お土産ゲット!
三人で組むことを決めた後、ユフィは翌日に依頼に発つことを決めた。
当然のように反対されたが、早く依頼をこなして三人で組みたいというユフィの意思を汲んで、渋々ながら送り出された。
「それにしても律儀よね」
渡されたのは金貨が三十二枚と銀板五枚。
前の世界の価値で三千二百五十万円程だ。
この世界の貨幣価値として、金貨一枚で百万円と換算すると、銀貨一枚が1万円、銅貨一枚が百円となる。
銀貨、銅貨には、それぞれ銀板、銅板という単位があり、銀板が銀貨十枚、銅板が銅貨十枚に換算される。
更に貝殻で出来た貨幣もあり、それは一枚辺り十円の価値として考えればいいだろう。
押し付けられたお金を、ユフィは等分に分けるように言った。
しかし。
「駄目だ。お前が亜竜を倒したのに俺たちまで貰ってどうしろってんだ」
等分でないことに不満を訴えたユフィを、レグルスは即座に切り捨てる。
「でも三人でやっていくんだったら、等分でないと平等にならないじゃない!」
それでも納得が出来ないユフィは、レグルスに詰め寄る。
しかしレグルスも譲れない。
「今回の俺たちの依頼はタルガだった。報酬は2G。それさえ亜竜に遇った時点で無かったようなもんだ。それを受け取ってんだから問題ねえだろうが!」
二人はお互いの顔を睨み合いながら、意見を主張する。
「問題ならあるわ!レグルスたちが戦ってなかったら、私は亜竜なんか気にせず通過してたし、他の魔獣だって倒しても素材の剥ぎ取りなんかしなかったもの」
「倒したのはお前だろうが!お前がいなけりゃ依頼は失敗だったたんだぞ?!タルガの報酬だってお前が受け取るのが筋だろうが!」
バチバチと火花が散りそうな程睨み合う二人に、疲れた顔でマキアスが割って入る。
「二人とも言いたいことはよくわかった。だから、ユフィちゃん、これはやっぱりユフィちゃんが受け取るべき報酬だよ」
きっとユフィは睨むが、それを宥めて。
「だからね、今回はユフィちゃんが受け取って、次回から三人で討伐するときには、等分にするってのはどう?」
今度はレグルスがマキアスを睨む。
「仕方ねぇだろ?ユフィちゃんと行動するんなら、等分じゃなきゃユフィちゃんの負担になる。それでお前はいいわけ?」
そんなやり取りの後、マキアスの提案を呑むことで落ち着いた。
正直、こんな大金を貰っても、ユフィには使い道がない。
それでも、受け取らないという選択肢が納得されないから貰ったものの。
「うん。二人にはお土産を持って帰ろう」
そう決意して、ユフィは走る速度を早める。
深海の森への街道を、凄まじい速度で走る妖艶な美女は、その姿を誰にも見られることなく奥へと消えて行った。
ユフィが足を止めたのは、深海の森付近ではなく、深海の森の中だった。
思い付いたお土産がこの辺りにあったはずだからだ。
森の中と言っても、ユフィの足で一日程。
家族の住む場所からはまだ遠い。
それでも、狼の王である、白銀の毛皮を持つリルクーレや、魔獣化した竜である黒龍はいても不思議ではない。
魔獣とは、どこから湧いてくるのかわからないが、理性がなく凶暴で、他の生物を害して回る獣のことである。
ディルアクロシア曰く、世界の負の感情が産み出した憐れな獣、ということらしいが、傍迷惑な存在であることは変わりない。
家族と住むあの場所でも、少し離れればたまに見ることがあった。
そのときは兄弟たちと狩って食べたものだ。
魔獣化とは、魔獣を倒した際に、負を強く帯びた魔素が発生することがあり、その魔素を取り込み過ぎたものか、己の抱く負の感情に囚われてしまったものが堕ちるものである。
取り込むことで魔獣化するのは、魔素を食事とする、精霊や、竜種、神獣と呼ばれる一部の種族だけであるが、それは稀である。
何故なら取り込む前に浄化すればいいだけで、それは自らの持つ属性に魔素を変換するだけで済むのだから。
それが出来ない状況を思い付けない程、当たり前に出来ることであり、呼吸をするように浄化することは造作もない。
つまり、魔素を食事とするものの中で、魔素が負を帯びていることに気付かない程の鈍感なものか、わざと取り入れたものしか魔獣化することはない。
それにしても量を取り込まなければ問題ないので、知性の高いものは自ら魔獣化するくらいしか魔獣になり得ないのである。
魔獣化すると理性は負の性質に犯され、凶暴性を剥き出しにし、他者を殺すことに囚われる。
そして外見の特長も変わる。目が血走った赤になり、それ以外は黒に染まる。
黒い姿に赤い目が魔獣化した特長なのだが、それと同じ特長を持つ狼族もいる。
彼らは別に魔獣化したわけではなく、本来の色がそれであるのだが、人には魔獣と恐れられる可哀想な奴らである。
他にも黒を纏う種族はあるが、目の色が違うので彼らと違い、見分けるのは容易である。
「みーつけた!」
それは大きな蜘蛛の巣であった。
深海の森にのみ生息するこの蜘蛛は、非常に伸縮性に富み、強度にも優れた糸で巣を作る。
生半可な魔法は打ち消し、引き千切ろうにもその伸縮性で受け流すその糸は、服を作るのに最適だ。
ユフィが着ているのも、この糸で作った服で、子供の姿から大人に変化したところで破れない優れものである。
大人の姿になるとフィットしすぎて、体のラインが丸わかりなのは置いておこう。
ユフィは蜘蛛の位置を確認すると、風の力で本体のみを拘束する。
そうすれば、糸を取るために蜘蛛を傷付ける必要もなく、安全に糸を取ることが出来るからだ。
近くの木の枝を折り、端から糸を巻いていく。
初めは手作業でやっていたのだが、風の力を使えばすぐに終わるので、それを眺めているだけだ。
十分程で木の枝八本が真っ白な糸で覆われる。
必要なのは縦糸だけなので、残された横糸が風に靡いて木々にべたべたとくっついているのは気にしない。
「よし!ふふふ。喜んでくれるかな?」
ちなみにこれは幻の糸と呼ばれている逸品で、物が物だけに手に入ることは稀であるため、市場に出れば金貨の十枚や二十枚ではとても買えない値段である。
それで服を作るなど、なまじな貴族でも不可能であるが、ユフィは知らない。
これなら多少の攻撃から身を守るのに丁度いい、程度の認識である。
ついでに木の実、これも希少価値の高いもの、を幾つももいで荷袋に入れる。
この荷袋はレアリアースのお手製で、容量は竜の棲み家の洞窟と同程度でありながら、荷重は普通の荷袋と変わらないという逸品である。
旅立ちの際、荷袋、ディルアクロシアの爪で作られた短剣、古代の金貨と財布(これも荷袋と同じ仕様である)を渡されているユフィは、それがどのような価値を持つのか知らないままに、家族からの贈り物として大切にしている。
充分とは言えないまでも、満足できるお土産を手に入れたことで、ユフィは深海の森を後にする。
依頼は深海の森の街道近辺の魔獣であり、深海の森の中の魔獣ではないからだ。
ここに来るまでに数体倒したが、急いでいたので手加減が出来ず、素材として使えるのは一体だけである。
肉は取れる分だけ取ってあるので、後で宿の主に渡す予定だ。
残り二体を探しながらユフィは駆ける。
そして獲物となったのは、タルガとシーライ(獅子の魔獣)であった。
これでシルバーランクの魔獣三体。
依頼達成である。
「初依頼達成!ユーフィリアエーゼ、冒険者として一歩前進です!!」
妖艶な美女は、「よっしゃー!!」と雄叫びを上げて街道を戻っていく。
帰り道でそれ以上魔獣に遭うことがなかったのはその雄叫びに怯えたからではない、はずだ。
その頃の二人。
「ユフィちゃん今頃戦ってんのかな」
「だろうな」
たった数日しか過ごしていないのに、違和感がある。
今まで二人でやってきたが、依頼以外でこんなに共に過ごすこともなかった。
互いに縛るものもない二人である。
同じ時期に冒険者を目指し、似たような境遇で、なんとなく組んで依頼を受けるようになった。
同じ宿を常宿としても、部屋を同じにするわけでもなく、最近では月に二、三度、依頼を受けて行動するだけ。
勿論、お互いに対し信頼はある。
依頼が終われば酒を酌み交わしもするし、戦友として、腹の底から認めてもいる。
だが、ユフィがいなければ、今回だってギルドで報酬を貰った後は飲んで、また依頼まで別行動を取っていたはずだ。
「お前、世話焼きなのは知ってたけど、ここまでとは知らなかった」
「お前こそ、厄介事嫌いなくせに、嬢ちゃんに振り回されてんじゃねえか」
「あれで年上ってのは詐欺だよな?」
「ああ。餓鬼みてえに何もしらねえくせにな」
「…神竜様に加護された村、あると思うか?」
「ねぇだろうな」
「だよな。ユフィちゃんはどうやって生きてきたんだろう」
「さあ?そのうち嬢ちゃんから話してくるだろ」
「そうだな。ま、待つしかないか。…よし、飲みに行こうぜ。宿に篭りっきりってのは性に合わねぇ」
「一人で行け。俺はここの酒場で充分だ」
「いいだろ?たまにゃ綺麗な花を見ながら飲むのもいいもんだって」
「面倒臭え」
「ほら、行くぞ!今日は飲み明かす!」
テーブルに置かれたレグルスの財布をしっかりと持って、マキアスは扉に向かう。
仕方なくレグルスは立ち上がるが、その表情は苦い。
反対にマキアスは嬉々として、足取りは軽かった。
マキアスが後悔するまで一時間。
そこで何があったのかは謎にしておこう。
「…レグルスなんか連れて来るんじゃなかった」
「帰りてえ…」