、こんなに日数がかかってしまったのだろう。

宿に戻ることもなく、町の周辺を歩き回って疲れたのかもしれない。いや、日数をかけ過ぎたことに落ち込んでいるのかもしれない。

ともかくどんな小さな獲物でも、褒めてやろうと厨房に連れて行くことにしたのだが。



「ここに出してくれるか?」


厨房の隅にあるテーブルに皿を置いたが、子供は困った顔をしている。


「すみません、お皿じゃなくて、大きな容器とかじゃないと入らないと思います」


子供らしく自分の捕った獲物を大きく見せたいのだろうと思ったが、食堂はもう客が入っているし、小さな獲物でそんな手間はかけられない。


「大丈夫だ。この皿に乗らなくなったら別の皿を持ってくればいい」


そう言った主だが、ユフィがしぶしぶと荷袋に手を突っ込んで、その荷袋からユフィ自身よりも大きな肉を出してきたことに、言葉を失う。


ユフィからしてみれば、テーブルの上に置くことすらできない量の肉を持ってきているので、皿に置けと言われても、無理としか言いようがないのだが。

多分、宿の主は、自分のことを子供の冒険者見習いだと思っているのだろうが、ここは現物を見せた方が早いと取り出してみたのだ。


「まだあるんで、どこに置いたらいいですか?」






やっと部屋に戻ったユフィは、ベッドに突っ伏して、枕に頭を擦り付ける。


あれから、宿の主に調理台まで案内され、大きな台の上に溢れんばかりに肉を乗せてきたのだが、厨房の人まで口を空けて驚いていた。


レグルスやマキアスに届けさせれば良かったと思いながら、早く慣れてもらうためにも良かったと思い直す。

しかし今日のギルドマスターとのやり取りを思いだし、完全なる敗北にのたうち回る。


人間と離れて五十年。

あちらは人間としてユフィをひよっこ呼ばわり出来る程の経験を積み上げてきたことを考えれば、経験値の桁が違うのだから渡り合えると思う方が間違いだ。

それでも情けなさは募る。


本当にバレて欲しくないことまでバレたわけでも、取り返しのつかない程の失言をしたわけでもないが、萎縮してしまった自分が悔しい。


そうやってベッドにへばりついていると、ノックと共に扉が開く。


「ユフィちゃん、何してんの?」

「嬢ちゃん、どうした?」


声に驚いてそちらを見れば、マキアスとレグルスが入ってきていた。






「まあ、ギルマス相手なら仕方ないよ」


「あのジジイならしゃあねえぞ」


とりあえず、ギルドマスターに萎縮したとだけ説明したら、二人とも妙に実感の籠った納得の仕方だ。


「ま、とりあえず冒険者登録おめでとう。ランクはアイアン?」


頷いて、「あ!」と声を上げるユフィ。


「どうした?」


飛び起きて荷袋を漁る。取り出すのは木の枝に巻かれた糸である。


「お土産があるの!ちょっと服脱いでちょうだい」


風の精霊を呼びながら言うが、二人からは見えないし、いきなり服を脱げと言われても困惑するだけだ。


「え、何?」


ふわりと糸が浮いて、宙に浮いたまま、するすると絡み始める。

この世界に来てから、ユフィはこういった服の作り方をする。

糸を用意し、風の精霊に頼んで布を織りながら服にしてもらうのだ。

最初の頃はイメージを上手く伝えられずに、ほつれたり、布にならなかったりしたが、精霊は器用なのでイメージさえしっかり伝えれば服にしてくれる。


「服作るから、早く脱いでー」


くすくす笑いながら言うが、ユフィにしかできない作り方だし、戸惑うのも仕方ない。


それでもレグルスは、「脱ぎゃいいんだろ」とあっさり上半身裸になると、下まで脱ぎ出すので、「下着は着けててね!!」と慌てるユフィである。


マキアスは驚きながらも脱ぎ、服の製作が始まる。


幾つもの糸が絡まり合い、生地になっていく様は幻想的でさえあるのだが。


「くすぐったいー!」


爆笑するマキアスの方がおもしろい。

いや!とかあはは!と体をくねらせるせいで精霊もやりにくそうなのだが、ユフィが伝えたイメージ通りに形になっていく。


レグルスは苦笑しているが、身動ぎもしない。



当然レグルスの方が先に仕上がって、その服を確かめる。


「随分軽いな。何の糸だ?」


十五分程で仕上がった服は、柔らかい艶のある生地で、非常に軽い。


「深海の森の蜘蛛の糸ー。軽くて丈夫なんだよー。おそろいだねー。」


ユフィは自分の服を引っ張って見せて説明する。


「亜竜と遭ったとき、燃やされちゃってたでしょ?これなら燃えないし、滅多に破れないよー」


深海の森の蜘蛛と聞いて、レグルスは驚いて目を見張るが、マキアスは笑っていてそれどころではない。

驚いているレグルスに、ユフィは得意気な表情になる。


「依頼のついでに寄って来たの。今度は一緒に取りに行こうねー」


にこにこ笑うユフィであるが、レグルスはその価値に目眩がしそうだ。

それでもそういうことをするのがユフィであると納得して、頭を撫でる。


「ありがとな。じゃあ早く行けるように俺らも強くならねえと」


ふふふーと笑うユフィであるが、既に頭の中は勝手に決めた予定でいっぱいである。


「うん。だから、明日から特訓しに行こー!」


機嫌よく誘ってくるユフィに、苦笑しながらも頷くレグルスであるが…。




笑い疲れたマキアスは、しばらくぐったりしていた。









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